第19話 全ては自分に返ってくる……


「そこ、今は立ち入り禁止だろ」



フィリックは私たちに近づくとそう注意した。



「ルナが散歩したいって」



「決まりを破るのは得意だな……」



リイナのその説明を聞いて、嫌味を言いながらこちらに向かって歩いてくるフィリック。


別にいいじゃないのよ。


あんなことがあった後だし、ここが調査されていることは知っていたけど、この庭園の警備の許可は取ったんだからいいじゃない。


と全部説明するのはめんどくさいので



「私だって、気分転換したいのよ。ちょっとくらい許してほしいものだわ。」



私はほおを膨らませながらこうプリプリと怒ってみせる。

自分がいかに不満に思っているか、ということを遠回りに伝えたつもりだったのだけれど……



「よく今のリイナが許したな……外出」



「渋々だよ、私だって。」



私の不満は聞き入れてはもらえなかった。

リイナすら庇ってくれずに、うるさいから仕方なく……というニュアンスの物言いだ。


元気でもこんな状況だと自由が認めてもらえなくなる、というのはなかなかに悲しい。


こうなると人は不貞腐れる。



「警備の許可は取ったんだから、用事があるなら早く言って。ないならどっかいって。」



だから、伯爵家の人間が公爵家の人間に取る態度ではないが、ここまで付き合いが長く、私たちの間だけなのであれば、問題ないだろう。


フィリックもそう思ったからか、私の発言に特に嗜めることなく、今度はリイナの方に体を向けてこういう。




「まぁ別にいいけど。それよりリイナ、神父が呼んでたけど」



しかも私に用事があるんじゃなくて、リイナを呼びにきただけかい。


まぁ、そうよね。

この神殿で、フィリックが私に用事があるはずがないもの。


さらに不貞腐れる私。


しかし不機嫌なのは私だけではなく、なぜかリイナも同じであった。



「神父様?」



リイナはフィリックにそう返事を返す。



「今後のことについて話があるんだって」



「へー」



無表情のリイナ。


どんな内容であれ、フィリックとの会話の中でこんな無の表情のリイナは珍しい。


そして、リイナはそれ以上言葉を発しないし、動きもしない。


そんな彼女に戸惑ったのはフィリックだ。

芸人だったら、この状況にズッコケているところだろう。


普通「用事がある」「神父様が呼んでいる」と言われたら、普通神父様のところに行こうと動くなり、何か呼ばれている理由なり聞くものだと思うのだけれど……


今のリイナには全くそれがない。



「リイナ……呼ばれてるみたいよ……?」



だから私はリイナにフィリックが言ったことをもう一度伝える。



「だから?」



しかし、キョトンとした顔で私を見つめるりいな。

リイナだって馬鹿じゃない、言葉の意味が理解できないはずがない。



「だからって……だから、神父のところに行けって……」



ようやく感情を顔で表現したリイナ。



「それ……今?」



その表した感情は、不機嫌だった。

眉を顰めて口をへの字に曲げ、婚約者のフィリックを睨みつける。


なるほど、何を言われてるか理解できないふりをするほどに行きたくないと……そういうことね。



「今」



すごく言いずらそうだったけれど、言っても神父様から呼ばれているということは、それなりに大事な用事なのだろう。


ラッキー。


一人になるチャンスだ。



「そう、じゃあ仕方ないわね。ゆっくり行ってらっしゃい」



私は笑顔でリイナにそういって、リイナが離れるのを待ったのだけれど……

離れるどことか、私の腕に巻き付けている自分の腕をさらに力を入れて、こんなことを言い出した。



「ルナも一緒に行こう」



「え?」


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