第8話 過保護、過干渉、余計なお世話


「リイナ!」



リイナがいると言われた部屋に飛び込んだ。


着付けの途中で、リイナの周りには服を持った女性が何人かいたが、それを押し除けて着付けの途中で肌着状態でリイナに飛びついた。



「ルナ……何でここに?関係者以外は……」



「私、親族だから、普通に教えてもらえた。」



まさかの事態に困惑しているリイナ。


多分私が、ここに辿り着けないと思ったのだろう。


ここに来るまで時間がかかるし、仮に神殿に入れても、儀式の直前だから、部外者は立ち入れないと思ったのだろう。


しかし残念ながら、あの時リイナの屋敷には馬があり、乗馬ができるクロウがいた。

その上、私は親族なので部外者ではない。


私は神殿にたどり着くと、送ってくれたクロウをほっぽり出して、神官たちに親族だと言ってリイナのいる場所を聞いたら、場所をあっさり教えてもらえたのだ。


実際にそこまでは説明しなかったけれど、察したのだろう。

リイナは苦笑いを浮かべた。


こっちも色々察しているがそんなものお構いなしである。



「置き手紙だけ置いて、部屋がもぬけの殻だったから心配したんじゃない!」



「だって……」



「……ほんとに大丈夫?怪我とかしてない?ここに来るまで変な人いなかった?どこか怪我してない?変なアザとか…」



私はリイナの肩をガシッと掴み、彼女の身体中を見回す。


よかった……呪われた形跡はない。


もし、呪われているのであれば、体のどこかに瑠璃蝶草柄のあざがあるはずだから、それがないということは、本当に何もなかったという証明になる。


元気な彼女を見れば何もなかったことはわかるのだけれど、気づかないうちに呪いをかけられている可能性も考えられたので、確証が持ててホッとした。


しかし、これは私個人の感情、リイナにとっては違うようだ。


なぜそれがわかったか?簡単だ。


リイナがこれまでみたことのないような、鬼の形相で私を睨んでいたのだから。



「もう、ルナいい加減にしてよ!ほんとにどうしちゃったの?過保護なのはずっとだけど、ここ一週間は度を過ぎてるよ!過干渉!」



「か……過干渉!?」



かなり強めの口調でそんなことを言われてしまったのでカチンとくる。

私は、この後リイナがどうなるのかわかっているからこそ心配で、徹底的に不安要素を排除しているだけなのに……なぜ非難されなければならないのか。


と、心の中では思っているのだけれど、言いたいことがあり過ぎて喉に詰まり、口から言葉が出てこない。


しかし、リイナはリイナで鬱憤が溜まっていたのだろう。

そんなことはお構いなしに、反撃の言葉を投げかけてくる。



「それ以外の何だっていうの!?人のこと屋敷に監禁しておいて!しかも何でついてくるの!?自由になりたいのわからない!?」



「あなたのためでしょ!?何度も言ってるように、この前プリスト令嬢が狙われた!!今度狙われるのはリイナかも!!」



「でも根拠がないんでしょ?フィリックも言ってたよ、ルナの考えすぎだって!」



リイナの着付けのために部屋にいた数人の女の人たちは、だんだん険悪になっていく私たちの言い合いを止めようとしていて、この間にも仲裁の声をかけたり、わたしたちを引き剥がそうと体に触れたりしていた。


しかし、もう私たちは2人の世界に入り真剣な喧嘩の段階に突入していたため、そんなものはみえも聞こえもしなかった。


リイナの様子を見るに、溜まっていたストレスが爆発したのは理解できた。

でも、私だってこんな悪戯にリイナを閉じ込めていたわけじゃない。


私はこの一週間、何度も何度も同じことを3人に言ってきた。

さっきもクロウと似たような話をした。


確かに、前世のことを話せないからそれは伏せたけど、聖女候補だったうちの一人が襲われたといえば、みんなわかってくれてると信頼していたのだ。


でも、みんな考え過ぎっていうだけで取り合わない……それは悔しいし、あげくの果て迷惑だと言われて仕舞えば……こちとら堪忍袋の尾が切れる。



「聖女候補だった令嬢が狙われただけで、根拠として十分じゃない!3人とも楽観しすぎ!リスク管理が甘いのよ!」



「そっちが心配しすぎなんでしょ?ここまでくると迷惑!」



「あなたを守るためでしょ!?」



「自分の身くらい自分で守れるよ!!心配の押し付けはやめて!」



リイナはそういうと、私のを自分の体から引き剥がし、軽くポンっと突き飛ばすと扉の方に指を突き刺してこういった。



「出てって」



私は一瞬理解できずにリイナを見つめるが、リイナは真剣にでも静かに怒っている表情を浮かべると、もう一度強く言葉を発した。



「出ていって、ルナの顔見たくない!できれば儀式にも参加しないで!」



本気だった。



そのことに傷つきながらも、せめて何か言い返そうとしたが、彼女の周りにいる着付けのためにいる女性たちが、何ともいえない申し訳なさそうな表情でこちらを見る。


リイナの肩を持つわけではないが、これ以上着付けを遅らせるわけにもいかない……


そんな困ったような表情だ。





だから私は、何も言わずに部屋を出ていくことにするのだった。

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