第15話 対価
「治癒士様が目覚めたのでお連れしました」
(笑ったら駄目だ。笑ったら駄目だ。笑ったら……プププ……)
――ドスッ
(おい!)
―ゴホンゴホン
(すまんすまん)
イアンがアベルを連れて商隊のテントを尋ね、入口で中へ挨拶をする。
イアンの言葉使いが、笑いのツボに入ってしまい、フードを被り下を向きながら笑いをこらえるのに必死なアベル。
普段のイメージとはかけはなれ、その上品な振る舞いと言葉使いがあまりにも似合わない。喜劇役者なら満点を叩き出すほどイアンは面白かった。似合わないのは自分でもわかっているが、そこまで笑うかと、イアンは思うのだが、仕方ないと諦める。
イアンは商隊責任者のタベルが、こちらを値踏みするあの目が信用出来ず、尋ねる前にアベルと一芝居打とうと軽く打ち合わせをした。
「アベル、話した感じあのタベルっておっさんは怪しい。お前は教会の高位、そうだなぁ~司教ぐらい偉そうに振る舞ってくれよ」
「うぇ~~~、あいつみたいに俺に振舞えと?」
「出来るだけ金に汚い尊大なクズを演じてくれ。俺は身分を隠した護衛騎士でも演じるからさ。ははは」
「まぁ~イアンがそういうなら仕方ない。しかしそんなに警戒しなくてもいいんじゃないのか?」
「駄目だ、あの目はヤバい。絶対に何か狙ってる感じだ」
「そ、そうか。そこまでお前が言うなら従うよ」
いざ、お互いに演じてみたが、二人共、ここまで笑えることになるとは思わなかった。
「これはお二人共!わざわざ御足労頂き申し訳ございません。どうぞ中にお入りください」
「失礼します。どうぞ治癒士様」
「うむ」
出てきたタベルが二人をテントの中へと招き入れる。
「治癒士様、始めまして。商隊を預かるタベルと申します。この度は治療して頂きありがとうございました。そしてこちらが娘の」
「ジョゼティーヌでございます。どうぞジョゼとお呼び下さい」
(ペコリ)
「これはこれは、ご丁寧に。美しい花が汚される所だったのですね!間に合ってよかった」
「まぁ!そんな……」
(ポッ)
イアンの歯の浮くセリフ。そしてジョゼの手を取り騎士の真似事のように口づけする仕草に、再度ツボに入って笑いをこらえるのに必死なアベル。しかし、タベルの視線が自分を見ていることに気づき、
「イアン殿、それぐらいで」
「はい、これは失礼いたしました」
「あっ…………」
やり取りを止める言葉を口にした。そして、子供達の寸劇だなと、自分の演技にも可笑しさがこみ上げるのを我慢する。イアンが手を離すと、ジョゼはとても残念そうだった。
「それで治癒士様、献金はいかほどお納めしたらよろしいでしょうか?」
早速アベルに本題を切り出すタベル。
「私が苦しむ民を見かねて勝手に治療したこと。献金など不要だ。しかし、護衛達の成果に報いたいが、理由あって今はそれも叶わん身。その救われた命の対価に担った助力をすれば、今後も神の救済がそなたらに訪れるだろう。気持ちで構わん」
(訳 俺が勝手にやったこと。教会は関係ない。しかし護衛が助け、俺も治療してやったから、個人的に金をくれ。相場より安くていいぞ)
「なんという御慈悲!早速御用意致しましょう」
長旅には金がいる。こんなやり方は好きではないが、今迄数多くのクズ共(教会関係者)のやり取りを真似すると、直ぐに話はついた。
しかし、今度はアベルの言葉使いにニヤニヤが止まらないイアン。お互い大根役者だ。
「とうぞ、お収め下さい」
「うむ、今後ともそなたらに神の加護があらんことを」
そこそこ重い革袋を差し出すタベル。それを受け取り、対価を受け取る時の挨拶を返すアベル。二人のやり取りが終わると突然ジョゼが口を開いた。
「あの、イアン様は想い人はいらっしゃるのでしょうか?」
「こら、ジョゼ。はしたないぞ」
「「えっ!」」
とっさにジョゼを叱るタバル。そして思わず揃って驚きの声を上げるアベルとイアンだった。
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