第26話 魔女はいない。


私は家の中を端々まで見回る。


でも、家の中にはどこにもいないし、物音も聞こえない。


人の気配がしないのだ。

私の後に続いて入ってきたクロウはそんな私を見て声をかける。



「本当にここであってるのかい?」



「間違いないはずよ……少なくとも薬草を扱える人間が住んでなきゃ、こんなに薬草置いてないはずよ……棚の中にも煎じられた薬草が瓶にいっぱい詰まってるし……」



「魔女か薬師がいるのは確かか。なら、手分けして探そう。隠れてるかも……2階があるね……僕はそっちをみてみるよ。」



クロウはそういうと、近くにあったマルタの階段を登って2階へ向かった。



「隠し扉とかあるのかもしれません、床とか壁とかも入念に探しましょう」



クロウが2階へ行ったのを見届けると、リオスは私にそう言って、一回も手分けをしてさがすことにした。


でも、人影はどこにもないし、子供が隠れられそうな場所も見つからなかった。


私は縋るようにリオスの方に顔を向けて質問をする。



「ねえ、隠し扉があるかどうかとか、そう言うのはリオスにわからないの?」



「家の場所がわかったのは、国に住居申請がされていたからです。家の構造まではわかりません。」



「そんな……」


私は腕にあざがある部分をギュッと握りしめる。



ちょっと待ってよ……なんでいないのよ……いないじゃ困るのよ……



だって、ここにいると思ったから……会えると思ったから……



あったらすぐ、呪い解く手がかりがわかると思ったから余裕があったわけで、会えないってなったら……これ、どうすればいいのよ……。



「呪い……そうだ!」



私はパッと顔を上げる。

そうだ、最低でもなんの呪いをかけられたのかさえわかれば、神父が呪いについて調べてくれるかもしれない。


だったら、なんの呪いだったのかさえわかれば…



「リオス、呪い関係の本とか呪術本とか、どう言う類のものは?」



「なるほど……ちょっと探してみましょう」



私の一言で何を考えているのか察したのだようで、本棚にある本を一冊ずつ確認を始めた。


私も負けじとキッチンの方にある本棚を一冊ずつ確認していった。


しかし、どこにもそのような呪いの類の本は見つからなかった。


そして最後の一冊を手に取った時、それが呪いの本であることを祈った。


でも……それは、ロベリアの家に伝わる秘伝の料理本だった。

私は膝から崩れ落ちて愕然とした。


ちょうどその時、上からトントンと足音を立ててクロウが降りてきた。



「上にはいなかったよ……そっちはどう?」



その問いに、私は首を横にふる。


私のその様子を見たクロウは、腰のあたりから便を取り出し、その瓶の蓋を開けた。

そして中身を部屋の中にばら撒いたのだ。



「ちょ……何してるのよ!ここ一応人の家よ!?」



「聖水をまいたんだ、可能性は潰さないと」



「可能性……?」



「姿を消してるだけかもしれないじゃないか。」



「それが聖水となんの関係があるの?」



「この前の儀式で、魔法を使っていたのに、姿を現したのは、参列している人にぶつかって、その人が持ってたグラスの中に入ってた聖水を頭から被ったからなんだそうだ。だからもし、この家のどこかに彼女がいるなら……これで……」



なるほど、だからあの日、ロベリアは変なタイミングで姿を唐突に現したの

そういえばあの時パリンって音聞こえたっけ。


それを思うと、姿を消しているだけの可能性は十分あるだろうけれど……


部屋全体に聖水をかけたにも関わらず、いつまで経っても人の影は見当たらない。


やはりいないようだ。



「なんで……、契約終了後は家に帰るはずなのに……」



「……その夢ではどうなるはずだったんだい?」



このまま突っ立ったままでは何も解決しないと判断したクロウが、私の夢をヒントに解決策を探すことにしたようだ。

予知夢ということを一度認めることにしたらしい。


この状況で何か手掛かりになるとは思えないけれど……でもそのくらいしかやることはないので、わたしはいうことを聞くことにする。



「夢では……私が黒幕に場合は……ロベリアは家に帰ったわ。」



それまでの間はうちに匿ってたけど、任務遂行した後は家にいてもらっても邪魔だから……疑いかけられても困ると言う理由だ。


それに、ルナはこの家の場所を知らない。

作戦決行まで家で匿うのが打ち合わせしやすかったし、用済みになった後は関わらないようにしようと言うのが取り決めだった。



「だから、任務完了後は真っ直ぐ家に帰るように言って……」



「でも、呪いをかけた本人の顔はわかるだろう?家に帰ったら捕まえに来るんじゃ」



「リイナが呪いをかけられたのは儀式中じゃなくて儀式前……一人でいるところを狙われたの。しかもリイナ、心配かけないようにって強がって、ギリギリまで呪いのことは誰にも言わなかったの。だから黒幕が自白するまでの一年はロベリアも平穏に過ごした。」



「最後はどうなるの?」



「リイナを助けるためにフィリックがロベリアを殺すわ。呪いをかけた魔女を殺せば呪いが解けると信じて……」



「でも、それならなんで夢の中のロベリアはこの家に止まったんだい?呪いを解くために自分が狙われる可能性は考えられたはず。」



「私もわからない……でも、私は、ロベリアの家を知らなくて、フィリックがロベリアに遭遇したのも偶然だった。もし、夢の中で正しい順番で進まないと辿り着けない結界がはられていたなら……」



「ここにいるのが一番安全な訳か。」



そう……だから、ロベリアがここにいないはずがないのに……


いったいなぜだというのか……


しばらく考えて、クロウがあることに気がついた。



「待って……君の予知夢では、リイナを呪いにかけることにしたのかい?」



「え……えぇ……」



ロベリアはちゃんと人目につかずにという条件を守った上で、リイナを呪いにかけることに成功している。


だから、死んだのだ。



「そうか……なら、話は変わってくる。」



クロウは何かに気づきそう呟いた。

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