第50話 番外編 最終話 レアドロップ
年が明けると、来年の受験に向けて塾に「進路希望調査票」を出す事になった。
俺は塾を辞めようか迷っていた。
たまに”はぐれメタル”に遭遇すると胸が苦しくなるのだ。
あれから半ば投げやりに女子と付き合ったりして一通りの事を行ってはみたものの、夢中にはなれなかった。ただコレって、本当に好きな人としたら、どうなるんだろう?と疑問が湧いた。その時うっかり”はぐれメタル”を思い出して、慌てて脳内から追い出した。
同じ塾に通って、たまに会うからそんな事を思うのかも知れない。塾を辞めたらアイツとの接点はない。もう会う事もないんだ。
でも俺は決心が付かず迷っていた。
迷っているうちに進路希望調査票の締め切りが過ぎてしまい、塾の先生から呼び出された俺はしぶしぶ、事務室へ向かった。
事務室に入ろうとドアノブに手をかけた時、後ろから声をかけられた。
「あのー…。」
俺はその声を聞いて、フルスピードで振り向いた。
だってすぐ振り向かないと、はぐれメタルは逃げ出してしまうだろう?
「あの、これ。遅れてすみません。よろしくお願いします。」
はぐれメタルは俺に二つに折られた紙を手渡した。なんだ?どういうつもり…?告白?まさか…?俺は少し、嫌な予感がしたが、その用紙を受け取った。するとはぐれメタルは口角をすこしだけ上げて笑った。そしてまた俺にお辞儀をして行ってしまった。
自分の顔がかぁっと熱くなるのを感じた。
お前、確実に俺を先生と間違えたな?何考えてんだ、俺は同じ年だ!確かに今日俺は上下黒の服という落ち着いた格好をしていて、場所も事務室前と紛らわしくはあったけど…それにしても…どんだけ俺を老け顔だと思ってんだ!?一回隣の席にも座っただろーが!
この塾でも、俺は結構人気があって女子にきゃーとか言われてるんだぞ。全然、見てないのかよ俺のこと…。ちょっとは見たらどうなんだ、俺のこと…。
俺は複雑な気持ちのまま、はぐれメタルが落とした手の中のレアドロップを眺めた。
その紙は進路希望調査票だった。”上村圭吾 第一希望 内部進学 理系コース “と書かれている。
はぐれメタルこと上村圭吾くんは、理系コースに進むつもりらしい。数学、成績順のクラス分けで最下位のEクラスにいるのに?中高一貫校にいるのだから高校受験はしないはずなのに、何で塾にきているのだろうと思っていたが、数学が苦手なのに理系コースに進もうとしているからなのか?
何考えてんだ…
訳がわかんねー。
こんなピチピチした俺を先生と間違えたり、三話で死ぬアニメキャラの歌を創作して歌ったり、二回遭遇しただけで俺を避けて階段を使わなくなったり。
何で?
…知りたい。もっと。
話したらどんな感じ?さっきみたいに、笑ったりする?笑う時の声はまた違うの?メガネを外して素顔で見つめあったら…?それと…。
事務室に入った俺は「進路希望調査票」に、上村圭吾の学校の名前を書いた。
あの制服、俺も結構似合うと思う。
――そういう理由で、選んだんだ。
同じ制服だったら、流石に間違えないだろ?俺を…。
――これはまあ、オマケみたいな理由だ。たぶん。
好きな人に遊ばれて捨てられたおれのサクセスストーリー(たぶん) ぱんのみみ子 @pannomimiko
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