第19話 リリィ登場   ※実物です。

皇都に入って、馬車が初めに止まったところは私の屋敷、アンガーミュラー伯爵邸だ。

理由は流石にこのボロボロの男物の服で殿下にお会いできないためだ。


「少し着替えてくるわ。貴方たちはどうなさる?ボロボロ…アンベールとエステルたちには屋敷で待っていてもらった方がいいわね」


もう夕方だ。

早く着替えて早く行かなければならない。



私は出来るだけ早く、アリシアの選んだ濃紺の瀟洒なエンパイアドレスに着替えて馬車に戻る。


「やっぱ女だったんじゃん…」


戻ってきた私をみて、少年が呟く。

そういえば、私はずっと二人称で彼と会話していたが、まだ誰も名前を書き出していなかった。


「貴方、名前は?」

「アンリ。当主って意味だけど隠し通されてきた存在だから当主にもなれないし、僕の名前は住民簿にも載ってない…忌み子だから」


彼はまた髪を触る。

どこが忌み子なのだろう。

見た感じ変わったところは何処にもないし、むしろ色白の美少年、という印象をうける。


私は何も言えなかった。


こういうとき、エステルのような性格なら何か的確な言葉をかけてあげられるのだろう。


前に皇子宮に行った時よりも、時間の流れが遅く感じる。


単純に皇宮、皇子宮で使われている最新型の馬車よりも性能が劣っているせいか、それともこの空気から逃げたいだけなのかは、私にもわからない。


「ねえ触らないでよ…!あんたが穢れる」


無意識のうちに私は隣にいる彼の手を握っていた。


「あ、ごめんなさい…」

「別に構わないけど…表面上のやさしさとかは求めてないから」


どこか刺々しい雰囲気の彼は俯きがちにそう言う。


「あらそう。貴方がそう思うのなら勝手になさい、そこに私が関わる資格なんてないから」


突き放すように言ってしまった、間違えた。


「あ、ちょっ!!その言い方は流石に!!」


そこに慌てた様子の、子供の姿のリリィ様(?)が来た。

そのリリィ様(?)は私たちの間に入ってくるとなにやら意味深なことをおっしゃった。


「えーっと……まずはソフィアから、の方がいいかな」

「何が?え……なんで馬車の中に入れたの!?元気に走行中だよ」


急に走行中の馬車に人が現れたら、それがリリィ様でなければ私も驚く。

そんなアンリにリリィ様は優しい、いや慈愛の笑みを向けると私たちの思いの解説を始めた。


「ソフィアはツンデレ……うーん、簡単に説明すると、照れ屋さんってところかなぁ……説明難しいな。」

「リリィ様……」

「だからさっきのは本音じゃないから気にしなくて平気よ」


正直恥ずかしいが、リリィ様は流石だと感心してしまう。


「そしてアンリ!!アンリもソフィアと似たような感じだから拗らせないように!」


言い切ったあと、キリッとしたような表情を作ろうとして失敗したリリィ様の顔がだんだんと赤くなっていくのが、妙に人っぽくて可愛かった。


「もうすぐ着くわね」

「うん……」


そして、先ほどまでリリィ様がいたところにはもう既に何もいなかった。



————————————————————


更新宣言してしまってからかなり遅れてしまい申し訳ございません。


実は投稿し忘れて書き溜めておいた7話分を一括公開しようとした時、全て削除してしまい沈んでおりまして(泣)


これからはしっかり投稿する予定なので引き続きよろしくお願いします。

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