第40話 黒幕の心当たり

もちろん、リイナのその推理を私がしなかったわけではない。

でも、正直その可能性は低いと思う。


だって、儀式直前、私はロベリアがとあるやり取りをしているところを見てしまったのだから……。



「あの子……一度失敗してるし、なんか追い詰められてたみたいだもの。報復を恐れて逃げてる可能性が高いとは思ってる。」



「それに、黒幕は焦ってるはずだよ、作戦失敗して、私は元気なんだから、それに、新しく雇うよりは、あの子を使い続ける方が合理的じゃないかな?それに逃げられて困るのは、黒幕の方だと思うし。」



「だけど、儀式直前に、『失敗は許されない』ってはっきり言われてるのよ?」



失敗は許されないって……そう言うことでしょ?

ロベリアは命を守るために逃げてる可能性の方が高いと思う。


しかし、リイナの考えは少し違うようだ。



「でも、透明になれるんでしょ?いざとなったら、どんなふうにでも逃げられるよ。ある意味、知ってる人間を放置するなんて爆弾。脅して逃すにはメリット少ないんじゃない?だったら、報告という名目で、戻ってくるようには言ってるんじゃないかな?」



「なるほど、口封じをするつもりなら、逃げられたら困るわけだ。」



「『失敗は許されない』って言うのは、報酬がもらえないってことかもしれないし、黒幕がばれることかもしれない、殺されるから逃げたと決めるには早いんじゃないかな?」



なるほど、確かに、もし失敗してたらどうした、と言うのはあくまで私だった場合の話。

黒幕が別の人間に変わってるんだから、必ずしも同じ思考になるとは限らない。

リイナの考えに一理はある。



「だけど、楽観視しすぎじゃないかしら……それは……」



「そうかもしれない、でも、囲ってる可能性を考えて推理したら、あの子の居場所と黒幕がちょっと絞れると思わない?」



その発言に皆がハッとなる。

みんなロベリアの居場所を探そうと考えていたけど、黒幕を突き止めようという考えまでには至っていなかった。


黒幕なんか、もう少し探りを入れないと候補者が浮かび上がってこないと思っていたからだ。



「あの子の居場所より、黒幕を探そうって言うのかい?」



「この段階で黒幕探すなんて難しいだろ?」



「みんな難しく考えすぎだよ。見知らぬ傭われの暗殺者探すくらいなら、私を恨んでる人間を探す方が早いと思わない?狙いは私なんだよ?」



「言われてみれば……」



確かに、あの子の居場所なんて、もう探しようがないのだから、だったらあの子を囲っていることを推定して、当たりをつけたほうが早いかもしれない。


いるかどうかは別として、そちらの方で考えた方が見えるものはあるのかもしれない。



「そもそも、黒幕を叩かないと、後々結局リイナがまた狙われることになる。あの子が見つかるかどうかに関わらず、黒幕を調べる必要はあるしね。」



「リイナ、誰か怪しいと思う心当たりでもあるのか?」



クロウとフィリックのそう質問されると、リイナは少し考えてから、右手の指を3本立ててこういった。



「可能性が高いと思っているのは3人、クレム皇女様、侯爵家のチェルシー嬢、元聖女候補のキャシー嬢」



そのラインアップは、納得のいくものだったい。

いずれも、聖女の地位に関係してくる3人だったからだ。


その3人の名前を聞いて、最初に口を開いたのはフィリックだった。



「クレム皇女はわかるな。リイナ本人としてと言うよりは、聖女の嫁ぎ先が皇族に謀反を起こす可能性を警戒している可能性がある。」



「それは、リイナじゃなくなったところで同じじゃない」



聖女と皇女の確執は、みんな言われなくともわかる。

だけど、聖女はどれだけ候補を消そうと、枠がなくなることはない。

逆に能力がなければ、その席に皇女が座ることができない。


皇族の仲間にしたくとも、皇族の結婚相手としての席が空いていない時点で、確執ができてしまうのは避けられないこと。


それは、リイナだったからどう、という話ではない。

しかし、フィリックの意見は少し違うらしい。



「いいや、今回の聖女候補者の中で、公爵家に嫁ぐ可能性があった令嬢はリイナだけ、公爵家でさえなければ牽制できる算段があるなら、リイナを狙う理由はわかる。」



なるほど、確かに誰と婚約するかは必ずしも聖女とイコールにはならない。

低い地位のものが束になっても押さえつけるのは訳がなくとも、公爵の場合は貴族のリーダーにもなり得て、支持者が集まれば、謀反が実行できてしまう。


聖女が嫁いだ公爵家が、友好的じゃない場合警戒するのは当然……つまり早いはなしということだ。


だとすれば、なるほど。

リイナを消したい、そう思うのもあり得るのかもしれない。


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