ギフママ！ ーギフテッドと揄怪な大人たちー

第8話 ギフテッドは迫害されている！なギフママ

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「いい加減にしてよ！！」

私はスマホの画面を見ながら叫びそうになった。

またギフテッドのニュースが話題になっているのだ。

いつもいつも新聞やテレビ、ネットニュースでギフテッドが取り扱われると、SNSのツミッタは荒れる。

ギフテッドのことなど一つも知らないくせに、

「俺の考えるギフテッドは〜」

「本当のギフテッドとは〜」

などと勝手なポストが乱立するのだ。

ギフテッドでもないくせに！

ギフテッドのことなど何も知らないくせに！

ギフテッドを育てることの大変さなんか分からないくせに！

私が煮えくりかえるような怒りに満ちていると、早速ツミッタのギフママが動き出した。

算数マニアママン @mamangifmaman 9:30 2023/04/13

「また嵐が来る予感www」

あーまた算数マニアママン…。

失速ギフ君のママにはもう関係ないと思うけど…。

この人、自分の子どもをギフテッドというけれど、本当かしら？

だいぶ小さな頃に知能検査を受けたというけれど、小さな子はペーパーテスト、いや読み書きが少しできるだけで高い数値が出るのよね。

だからWiskitは、どんなに小さくても、せめて小2から受けるように勧められている。

（この人のお子さん、小学校に入ってすぐにWiskitを受けてるから怪しいものよね

もう小学校4年生なんだし、もう一度受けてみたらいいのに）

彼女の息子は小1で算数ゴリンピック入賞。

一時は熱狂的なファンがつくほどギフママ界ではカリスマ的存在だった。

だかしかし。

今やその影はこれっぽっちもない。

小2のゴリンピックではなんと入選もしなかった。

別の小1のお子さんは入賞していたというのに。

さらに驚いたのが小3の算数ゴリンピックの辞退。

勝ち確のゲームしかしないチキンと分かったのだ。

あれだけ偉そうに算数について語り、算数の学習方法やイベント、書籍を紹介しまくっていたにも関わらず。

もちろん彼女は笑い者。

発言力もフォロワーも失ってしまったのだ。

ギフテッドが話題になり、炎上しやすい今、正直にいうと彼女のような中途半端な存在は面倒だ。

幼児期に高IQと分かり、小さな頃にだけ華々しい経歴がある。

しかし、年齢を重ねれば重ねるほど凡人化。

このような子どもを見て、ギフテッドを知らない人たちは大喜びする。

「ほらただの親バカだ！」

「勘違い！」

「ただ早熟だっただけ！」

「自称ギフテッドwww」

言っておくがギフテッドネスは一生あるもので、消え去ることはない。

ギフテッドに生まれたものは、そのギフテッドネスを永遠に持ち続けるのだ。

早熟だとか、２０歳過ぎればただのひと…なんてことは一切ない！！

確かにアンダーアチーバーになることもある。

自分のギフテッドネスにより、周囲から浮いてしまい、せっかくの強い意欲を失ってしまい、学業やその他でも不振になってしまうのだ。

決して本人の問題ではなく、周りのレベルが低いために起こってしまう「被害」なのだ。

それをまるで子どもが大したことがなかったように言うなんて。

ちょっとくらいギフテッドを調べなさいよ！

学校の教師ももっと勉強してほしいものだわ！！

こんなギフテッドに対する無知が蔓延(はびこ)る中で、算数マニアママンは鼻つまみ者だ。

彼女の子どもは発達障害もなく、学校にもしっかり対応してもらえ、登校だってできている。

にも関わらず、パッとしないどころか下降の一途。

（ギフテッドは白い目で見られやすいんだから、もうちょっと隙を作らないようにしてほしいのよね）

彼女がギフテッド撤退してくれたらいいのに、と思わずにはいられない。

ミネルヴァ @giftedgirllove 9:32 2023/04/13

「ギフテッドになぜ攻撃的になるのか分からない…」

ミネルヴァさんのポストに、私は思わずリプした。

♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 9:36 2023/04/13

「分かります！ギフテッドなんて全然キラキラしてなくて、ただ大変なだけ！

地獄の育児生活なのに、何がそんなに羨ましいのか…」

ギフテッドと聞いて、勝手に勘違いして期待しておきながら、罵詈雑言を投げつけられる。

そんな日々のSNS生活の鬱憤を晴らすように私は投稿した。

きっと皆さんもギフテッドを生んでみたら分かるはず。

この圧倒的少数派である子どもを育てる育児の特殊さを！

他の育児の苦労とは一線を画する血反吐を吐くような育児の辛さを！！

なのに！

ギフテッドもろくに調べないで、勝手に「オリジナルギフテッド理論」を並び立てられるなんて我慢ならない！

こんなにも無知な人たちが多い中で、どうやってギフテッドを育てろと言うの？！

ゆーまま⭐︎ @IQgifted_mom 9:40 2023/04/13

「凸があることが幸せに見えるんですかね？ギフテッドの苦労が伝わらなくてツライ」　

なちゅらるママ5y&︎2y @natural_care_gift 9:45 2023/04/13

「才能の部分に注目されてしまうのは分かるんですよね。

でも、才能を支えるOEの理解が進んでいないと思うんですよ。

OE、つまり過度激動によってギフテッドは鮮烈に世界を捉えるわけですから、OEに本人も周囲も混乱することあるって、ちゃんと理解してほしい！」

私はみんなの意見を読んで、スマホの前で頷く。

そうなのよね、OEで感情を爆発させたり、異様に怖がったり、一つ一つ繊細に鋭敏に世界を感じ取る子どもの大変たるや！

ギフテッド本人じゃないなら黙っててよ！と言いたくなる。

こっちはギフテッド育児でヘトヘトなのよ！

本人でもないくせに外野が勝手にギフテッドを解釈して騒いで、なんて迷惑なのかしら！

♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 9:46 2023/04/13

「この間はミネルヴァさんに

『なんでギフテッドって分かったんですか？どこで認定されたんですか？』

って、知らない人からリプあったじゃないですか。勘弁してよって感じですよね！」

ミネルヴァ @giftedgirllove 9:49 2023/04/13

「あんなの慣れっこになったけどね⭐︎

伊達にギフテッド界隈に長くいないわよ！」

♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 9:50 2023/04/13

「どうせ自分の納得する基準でギフテッドって認められてないと、ギフテッドって認めやしないんですよ！

ギフテッドは世界で長い間、世界で研究されてきているっていうのに！」

ゆーまま⭐︎ @IQgifted_mom 9:53 2023/04/13

「日本だけ遅れてますよね。

凸があるならもう良いでしょって感じで放置されるし」　

♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 9:50 2023/04/13

「ほんとほんと！もっとちゃんと勉強してほしい！

ギフテッドの苦しみや被害を知ってほしい！

全然ギフテッドなんて良いことないんだから！！」

私はスマホの上で指が踊るかの如く、素早くリプをした。

人の苦労も知らずに、勝手に「自称ギフテッドw」と呼ばれることの悲しさなど分からないだろう。

私の子どもはギフテッドで、不登校になったというのに！！

「おはよう」

リビングのドアが開いた音と同時に、小さな声が聞こえる。

娘の紗羅。中学2年生。

もうすぐ10時になろうという時間にパジャマ姿で起きてきた。

（この子、このまま学校に行かなくて良いって思ってるんじゃないかしら）

私は悪びれもせず、冷めた朝ごはんをパジャマのまま食べようとしている娘を見て思った。

ボブの髪はボサボサの寝癖がついたまま。

今日は歯を磨くだろうか。

お風呂に入るだろうか。

娘はもう不登校4年目だ。

小学校4年生の頃、朝にお腹が痛いと言うことが何度かあった。

熱もなく、咳もない。

ひとまず学校を休ませると、10時くらいには元気いっぱいで、体調不良なんて気のせいじゃないかと思った。

しかし紗羅が5年生になると、朝ベッドから出てこない。

唸るほどお腹を痛がったり、急に泣き出したりする。

しまいに前日の夜から空えずきをして、トイレに籠る。

そして学校を休めると決まると、目に見えて元気になるのだ。

意味が分からなかった。ズル休みではないか。

こんな怠け癖をつけてはいけないと必死になった。

朝の着替えを手伝い、荷物の用意をして、登校に付き添った。

グズグズする娘を急かし、通学路を歩く。

どうしても行きたくないのか、横並びに2人で歩いていたはずが、いつの間にか紗羅が遥か後方を歩いているなど日常茶飯事。

一番の拷問は校門での押し問答だった。

「行きたくない」と駄々をこねる娘の説得。

当時でさえもう5年生。

周りの女の子は仲良しのお友達と靴を履き替え、教室に向かう。

すでに校庭で遊んでいる子たちは楽しそうにしている。

あとからあとから登校してくる子ども達。

まるで幼稚園生のような1年生さえ、親の付き添いもなく、教室に吸い込まれていく。

（1年生だって出来ることなのに！なんでうちの子だけできないの？！）

校門の前でグズグズと2人で言い合いをしているのも恥ずかしかった。

どうしようもなくて娘をグイグイ校内に押し入れたり、

保健室に行こうと誤魔化して、そのまま教室へ連れてったりした。

そうしているうちに、しまいに怠け癖など抜けるだろうと思っていた。

でも、それが間違いだった。

5年生の夏休み前になると、娘はリストカットをして「死にたい」と言うようになった。

手首に赤い線を幾重にもつけ、「学校に行こう」と私が説得を始めようとするとカッターを振り回した。

娘の髪が振り乱れ、紗羅がどんな顔をしているのか全く見えなかった。

娘が大きくカッターを振り上げたので、取り上げようとした弾みに、カッターが手から落ちて娘の頬を切った。

「きゃあああああああああああああ！！」

紗羅はヒステリックに甲高い悲鳴をあげて、頬の血を手でぬぐった。

手についた大量の血を見て、自分の顔を鏡で見た。

鏡に映った血を流した自分を見つめ、娘は言った。

「こんな顔じゃ、学校に行けないね！！」

娘は血がベッタリついた手を見せつけ、嬉しそうな顔をしていた。

もはや、私の知っている紗羅ではなかった。

それから、娘は学校に行かなくなった。

私は困ってしまって、学校の担任やスクールカウンセラーと話をした。

しかし学校は不登校への対応が杜撰(ずさん)で、プリントは週に1回、家の郵便ポストに放り込まれるだけだった。

プリントを届いたばかりの封筒を開けて、提出期限の切れたプリントを見つけると絶望的な気持ちになった。

「あなたのことなど忘れました」

「いなくても大丈夫です」

そう言われている気がした。

カウンセラーもウンウンと話を聞くだけで、何か解決してくれることはなかった。

娘をなんとか宥(なだ)めすかしてカウンセリングに連れて行ったが、娘によると「ただ…なんか、無理するなって」と、特に何もしていない様子だった。

そう！

誰も私を助けてくれようだなんてしてくれなかった！

ある日、娘を家に置いて買い物に出かけた時に、娘の同級生のママさんにあった。

ママさんは私を見つけると

「最近、紗羅ちゃんは学校休んでるの？」

と訊いてきた。

「うん…学校に行きたがらなくて困っているの。不登校…なのかな…」

私は日頃のストレスと孤独に耐えかね、藁(わら)にもすがる思いで告白した。

彼女なら、何か良いアイディアをくれるんじゃないか。

なんでも良いから希望がほしかった。

「えー優しい！休ませてあげるんだ！うちなら絶対許さなーいw」

ママさんは驚いた顔をして言った。

（は？優しい？）

いや、優しさの問題ではないの。

娘が何をしても学校に行かないのよ？

カッターナイフを振り回すのよ？

不登校は休ませてあげてるとか、許すとか、そういう次元の話じゃないの。

私は頭の中で反論がスラスラ出てくるのに、体が硬直して言葉が出なかった。

「まぁそろそろ運動会の練習も始まるし、あんまり甘やかしてると後が大変だよ！」

ママさんは私の肩をポンポンと叩いて、「頑張れ！」と言って去っていった。

私は不登校の実情など全く知らない無知さと見当はずれな言葉に、深く落ち込み、強い怒りを感じた。

（私の育て方が悪いって言いたいの？）

そんなの言われなくたって、今まで何百回と考えたわよ！！

それこそ紗羅が赤ちゃんの時に母乳の出が悪かったのが良くなかったんじゃないかとか、そんなことまで考えて悩んだ！

でも、全然原因なんて分からないし、娘は学校に行かない！

私がランドセルを背負った子が友達と歩いているのを見た時、どんな気持ちになるか知らないでしょう！

あそこになぜ娘の姿がないのかと泣いた私の気持ちなんて分からないでしょう！！

何も知らないくせに、知ったような口聞いてんじゃないわよ！！

ああ、世間は冷たくて無知だと思った。

優しさも理解もない。

ただ取り残され、忘れられるだけなのだ。

私はそれからずっと不登校をしている娘と2人、日中を過ごした。

リストカットを防ぐために見張っていなくてはならず、自分の時間もなければ、心休まる時間もなかった。

少し目を離すと、娘は隠していたカッターナイフを見つけ出し、手首を切っては鼻歌を歌った。

理解を超える行動に、私は頭を抱えた。

夫はそんな私たちを見て、「精神科に娘を連れて行く」と言い出した。

夫の職場に不登校児を抱える人がいるそうで、話を聞いてきたらしい。

精神的に不安定なら、一度病院に行ってみたらどうか、と夫はアドバイスをもらったようだった。

「紗羅が不登校なことを会社で喋った上に、沙羅の頭がおかしいって言うの？！」

私は半狂乱で叫んだ。

普段は何もしないくせに、夫はペラペラと外であれこれ勝手に話して、知ったような顔をして私に指示をする。

あなたが沙羅のリストカットを止めたことなんてあったかしら？！

あなたが登校を渋る娘に付き添ったことがあったかしら？！

私は泣きながら何様だ！と怒った。

こんな扱いはあまりにも酷いと思った。

しかし、夫はいつも私が怒れば譲っていたのに、今回ばかりは珍しく譲らず、予約も取ったと予約票を出した。

「俺が病院に連れて行く」

夫が初めて、娘の不登校と関わった瞬間だった。

今まで戦力にもならなかった夫が、初めて自分から動いた。

私は驚いて「あなたが世話するならいいわよ」と返事をした。

何度か夫と娘は病院に行った。

気持ちを落ち着ける薬とやらを少しもらって飲んでいた。

何かが良くなるかもしれないと期待したが、娘が学校に行くことはなかった。

そして、ある日。

夫と娘が病院から帰ってきて、2人は私をリビングテーブルに呼び寄せた。

椅子に座った私の前にはWiskitの紙が出されていた。

「FSIQ140 非常に高い」

と書かれていた。

特に言語理解が突出して高く、鋭い山のようになっていた。

「海外では優秀な人はギフテッドと呼ばれていてIQが高い。そして、紗羅はギフテッドレベルの知能があると分かったんだ」

夫は検査結果を見せながら私に言った。

ギフテッド？

私はびっくりして検査結果をみると、

「紗羅さんは突出した言語理解能力を持ち、ギフテッドと考えられる」

と心理士の所見が書かれていた。

「知能が高かったり、凹凸が激しいと生きづらさを感じやすいんだ。

それによって、うつ病になったり、神経症になったりすることもあるらしい。

先生の話によると、無理をさせず、好きなことを伸び伸びとさせることがいいらしい」

夫がそう言い、そっと娘の背中をポンポンと叩いた。

「お母さん、私ね、友達とうまくお話しができない。楽しくないって言われる。

私はしばらく家で勉強したい。

少し、人とは離れて勉強していきたい」

久々に娘が長く話したと驚き、娘が高IQだということにも驚いた。

確かに成績は良かったが、特に秀でたものもなく、娘を高IQと見たことはなかった。

しかし。

娘は高IQで、高IQゆえに生きづらく、そして不登校になったのだ。

まさにギフテッドの典型例らしい。

夫と娘に家で勉強させてほしいと頼みこまれ、私は了承した。

彼らがなぜそこまで、無理やり登校させないでくれと言うのか分からなかったが、ギフテッドならよくあることなのだそうだ。

（ギフテッドなら不登校は普通）

そう思うと、なぜか今の状況がそんなに悪いものでもないような気がした。

ギフテッドなのだから、仕方がないのだ。

そう、私のせいではない。

紗羅が不登校になったのは私の育て方ではく、ギフテッドだからなのだ。

それから私はギフテッドについて調べ、あれもこれも娘に当てはまると知った。

こんなにも娘はギフテッドの特徴に当てはまり、OEもあり、IQが高く、学校生活にも苦労している。

紗羅はギフテッドだったのだ。

不登校は必然だったのだ。

その後、私はギフテッドの特徴、つまりギフテッドネスに理解を深め、今は二人三脚で不登校生活を楽しんでいる。

本当は中学に入れば、不登校を脱却するかもしれないと期待したが、やはりギフテッドネスは永続的なもののため、不登校も続いた。

せめて大学は行ってほしいので、高校はなんとか通ってほしい。

こうやって私は苦労の果てにギフテッドに辿り着き、ネットで情報を集め、SNSでギフテッドを育てるギフママたちと出会った。

SNSには色んなギフテッドやギフママがいて、一概にギフテッドとはこうだ！とは言えないと思った。

でも、みんな何か困ったことや不都合から検査を受け、高IQが判明してギフテッドに辿り着いた人ばかり。

苦労人なのだ。

決してギフテッドという言葉が嬉しくて擦り寄っているわけではない。

所見にもギフテッドと書いてある。

なのに、なぜこんなにも無知に晒されなくてはいけないのか。

こんなにもたくさんのギフテッドを目にして、ギフテッドの基準など簡単に決められるわけがない。

認定されないのだから自分で辿り着くしかないのに。

ギフテッドには才能がない人もいるし、

IQがそんなに高くない人もいるし、

勉強ができない人だっている。

社会に不適応になる人もいる。

不登校になることだってある。

でも、ギフテッドネスがあるからギフテッドなのだ！

才能ばかり求められたって困る！

♪まき♪不登校を楽しむ親子 @BIGbrave 9:50 2023/04/13

「ま、ギフテッドでない人には分かんないよねー。別に呼び方なんてなんでもいいけど」

この苦労も理解されず、私たちギフママは迫害されるばかりなのだ。

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