第7話 お茶会と談笑
「ところでお兄さん、恋人はいるの?」
「いえ、いませんが…?」
「よろしい、年齢は?」
「22ですが…?」
エステルは満足げに頷きながらよろしい、と呟いたあと、急に驚いた顔になった。
「22歳!?え?年下なの!?ごめんなさい、あまりにも落ち着きがあるからてっきり27歳くらいかと…」
「彼のお兄様は26歳なので私の妄想には丁度いい年齢差でいらっしゃいます。大好物と言いますか」
私は横にいるロレンツォ様を見る。
すると視線が合った。
お互いにそれに気付くと、彼が小さく尋ねてきた。
「ソフィア嬢、俺はそんなに歳がいっているように見えますか」
正直、返答に困る質問だ。
実のところは今まで年上だと思って接していたが、本人としてはその答えは望んでいないだろう。
しばし考え込んでいると、彼が捨てられた仔犬のような目でこちらを見ているのが見えた。
急かされているようでやめてほしい。
「正直のことを申し上げますと…年上だと思って接していたわね…勿論、悪い意味ではないわ」
「クソ兄貴め…余計なことを…」
エミリアノ様に何か言われたのだろうか。
私が気にすることでもないが。
「エミリアノ様と何かあったのですか?」
アリシアが興味深々、というように尋ねる。
「少し前、『お前は純粋すぎるからもう少し大人の対応をしろ』と言われてな」
彼は再び頭を抱える。
多分、ロレンツォ様の勘違いだと思う。
これも不器用ゆえの勘違いだろうか。
「私が申し上げるのもどうかとは思いますが、私は今の絡み…いえ、対応で良いと思います。いえ、このままになさっていただきとう存じます」
「アリシアったら、妄想は薔薇本だけにしておきなさいよ。お兄さん…じゃなくてロレンツォさん、だっけ?困ってるじゃない」
二人のやりとりによく出てくる“薔薇本”とはなんなのだろう?
植物図鑑が好きでも何も問題はないと思うが。
長年の疑問を遂に私は解消させることにした。
「よく二人の会話に出てくる“薔薇本?”って一体何のこと?植物図鑑の一種かしら」
「男性同士の卑猥な…いえ、
普段のクールな姿とは打って変わって、恋する乙女のような表情でうっとりとしながら説明してくれようとするアリシアとは裏腹に、慌てた様子のエステルが止めに入った。
とりあえず、はしたない本なのは分かった。
「待ったっ!!アリシアちょっと黙るの!純粋な二人の脳内を穢したら駄目よ…」
苦笑いのエステルが嗜めるように続ける。
「それとね、アリシア。そういう単語は人前で言うものではありません。いいわね?」
「私には“腐教”という使命がありますので」
誇らしげに胸を張って答えるアリシアはいかにまずい単語なのかを理解していないようだった。
この二人の会話はいつも姉妹…いや、保護者と子供のように見える。
こんな会話をして楽しくお茶会をしているとわすれてしまいそうだが、私はリヒトヒルズの村に行かなければならないのだ。
恐らく村の住人は今も魔物の襲撃に苦しんでいるのだろう。
早く行かなければならない。
「お菓子も無くなったことだしそろそろお開きね。今日はありがとう、とても楽しかったわ」
「わかりました。お片付けはお任せくださいませ。ああ…これが終わったらアンベール先生様の新作の開封の儀…至福ね…」
微かに頬を紅潮させたアリシアを置いて、私たちは庭園を後にした。
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