第14話 挨拶
治療が終わったその時、馬車から二人の人物が出てきた。一人は体系まで裕福そうな中年の男性。もう一人は上質な服に身を包んだ若い女性。護衛の一人が駆け寄り何やら話をしている。すると男性は見張りに立つイアンの下へと歩いていった。
「この度は助太刀ありがとうございます。しかも傷ついた護衛達の治療まで。私は商隊の責任者でタベルといいます」
礼と挨拶を伝え手を差し出すタベル。
「冒険者のイアンだ。皆生き残ったみたいでよかったです。加勢したかいがありました」
その手をとり握手をするイアン。
「はい、本当に感謝いたします。先程、護衛から伺いましたが、高名な治療士様も同行されてるとか。是非ご挨拶をさせて頂ききたいのですが……」
「彼は疲労困憊であちらで寝ていますので、今はそっとしておいて頂けると……」
そう答えアベルへと視線を向けると、ティアラの膝枕で寝ていた。
「それは失礼いたしました。起きたら御挨拶させて頂きます」
「はい、それと今回の襲撃に、治癒士の彼はいなかったことにして頂けるとありがたい。私達はやんごとなき身分の方の護衛でして……」
そう、二人が逃亡中だというのに首を突っ込んでしまったのだ。これにはイアンも反省しきりである。
「なんと!それはそれは。わかりました。命の恩人からの頼みです。口外しないよう皆にはキツく言っておきましょう」
「察して頂き助かります」
「私達は運が良かったのですかね。襲われはしたが、全員助かったのですから。それで治療の対価、献金はいかが致しましょう?」
「私には解りかねます。それは彼が起きたら訪ねて下さい」
「わかりました。それでは後ほど」
「はい、また後ほど」
(ふう〜〜〜まずったなぁ〜〜〜)
タベルとイアンの会話のやり取りは、お互い探り探りだった。普段とは違う言葉遣いに疲れるイアン。彼は腹の探り合いは苦手だ。しかし、助けに入ると決めたのは自分である。感情のままに皆を巻き込んでしまった軽率な行動を後悔していた。
イアンが幼いころ、両親は盗賊に襲われ自分を庇い殺された。その復讐心を糧に冒険者になったと言っても過言ではない彼は、冒険者になると他の依頼がある中、積極的に盗賊刈りの依頼を受け、護衛時に襲われれば、必ず返り討ちにするほど強くなったイアン。
今ではイアンの名を聞けば盗賊達は逃げ出す程に名が広まってるのをアベルとティアラは知らない。
見張りを交代してもらい、寝ているアベルの下へ皆が集まる。
「すまなかった」
開口一番頭を下げるイアン。
「無視は出来ん」
「仕方ないんじゃない?」
「そうそう。盗賊とイアンの組み合わせだからしょうがないわよ」
特に気にしてないという、パーティーメンバー達からの言葉に感謝しかない。そんなやり取りをアベルを快方しながら見上げるティアラには眩しく映っていた。
「うっ…………」
「あっ、目が覚めたのね。アベル大丈夫?」
目覚めたアベル。目を開けると夜空の一緒にティアラの心配そうな顔が大きく映る。そして後頭部には心地よい柔らかな感触。視線を動かすと、イアン達四人が近くでニヤニヤしながら自分を見下ろしている。
「あ、ああ……」
「顔が赤いわ。まだ体調が優れない?疲れで発熱してるかも?」
「いっ、いや、少し怠さはあるが、もっ、もう大丈夫だ」
「念の為にこれを飲んで。魔力ポーションよ」
「わ、わかった。ありがとう。起き上がってから飲むよ」
そうではないが、本当の理由が話せないアベル。寝返りをうち、ティアラの膝枕から出ると、ゆっくりと立ち上がり、もらった魔力ポーションを一気に煽る。
「ふう〜〜〜改めてありがとうティアラ。それと治療中にはキツく言って悪かった」
「そ、そんな!私こそ動けなくなってしまって……」
お互いにバツが悪いらしい。そんな時はあなたの役目よと、イアンの脇腹を肘でつつくナタリー。
「ああ〜今日はここで野宿だ。準備するぞ。アベルは俺と一緒に来てくれ。責任者が挨拶したいそうだ」
「わかった……」
「浮かないかとするなよ。大丈夫、面倒なことにはならないさ」
(((あちゃ〜〜〜)))
そしてイアンはフラグを立てた。二人の会話を聞いていた仲間三人は顔に手を当てて揃って天を仰ぎ、ティアラはその光景を不思議そうに見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます