第24話 追手(別視点)


 「くそっ、アベルの奴、今までの恩を仇で返しやがって」

――ドカッ


 アベルが街を出て三日後、怒りの収まらない司教はずっと荒れていた。もう部屋は目茶苦茶で誰も矛先が自分に向かないよう、中には入らず外で様子を伺っている。すると一頭の白馬に跨った騎士が入口に乗り付け、颯爽と降りて部屋へと進み扉を開けた。


「おお!ザック。来てくれたか」

「お呼びとあらば何処へでも参上いたします司教様」

「うむ、良い心がけだ」

「それで手紙の内容は本当でございますか?」

「ああ、本当だ。アベルは今まで猫を被っていたのだ。それが今回わかって詰め寄った所、逃げ出した。これは教会の権威を揺るがす著しい事態だ」

「あのアベルがですか?」

「君も騙されていたのだよ。彼は治療費の御布施を教会に収めず、自らの懐に入れていた。それがバレて私が問いただそうとしたら、教会から逃げていったのだ」

「なるほど……それで私達は彼を捕まえればよいのですか?」

「その通りだ。しかし抵抗するようであれば容赦はしないで欲しい。彼より君達の安全が最優先だ」

「わかりました。それでは準備を整え次第、明日にでも部下達と足取りを追います」

「頼むぞ、これは少ないが君の部下達への酒代にでもしてほしい。」

「ありがとうございます。それでは」

「ああ、よろしく頼む」


 そういって教会を後にするザック。


(遅かった……我慢の限界が来てたのか。すまん、アベル……)


彼は教会の中でも特殊な役職についている。南方教会聖騎士団団長 ザック・カーマイン。


 聖騎士とは、教会の脅威に対してこれを迎撃、排除するために作られた組織だ。幼少時、治癒士の才能がある子供達の中でも、体格や武術の才能に優れた者が選ばれ、訓練を施される。その中でも特に優秀な者が騎士となり、そうでなかった者は正兵となり、教会施設内の警備などにつく。


 しかし彼らには、もう一つの役目があった。それは内部腐敗の監査である。教えに背き、私利私欲に走り、民への貢献を疎かにする者への断罪。


その対象が自分とも知らず、司教はザックに、あることないことを話していた。勿論、彼は知っている。現在の南方教会が腐っていることに。


 彼は幼少期からのアベルの友人だった。勿論、仕事上、その関係を表立って知られぬ様にはしていたし、二人で会う時はお互い仕事を忘れ楽しんでいたのだが、ある日アベルはザックに告げていた。


「俺……もう……限界かも……」


酔った勢いで言ったアベルの一言。悲しそうな表情そのままに寝てしまう。その言葉と表情に疑問を持ったザックは、聖騎士団を動かし秘密裏に調べていたのだ。すると、どんどんと出てくる不正の数々と民達からの不評。その対策の準備をしている最中、とうとうアベルは教会を去ったという報が自分に届けられ、その後、原因の司教から呼び付けられた。

冷静を装い、まだ我慢だと自分に言い聞かせるザックの腸は煮えくり返っていた。そして、


「作戦を実行する」

「「「はっ」」」


教会の外に出て、待機していた部下達に一言告げた。



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治癒士と薬士見習いの逃避行 SILVER BUCK(アマゴリオ) @amgr69

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