姉妹対決の結末
Wildvogel
姉妹対決の結末
「ツーアウト!ツーアウト!」
ピッチャーズサークル内で大きな声で味方に声を掛ける
それからすぐに打者がコールされる。その瞬間、球場内が沸き立つ。
「五番、ショート、
大きな歓声と拍手とともに、
同じ苗字の二人。
実は、二人は同じ血が通った姉妹。
女子ソフトボールインターハイ決勝。朱鷹学園高校対岡平第一高校の試合。
最終回の七回裏ツーアウトランナー二塁。
内野の間を抜ければ同点、外野の天然芝内に設置されたフェンスを越えればサヨナラという場面。
ピッチャーズサークル中心に立つのは妹の舞。バッターボックスで構えるのは姉の佳苗。
真剣な表情でお互いを見つめる。
巡り巡って最終回ツーアウトで姉妹対決という状況。偶然にしては出来すぎている。球場を訪れている誰もがそう思った。
勿論、本人達も。
決勝前夜。
二人は携帯電話越しにこう言葉を交わした。
「手加減なしだからね!舞」
「勿論!全力で向かっていくよ、お姉ちゃん!」
しばらく言葉を交わし、通話が終了。
絶対勝つ…!
二人は携帯電話を握り締めながら夜空に輝く星を眺めながら闘志を燃やした。
そして、迎えた決勝。
真夏の太陽が照り付ける中での試合。
先発投手の舞は初回から素晴らしい投球で岡平第一高校の攻撃を封じる。
六回まで一安打の投球をみせた舞だが、七回裏ワンアウトから二塁打を浴びる。
続く打者を三振に仕留め、五番打者へと回った。
その五番打者が姉である佳苗だった。
舞は六回まで一安打に抑えていたが、その一安打が佳苗のセンター前へのシングルヒットだった。
佳苗はソフトボールを始めた小学校時代からセンター返しに長けていた。
お互いがお互いの良さも癖も知り尽くす。
だからこそ、難しい面もある。
お姉ちゃん、きっと自分の癖、治してるよね…。自分自身を分析するの上手いし…。
舞はチームメイトに自身の癖を見つけてもらってるから…。その癖はもう治ってるかもな…。
互いが視線を交わし、出方を探る。
球審の声で舞は捕手の三年生、
由美子がサインを出す。
舞は一度首を振る。
そしてもう一度。
三度目で頷く。
そして、モーションへと移る。
グリップを握り、ボールを待つ佳苗。
舞の右腕が上がる。
佳苗の左足が上がる。
「ストライク!」
球審の声が球場内に響く。
初球が外角低めのチェンジアップ。佳苗はそのボールを見送った。
由美子が舞へと返球する。それと同時に佳苗が舞を見る。
得意球から入ったか…。
一つ息をつく佳苗。
そして一度、右バッターボックスから出て、ヘルメットに金属バットの芯部分をやさしく当て、二球目の球種とコースを探る。
舞は由美子と相対するようにピッチャーズサークル中心へ。
球種とコースをある程度絞り、右バッターボックスへ戻る佳苗。
そして、互いを見つめる。
両チームの選手の声が二人の耳に届く。
舞は由美子のサインに一度で頷く。
そして、モーションへと入る。
ボールは内角やや高め。佳苗は迷わずスイング。
打球は三塁線への強い当たり。
しかし、僅かに切れる。
ファール。
ノーボールツーストライク。
追い込んだ舞。
追い込まれた佳苗。
球場内に緊張が走る。
一球遊んでくるかな…。それとも、三球勝負を挑んでくるかな…。
佳苗はバッテリーの心理を探る。
一球様子見てみる?それとも、三球勝負で挑む?
由美子とサインを交わす舞。
心理戦。
サインが決まり、静止。そして、モーションへと移る舞。
舞のモーションを見ながら狙い球とコースを絞る佳苗。
舞の右腕が上がる。
真ん中低めのストレート。
自然と佳苗はスイングする。
次の瞬間、ボールを叩く音とともに、歓声が上がる。
しかし、一瞬で止む。
再び三塁線へ流れたボールは僅かに切れる。
打球を目で追う舞。
この時、舞は何を思っただろうか。
視線を戻し、由美子からボールを受け、気持ちを落ち着かせる舞。
そして、佳苗を見る。
そう簡単には凡退しないもんね、お姉ちゃん…。
簡単には凡退しないよ、舞…!
心で姉妹が言葉を交わす。
球場内が更なる緊張感に包まれる。
すると、由美子がタイムをとり、舞の元へ。
「どうする?やっぱり…」
由美子の言葉に舞は首を振る。
「あのボールで勝負させて下さい!リスクはありますけど、その分、可能性はありますから」
由美子は舞の目を見る。まるで、自身が責任を負うと言わんばかりの目だった。
由美子は頷き、ポジションへ戻る。
舞はピッチャーズサークルの中心で僅かに口元を緩める。
何かの覚悟が感じられる表情だった。
佳苗は右バッターボックスで構える。
狙い球とコースは既に絞った。
舞はモーションに移る。
右腕が上がる。
そして、リリース。
その瞬間、姉妹の目の色が変わった。
ストレートの軌道。
しかし。
ボールは佳苗の手元で下方向へ。
姉妹の口元が緩む。
そして次の瞬間。
打球音とともに、歓声が上がる。
舞は打球方向を見つめる。
センターへの大きな当たり。
センターを守る二年生の
ホームランライン際まで追う。
そして、ジャンプ。
捕った。
その瞬間、朱鷹学園高校のベンチが沸く。
しかし。
二塁塁審はホームランのジェスチャーを出す。
そして、岡平第一高校のベンチが沸いた。
その瞬間、佳苗は何が起こったか分からないような表情を浮かべ、舞は項垂れるようにピッチャーズサークル内で崩れ落ちる。
ホームランライン越えちゃったんだね、ボールが…。どっちみち、私達は負けてたんだ…。
舞の視線の先には袖で目を抑える亜衣と彼女にやさしい言葉を掛ける三年生の姿。
舞は立ち上がり、ホームを見る。
同時に佳苗がホームベースを踏む。
一塁ベンチへ向かう佳苗。そして、チームメイトから手荒い祝福を受ける。
目を閉じ、グラブを外す舞。そして目を開け、正面に見えるスコアボードを見つめる。
こんな結末もあるんだね…。亜衣の大ファインプレーが無効になっちゃうなんて…。
それから間もなくして、亜衣が舞の元へ。舞は無効になってしまったが、亜衣の大ファインプレーを褒め称える。
そして、亜衣の左肩に手を置き、言葉を詰まらせながらこう言葉を掛ける。
「来年、絶対戻ってこようね…。私、もっとパワーアップするから…!」
次の瞬間、舞の目がかすれる。
かすれた舞の目の視線の先には一人の選手の姿。
舞を幼少の頃から知る選手。
彼女の目は潤んでいた。
それから間もなくして、選手は整列し、挨拶と握手を交わす。
舞と佳苗は握手を交わす。
そして、抱き合う。
舞は思わず、佳苗の左肩を借り、涙を流す。
佳苗は溢れ出るものを必死で堪え、舞の頭にやさしく右手を置く。
そして、自然と頬が濡れる。
最終回ツーアウト、一打同点、ホームランでサヨナラという場面。姉妹にとってはあまりにも残酷な巡り合わせ。
しかし、もしかしたらこれは、お互いがこれから更に成長するための試練だったのかもしれない…。
姉妹対決の結末 Wildvogel @aim3
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