第9話 自嘲

翌朝、私は恥ずかしくて寝台から降りられない事態となった。

何故かベッドの横にエリゼはまだいいが、ロレンツォ様までいるのだ。


こんなサービスは要らない。

アリシアに譲りたいくらいだ。


「ソフィア嬢、睡眠時間が長過ぎるのも体に悪い、起きろ」

「ねえ、ソフィア姉さん大丈夫?コイツに魔力奪われたんでしょ?心配しないで、仇はあとで討ってあげるからね」


というわけだ。

エリゼの方はもはや話が捻じ曲がっている。


「仇なんて無いわよ…」

「昨日は申し訳なかったな…」

「別に、当然のことをしたまでよ。……ぶ、無事で安心したわ!!」


緊張した。

ぎこちなくはあったがやっと言えた。


「……リヒトヒルズはいつ…向かうか…」


逸らされた。


唖然とする私をみて、エリゼが視線で人を殺せそうなくらいロレンツォ様を睨み付けているのが見えた。


「死にたいの?」


すぐ近くに居るはずのエリゼの声が遠く聞こえる。


昨日の件で怒らせた、もしくは傷つけてしまったのかもしれない。あるいは——。

強い後悔の念が私を襲う。


私がもう少し口が上手ければ良かった。


聖女失格だ。


「悪い、急用だ」


嘘。本当は急用なんて無いくせに。

私は面倒くさい女だとつくづく思う。

信じたいけれども——。


疑心暗鬼の己を自嘲する。


「アイツはあとで絶対ブチ殺す」


✳︎ ✳︎ ✳︎



私は浮かない顔で食堂に向かう。


たまたま会ったエステルに声をかけられた。


「おはよう!相変わらずソフィア城はいい布団だわ。……浮かない顔ね、何か…あった?私でよければ相談乗るけれど…」


エステルに相談するかは迷ったが、あの恥ずかしい話を聞いてもらうのは流石にいたたまれない。

親切を無碍にするようで申し訳ないが今回は断らせて貰った。


「ありがたいけれど…今はいいわ、せっかく親切にしてくれてるのに悪いわね…」

「そっか、いつでも相談に乗るわ。私にはそれしかできないから…ごめんね」


謝るエステルに逆に申し訳なさが湧いてくる。


「ううん、逆に、心配かけさせたわ」



✳︎ ✳︎ ✳︎



食堂にはたくさんの料理が並んでいた。

色とりどりの料理に、エステルと話して軽くなった心がさらに穏やかになる。


単純だな、と我ながら思う。

本当はこんなことに心を動かしている暇なんてない。

この力を必要としている人がいるのだ。

 

エルーナの件からお父様は失踪したが、今まで何不自由なく生活してきた私は幸せ者のはずだ。


もういっそのことリヒトヒルズの村を救いに行って気を逸らしたい。


(これも全部私利私欲のためじゃない…純粋な思いで救いに行くべきよ…)


困っている人を出しに使おうとする自分に立腹する。


こんな私は殺人未遂をしたエルーナと同等、いや、それ以下かもしれない。


「お嬢様、どうなさったのですか?元気がありませんが…」


アリシアにもエステルと同じ質問をされてしまった。

皆んなの優しさを実感すると共に、自分がどれだけ頼りのない人であるのかも知る。


「大丈夫、悪い夢を見ただけよ」

「それは…災難でしたね…」


多分、この場にいる誰もが私が誤魔化せていないことに気付いているだろう。

全員が何も深掘りしないでくれていることが唯一の救いだった。




————————————————————

今回も読んでいただきありがとうございます!


実はロレンツォの『悪い、急用だ』は居心地が悪くなって抜け出したわけではなく、ピーマン(子どもが嫌う野菜はほとんど)が苦手すぎるので朝食に入っていないかの確認をしに行っていただけです(笑)



まあ、クズと感じてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが。

ソフィアはかなり拗らせますからね(汗)



余談ですがエミリアノは偶に料理にしれっとピーマンを入れるのですが、その時のロレンツォはこの世の終わりのような顔をします。



これからもよろしくお願いします。


      

              by お茅

 



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