第16話 自責の念。

「ルナ、気分はどう?」



リイナは私の手をぎゅっと握りしめ



「苦しくない?大丈夫?」



神父は私にかざしていた杖を下ろした。

おそらく治療してくれていたのだろう。


そして、ベッドから少し離れた場所にクロウとフィリックもいたようで、神父とリイナの呼びかけで私が目を覚ましたと気がつくと、ベッドまで駆け寄ってきた。



「体起こして大丈夫か?まだ寝てた方が……」



柄にもなくフィリックが私の心配をしてくれる。

流石に4人に囲まれて、横になっているのを見られるのも気まずい。


だいぶ頭は回っていたし、体の調子も悪くないので、私はゆっくり上半身だけ体を起こした。


とりあえず、私が元気なことを確認できると、クロウはほっとため息を吐いてこういった。



「意識戻ってよかったよ、ダメかもしれないって聞いてたから。」



「ダメって……」



クロウに言われたその言葉を、最初は理解できなかった。

でも、全員のなんとも言えない表情で同じ場所…私の左腕を見ていたから、なんのことか気づくのに、時間はかからなかった。


私はリオスとあった時にそうしたように、服を捲って自分の腕を見る。


やはり、そこには瑠璃蝶々の形をしたあざがあった。

それを自分の腕を押さえながら、苦笑いをする。



「これ……見られちゃったか……」



あれが……ただの夢だったらってちょっとだけ思ったけど……そんなわけにもいかないか。

誤魔化すような笑顔を浮かべると、申し訳なさそうな表情を浮かべて神父が症状を説明してくれた。



「最大限の治療はしたから……頭の方は問題ない。でも、呪いは……ダメもとで聖水ものませたけど……」



解けなかったと……。


そうよね、神様にすら呪いが解けなかったんだから。

いくら聖水といえど、それを飲んだくらいじゃ無理よね……。


あ、でもそのおかげでリオスに会えたのかしら?


なんて、死んだわけでもないのに、また神様に会えた理由をじっくり考察する暇はなかった。



「どうしてあんな無茶したの!?」



リイナは私の肩に両手をかけ、ぐわっと私の方に近づくと大きな声でそういった。

勢いがある行動とは裏腹に、私の肩を掴む手は小刻みに震えていた。


リイナがこんな感情を見せるのは見たことも想像したこともなかったので驚いていると、リイナは項垂れて言葉を続ける。



「私が狙われてたんでしょ?言うこと聞かない私のことなんか……ほっとけばよかかったのに……!」



そして、グズっという音が聞こえる。

私が寝ている間も泣いていただろうことは、リイナの目が赤かったことから想像できた。


それでも、まだ涙は枯れていないなんて……よほど心配をかけてしまったらしい。


だから私はリイナを抱きしめる。



「リイナが苦しむところなんか……見たくなかったのよ。だって……放って置けないじゃない。無事でよかったわ。」



そう言って宥めるが、それでもリイナが涙を止めることはなかった。



「私のせいだ……ごめん……ルナはちゃんと忠告してくれてたのに……反抗して……ちゃんと忠告聞いてたら……こんなことに……」



リイナは絞り出すように、そう言った。


その言葉の後に、その誰も発言することはなく、その場にいた誰もが口を紡ぐ。

リイナの気持ちに共感したのか、それとも自分たちにも共通して罪悪感を感じているのかもしれない。


確かに、話を聞いてくれればと言う思いはあるけれど、それでも最悪の事態はなんとか免れたことは、安心するべきだ。



「もう、気にしないの!どのみち、あの状況じゃ警戒してても逃げられなかったわよ。結果は同じよ。無事でよかった。」



「でも……この呪い……このままだと」



「すぐには死なないわ!今元気だし。そうよね?」



私は自分の胸を叩くと、アモルト神父の方を見る。

とりあえずしばらくは大丈夫だ、という説明をして欲しかったからだ。


リイナだけならともかく、ここにいるメンバー全員がお通やの空気を醸し出してるんだもの。


呪われたのは私だっていうのに、こんな空気出されたら、希望のある話をしてもらうのが一番だ……と思ったのだが、神父が全然何も言ってくれない。



「えっと……死なないわよね……?まだ……?」



私は不安になって、神父に



「なんの呪いか分かってもいないのに、よくそう断言できるね。さっきも言ったように、なんの呪いかわからない以上、私には断言はできないよ…」



ちょっと……!頼りないわね……!そんなこと言わないでよ!

この呪いは死ぬまで1年猶予あるんだってば……!


神様と作者が言ってるんだから間違いないわよ……!

もー……神父様なのになんで呪いのことそんなに詳しくないのよ!


あーあ……やっと泣き止んだのに、リイナの目がまた潤んできちゃったじゃないのよ!


どうしよう……呪いとかそういう知識はないはずのルナが、大丈夫って断言したって、ロベリアのことを忠告した時のように聞いてくれないわ……。


どうやってこの場の空気を変えようか……。


そんなことを考えていると、ぽつりとこんな発言が聞こえた。



「そういえば、昔そのアザの形を見たことがある。」



そう口にしたのは、神父でもフィリックでもなく、意外にもクロウだった。

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