第6話不透明な未来

不可抗力で仕方ないことなのだが…。

本日は警察署の相談係である新道みことのデートの日だった。

二人の最寄り駅で待ち合わせをすると俺は彼女よりも先に到着していた。

待ち合わせ時間二十分前に到着してしまいスマホをポケットから取り出すと南翠から連絡が届いていることに気付く。

「迷惑行為をしてきていた人物が誰かわかったよ」

南翠からのチャットに俺は心臓がキュッと締め付けられるような気分に陥る。

しかしながら続きの文章を目にしてふぅと安心して息を吐く。

「やっぱり元カレだった。直近で別れた人なんだけど…ストーカー化して迷惑行為をしていたみたい。これ以上続けると警察に突き出すって脅しのようなことを言ったら引いてくれたよ。そこからは迷惑行為も鳴りを潜めて…生きやすくなったよ」

その文章を目にして俺は麒麟児のガチ恋勢の事を思っていた。

彼女らはメン限での俺の話を聞いてちゃんと手を引いてくれたのだと理解する。

配信主の意に沿わない行動を取る民度の低いファンではなくて俺は安堵の思いを抱く。

それとともに彼女らの気持ちが本気であることも理解した。

俺に嫌われない様に言うことを言う事以上のことを聞いてくれている。

自分のファンが良い娘だと感じると深い感動のような物を覚えた。

それにしても俺のようなクズにどうしてファンがついているのか。

そんな疑問を不意に感じていた。

「そっか。犯人がわかってよかったね。今後は何もなければいいけど…」

チャットを送った辺りで女性に声を掛けられて、そちらを向くと新道みこの姿はそこにあった。

「おまたせしました。深沢さんって意外に律儀なんですね」

新道みこは少しの苦笑を携えると軽く髪を掻き分けた。

「意外でした?」

「はい。麒麟児の配信はクズっぽい発言が多かったので」

「あぁ〜。それは…そっち方向でたまたまバズったので…そこから抜けられなくなったって感じでして。普通の一般人ですよ」

「普通の一般人って事はないと思いますけど。思いの外しっかりとした性格をしているんだなって…好印象です」

「ははっ…ありがとうございます。何処か行きたい所はありますか?」

「水族館で癒やされたいですね。職場が殺伐としているので」

「なるほど。では行きますか」

「車じゃないんですね」

「あぁ〜…ナンバーは見られたくないと言いますか…一応身バレ防止で…」

「この間、署にいらした時に確認済みですよ」

「そうなんだ。じゃあ車取りに行きますか」

「はい。そっちのほうがデートっぽいですよ」

「ですね…じゃあ少し歩きますが。良いですか?」

「はい」

新道みこと並んで自宅の方へと歩き出すと月極の駐車場に到着する。

車のキーを開けると彼女は助手席に乗り込んだ。

「高級車ですね。やっぱり稼いでいる人は違いますね」

「そんな。警察官の方が高給取りでしょ」

「安定はしていますけど…どうでしょう」

「俺も幼い頃は警察官になりたいって思っていました」

「へぇ。では何故ならなかったのですか?」

「う〜ん。昔の映画で悪役が主人公だった話を観て…そこから何故か警察官になりたいって夢が薄れていったんですよね」

「あぁ〜。幼い子あるあるって感じですね」

「そうなんですよ。子供だったのでちゃんと映画の内容を理解できていなかっただけなんですけどね」

「仕方ないですよね。でも警察官は激務ですので…なりたい人だけなればいいと思います」

「そう言って頂いて救われた気分です。幼かった自分を許せる思いですよ」

「むしろ今は人気配信者として凄く稼いでいるでしょ?良いじゃないですか」

「まぁ。有名になると変装しないと外を出られないのが最悪ですけど。悪いことしたわけでもないのに太陽の下に晒されてはいけない気分ですよ」

「そうなんですね…それはきつそうです。でも今日はいいんですか?」

「まぁ…変装していますし…貴重な麒麟ですからね。オフでファンと会ったのなんて初めてですよ」

「そうなんですね。そういうところもしっかりしているんですね。もっと破天荒かと思いました」

「そんなわけ無いですよ。問題起こして炎上でもしたら一発退場ですから」

「なるほど…予想以上に大変なんですね」

「どの業種でもそうでしょ?大変じゃない仕事なんて無いですよ」

「ですね。そろそろ着きそうですね」

眼の前に水族館の駐車場が見えてきて、そこに車を駐車するのであった。



そこから俺と新道みこは水族館に二時間ほど滞在して再び車に乗り込んだ。

「それでですね…」

車が走り出すと新道みこは徐ろに口を開いた。

「なんでしょう?」

「南翠を本当に許すんですか?」

「えっと…どういう意味でしょう」

「だって麒麟児を傷つけて…こっぴどく捨てたんですよ?私達、麒麟は本気で麒麟児が好きで…付き合いたいのに…自分は幸運な境遇に居たのに…私は許せなくて…」

「俺は許すって言ったけど…今後、南翠の件をメン限で話すようなことはないと思うよ。皆が許せなくてどうしようもないっていうのであれば…出来るだけ説得はするけど。でも何事も強制は出来ないからね。皆の自由は尊重するけど」

「じゃあなにかしても良いんですか?」

「う〜ん。俺からはもう何も言うことはないよ。説得を聞いてもらえないのであれば…仕方ないけど。ただ直接傷つけるような事はしないでね。って言い続けるよ。麒麟の皆が犯罪者になるのはごめんだからね」

「わかりました。好きにして良いんですね?」

「ご自由に。俺は一応止めたからね?」

「はい。それだけ聞けたら良いんです」

「そう。何処まで送れば良い?駅?」

「はい。駅で結構です。ありがとうございます」

俺はそこから新道みこを駅まで送り届けると急いで帰路に就く。

重めな女性に目をつけられた俺や南翠は今後どうなるのであろうか。

この時の俺達にはまだ謎のままなのであった。

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