第13話 プロミネンスの末路

 突然の侵入者にプロミネンスは冷や汗を流しながら、破棄しようとしてた書類を背中に隠す。これは闇ギルドの契約書であり、もしもこれが見つかれば、プロミネンスは相当まずいことになるだろう。最悪、厳しい父に叱られて追放の可能でもある。



「メイド風情がいったい何の用だ? ここは部外者が立ち入っていい場所じゃないぞ」



 じろりと睨みつけるがナツメは涼しい顔をして口を開く。



「今回の件ですが、あなたの自作自演でしょう? 目的はいまいちわかりませんがあなたが彼らを招きましたね」

「いったい何の根拠あってそんなことを言っているんだ!! 伯爵である僕に失礼だろう!!」



 いきなり図星を衝かれて思わず声をはりあげるが、ナツメの表情は動かさず淡々と言葉を続ける。



「まずは警備の手薄なところを知りすぎていますし、襲撃者がきてもあなただけは一切動揺してませんでした」

「そんなのは状況証拠だけだろ!! 大体僕はあいつらに暴力を振るわれて……体が……?」



 プロミネンスは反論している間に、体が動かなくなっていることに気づく。そして、そんな彼の様子をきにもとめずにナツメが向かってきて、背中に隠した書類を奪い取るとそれを見てにやりと笑う。



「おやおや、今、私の手元に証拠が来ましたよ。さて、これを公表すればどうなるか……楽しみですね」

「ま、まて!! 僕はお前の正体を知っているぞ!! 僕に気配を悟らせないだけの力に、影を支配する魔法……Sランク冒険者の『絶影』だろう!!」

「おや……懐かしい名前を知っていますね。まあ、だからと言って何かが変わるわけではありませんが……」



 そのままスタスタと出口へと向かうナツメにプロミネンスは必死に頭を働かせる。何人もの貴族を危険にさらした上に賊に裏切られたのだ。

 これが表に出ればすべてを名誉も立場もすべてを失うだろう。



「ま、まて!! 冒険者をやめてなんでブラッディに使えているかは知らないが、僕ならばあいつの何倍もの金を出すぞ!!」

「別にお金のために彼に仕えているわけじゃありませんよ」



 相も変わらず感情の籠っていない声だったが、ナツメが足を止めたことをプロミネンスは見逃さなかった。

 起死回生とばかりに声をはりあげる。



「だったら、僕のできるものならばなんでも渡そう!! それに伯爵である僕ならば、男爵に過ぎないブラッディよりもお前の知りたいことだって調べられるぞ!!」

「なんでも……ですか?」



 ナツメが振り向いたのを見て、プロミネンスは勝利を確信する。所詮は薄汚い冒険者である。誇り高き貴族とは違い、すぐに主を裏切るのだ。

 この窮地を切り抜けたら知らないふりをすればいいそう思って彼はナツメの要望を訊ねる。



「ああ、そうだ。何でも聞いてみろ!!」

「では……日本へ帰る方法をご存じですか?」

「日本……だって……?」



 聞きなれない言葉に、プロミネンスがおうむ返しにすると、ナツメの瞳から興味の色が消えていくのを感じた。

 


「ま、まて、調べればすぐにわかる。だから……」

「いえ、その反応であなたが何も知らないのは理解しました。何か知っていればマスターと共有しようと思ったのだが残念です」

「な……お前はなから僕に寝返るつもりはなかったのか!!」



 騙されていたことに気づき激昂するプロミネンスだったが、ナツメは冷たくあしらう。



「当たり前でしょう。なんで私がマスターを裏切ってあなたなんかにつかなきゃいけないんですか。あの人は抜けたところはあるんですが一緒にいて楽しいんですよ」



 ブラッディのことを語るナツメはプロミネンスに初めて笑みを見せる。



「貴様……まさか、これもブラッディの命令だったのか?」

「そんなわけないでしょう、もしも、あの人が気づいていたらリリス様を危険にさらしたあなたは生きてはいないでしょう。むしろ、私に感謝してほしいくらいですね」



 そして、先ほどの契約書をかかげて無表情で言った。



「このことをばらされたくなければ、マスターとリリス様には今後危害を加えないこと、さりげなくサポートすること……あとはそうですね。ジャスティス仮面の正体をみんな知っているとご主人様にばれないようにしてください」

「そんなの無理だろ、ふざけんな!!」

「それでは失礼します」

「くそがぁぁぁぁ!!!」



 プロミネンスの罵倒が響くなか厭味ったらしくやたらと丁寧にお辞儀をするナツメ。こうして彼は、ブラッディの知らないところで、彼のために働くことが決まったのだった。




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カクヨムコンテストようのこちらも読んでくださるとうれしいです。



『せっかく嫌われ者の悪役領主に転生したので、ハーレム作って好き勝手生きることにした~なのに、なぜかシナリオ壊して世界を救っていたんだけど』


本人は好き勝手やっているのに、なぜか周りの評価があがっていく。悪役転生の勘違いものとなります。


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