38 その選択が正しいと、どう証明する?(side:イヴ)

 グラスラの背中の上で、イヴは望遠鏡の魔術を使い、カケル達の動きを監視していた。


「何あれ……?」

 

 声は聞こえない。が、小さな白竜と対話していることが、雰囲気で分かる。


『同じところをグルグル回ってんの、飽きてきたんだが』

 

 ゆっくり旋回しながら、グラスラが文句を言う。

 カケルと違い、グラスラは地上に降りると元通り空に上がるのが困難な竜だ。重量のある巨体なので、ある程度の高さの崖から飛び降りて風を掴まないと飛翔できない。

 気軽に着地できないので、旋回し続けるしかないのだ。


『お嬢さん、本気であの少年を信じてるのかい?』

「何よ」

『ずっと聞いてたが、悪いが子供の仲良しごっこにしか見えないね』

 

 カケルの告白は、グラスラの背中の上だったから、聞こえていても不思議ではない。

 グラスラは穏やかながら冷えた声音で続けた。


『命を賭けて友達を庇うのかい? お嬢さんは、育ててくれた家族より、守ってくれる故郷の同胞より、正体不明の友達を大事にするのか』

「……」

『その選択が正しいと、本気で思っているのかな』

 

 イヴは、必死に引き留めてきた父親の顔を思い浮かべ、歯を食いしめた。

 五年前に出会いろくに話もしていないカケルと、生まれた時から面倒を見てもらっている父親、どちらを大事にすべきかは、第三者から見れば明らかだ。

 

「迷うな、アラクサラ」

 

 その時、オルタナが口を開く。


「何が正しいか、他人に分かる訳がない。俺たちは、自分の人生を自分で選択するんだ。それが失敗だったとしても、他人にとやかく言われる筋合いはねえよ」

『言うねえ』

「なら、てめえは俺らに説教できるほど、お綺麗な人生を送ってきたのかよ? てめえの選択は、全部正しかったのか」


 二人の会話を聞きながら、イヴは深呼吸する。

 矢は放たれた。

 もう後戻りせず、真っ直ぐに飛んでいくだけだ。


「グラスラさん、私達の邪魔をしないで。変な真似をしたら、魔術を背中に打ち込むわよ!」

『!!』

「私はもう、カケルと生きてくって、決めたわ。あいつに賭ける」

 

 周り全部が敵だらけだとしても、自分だけは彼の味方でいたいと思った。


『……やれやれ。若者は眩しすぎて、見てられないぜ』

 

 グラスラは呆れたように言う。

 話の流れ次第では、グラスラは攻撃を始めるつもりだったのだろうと、イヴは思う。誰もが、生き残るために確実な、実績のある手段を選ぶ。侵略機械アグレッサーに占領された基地を、跡形もなく焼き尽くすのは、後の憂いを断つために正しい方法だ。今までの実績を考えると、それが一番確実なのだから。

 しかし、今回イヴ達は、敵と交渉するという、今まで通ったことのない道を選んだ。

 誰も選ばない道を選ぶのはリスキーで、とてつもない勇気が必要だ。それでも、新しい未来を得るには、誰も通ったことのない道を選ぶしかない。


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