第21話 本物への軌跡
朝。重い瞼を擦りながら食事をしていると、登校する支度を終え、玄関へと向かう弟の姿を見かける。
「いってらっしゃーい」
携帯でToGの攻略サイトを見ながら、朝の挨拶代わりに、そう言葉を投げかけたが、返事が無い。不思議に思って携帯から目を離し、顔を上げてみると、玄関先から弟の望が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「どした? 望。早く出ないと遅刻するぞ?」
「……兄さん、大丈夫?」
「何が?」
「何って……。昨日の夜、何だか不機嫌だったし……。今だって少し怖いよ?」
「あー……」
弟が心配するのも分かる。
昨日のルナの無慈悲な態度に怒った俺は、ログアウト後、現実世界側が深夜であるにも関わらず、自室でその怒りを爆発させてしまったのだ。
その大声と、物に対してぶつけた怒りの音によって、両親にこっぴどく怒られてしまった。
望はその一部始終を見ていた。
「スゥー……ハァー……」
「どうしたの? ため息なんてして」
「違う、深呼吸だ。それより、昨日はうるさくしてごめん。あの時は、ちょっとイラついててさ。見苦しいところを見せて、悪かったよ」
「ううん。確かにちょっと怖かったけど、大丈夫だよ。何か嫌な事でもあったの?」
「いや、大した事じゃないよ。気にしないでくれ」
「そう? 分かった。それじゃあ、行ってくるね!」
「おう。いってらっしゃい」
全く……。つくづく自分は恥ずかしい人間だ。たかだかゲームで、それもあろうことか、物に八つ当たりをするなんて、見っとも無い事この上ない。
あの夜、親の怒号で我に返って気が付いた。こちらを見つめる弟の悲し気な視線に……。
「やっぱ、このままじゃ駄目だよな」
昨日のルナの言い分も、全く見当はずれな事を言っている訳では無い。むしろガチプレイヤー的には正しい。彼女の横暴で不愉快な態度は人としてどうかと思うが、それや彼女の考えに対して俺が文句を言う権利はそもそも無い。
彼女の言う通り、今の俺は偽物なのだから……。
しかし、このまま黙って落ちこぼれる気は無い。ルナを見返す以前に、俺にはティースの偽物を討ち倒す目標がある。
「今に見てろ……。絶対、強くなってやる……」
朝食を摂り終え、HMDに横たわる。
まず直近の目標としては、ナイトキャンサーのソロ討伐。その為にはプレイヤーランク上げと武器・スーツの更新が必須だ。
武器・スーツは、攻略サイトを見ながらある程度の物を目指す。プレイヤーランクに関しては、四桁を目標に設定しよう。
現在のランクは【23】。まだまだ先は長そうだ……。
「フゥー……。よし! 行くか!」
脳内で目標を固めた俺は、こうして数ヶ月間の強化期間を開始した。
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