第39話 現状できること


「そんなところで何も3人揃って覗き見は、趣味悪いんじゃないのか?」



フローレンス侯爵親子が神殿を後にした後、私たちは、私が泊めてもらってる部屋に集まった。


そして机を囲んで座ると、開口一番フィリックにそう怒られる。


しかし、私たちにも言い分はあったので、素直に謝る前に一言ずつくさしていった。



「人聞きが悪いなぁ……ただ神殿の中歩いてたら君たちの姿が見えただけだよ」



「そうだよ、気を遣ったんじゃん、通りがかりの私たちにを聞かれたくないかなって気を遣ったんだよ?」



「やましい話はしてないぞ?ちゃんと断ってるし。」



リイナの言葉にまずは否定を入れるフィリック。

もちろんそんなことはあの侯爵の反応を見ればわかる。

とはいえ、あんな場面を見て仕舞えば気になるのが人間と言うもの。



「だけど二人っきりであんなところで話してるの見ちゃったら、気にもなるわよ」



だから私はそういってわざとフィリックを責めると、「ねー」と言って私とリイナは顔を見合わせた。

そんな私たちを見て、はぁ……とため息を吐いたフィリックは頭をぽりぽり描きながら、事情を説明した。



「侯爵が引かなかったんだ、娘と二人で話す時間くらいくれって。じゃないと帰らないって。」



「それで、なんの話をしたの?」



「チェルシー嬢とは別に……、父がご迷惑をって……最初からだけど、乗り気なのは父親の方。チェルシー嬢の方は、割り込むのは良くないって叱責してたからな」



「だから話が一瞬で消えたんだよね。覚えてるよその話。」



リイナがうんうんと頷きながら机の上のティーカップを手に取りながら紅茶を嗜んだ。

まぁ、婚約者がいる身としては、それは安心材料ではあるのだろうけれど……

側から見てると、別の感情が生まれてくる。



「なんかそこまで行くと、逆に興味持たれないって哀れだね」



「公爵って爵位で令嬢に嫌がられるって、なんか問題あるんじゃないの?魅力ないとか」



普通、こう言うのって令嬢が取り合うと言う事態が発生するのに、唯一いいよって着てるのが、今のところ親に言われて嫌々きてる娘だけって……寂しい。


そんな言葉の裏を感じ取ったフィリックはムキになって言い返す。



「失礼な、チェルシー令嬢にとってどうかって話なだけで、別にモテないわけではないからな!ちゃんと縁談もたくさ……」



「縁談、あるの?」



「え」



ムキになってモテるアピールをしたところ、リイナの逆鱗に触れてしまったらしい。

リイナは紅茶を啜りながら、不機嫌そうな表情を浮かべ、もう一度聞いた。



「モテるの?嬉しいの?」



「いいえ」



予想外の方面から威圧を受けたフィリックは、短くそう返答した。

リイナはその様子を見て、テーカップをガシャンと音を立てて元の場所に戻した。


なんだかんだ普通を装ってたリイナだったけれど、ちゃんと嫉妬する心はあったらしい。

私はそれに少し安心した。



「まあ、冗談はそれとして、侯爵の方は?なんだって?」



「まぁ、聞かなくてもわかるけど……婚約でも申し込まれたんじゃない?」



「そんなところだ。あえて気を使わずに、一言一句そのまま言うと『もしリイナが聖女にならなかったら、うちの娘はどうか』って話だ……」



「やっぱり……配慮に欠けるわね、娘と大違い。」



今度は私がカップを手に取り紅茶を啜った。


とはいえ、帰ってきてからの状況を見るに、この状況を生み出したのは自分だ。


この……左腕のあざ……呪いが、私の体だけではなく、リイナの運命まで蝕み始めた。


私が庇えば、リイナが無事なら、最悪それでうまく治ると思っていた。

でも、私がいとこだったせいで、それが仇となり……リイナの聖女の立場が危う苦なってしまった。


自分の生み出したシナリオから、大幅にズレていたから、こうまで影響が出るなんて予想していなかった。


いや、作者だということにあぐらをかいて、想像することを放棄していたのだ。


私の命だけなら、まだ猶予はあるけど……リイナの地位を狙う人間は多くいる。

命を奪おうとするのは、黒幕くらいかもしれないけれど、聖女は生まれながらの地位ではない。


特定の魔力を持ち、神殿に認められれば、と言う条件はつくけれど、その条件が見合いさえすれば、女性が努力で勝ち取れる数少ない椅子だからこそ、隙あらば、引き摺り下ろそうとする人間は多くいる。


その人たちは、1日でも早くその席を空けてほしいと願うものだ。


聖女の座を降りることは、リイナにとっては婚約破棄も意味する。


リイナの身と地位の安全を考えるなら、長期戦に何色を示す婚約者フィリックの気持ちがわかった。



「なるほど、さっき神殿の外で会った時のフィリックの表情の理由が、なんとなくわかったわ」



「だからと言って、すぐにどうにかなる問題じゃないよ?焦って呪いの解き方がわかるなら、苦労しないさ。」



「ルナの呪いを解く方法、どうしてもわからないの?」



リイナの質問に、一瞬の沈黙の時間が生まれる。

それは、その質問に対してそうだ……と言っているのと同義だった。



「フィリックも資料室調べるのに時間かかるみたいだし、調べられても結局例の人は死んでるから、呪いの解き方まではわからないと思う。」



「アモルト神父も調べてくれいてはいるけど……もし呪いをかけた本人が研究して作り出したものなら探せないってさ。」



「じゃあ……どうするの?」



「……呪いをかけた本人に聞くしか、方法はない……だからやっぱあの子供探すしかないってことかな」



「だけど今どこにいるかはわかんないんだろ?逃げ回ってるんだったら特定困難だぞ」



「それに、姿隠せる魔法が使える以上、目撃情報を頼りにするのは無理だ」




もうこれは、神殿の外にいる段階で散々話し合われた内容だった。

だから、この呪いについてどうするのか、あの子がどこにいるのかと言う議論は……できることはもう何もないのだ。


そう思っていたのだけれど



「どこかの家に、黒幕に匿われてるってことはあり得ないのかな?」



リイナが別の切り口で話を振ってきたのだった。

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