第12話 正義の味方その名はジャスティス仮面

「プロミネンス!! 貴様に復讐させてもらう!!」



 突然の襲撃にあたりは騒然としていた。それも無理はないだろう。ここにいるのは貴族であり、荒事とは無縁な人間ばかりなのだから……



「大丈夫ですよ。きっと助けがきます」

「でも、あの人たちは剣をもっているよ……私たち襲われちゃうんじゃ……」



 そんな中リリスは一緒にいる友人を気丈な表情で励ましていた。これは彼女が孤児院の育ちであり、荒事が日常茶飯事だったこともある。そして、本人は知るよりもないがその精神の奥に邪神ヘラを宿しているため様々な困難に襲われているためこの程度のピンチには慣れているという事もある。

 だが、何よりも最も信頼すべき義兄がいるというのが大きかった。彼がいれば必ずや助けてくれると信じているのだ。



「ふふ、リリスはかわいいなぁ……こんな時でも気丈でいるとは……だけどね、君が悪いんだよ。高貴な伯爵である僕が声をかけてあげたっていうのに、冷たい態度をとるからさぁ……生意気なんだよ」



 そんなリリスを獣のような欲望をもって見つめるのはプロミネンスである。彼は噂の通り女好きであり、美しい女性をその甘いマスクと地位を使って次々とものにしていたのである。

 だからこそ、自分に絶対の自信を持っていた。なのにリリスは一向になびかない。そりゃあ過去にやらかしてしまったことは彼とて覚えている。だが、しょせんは子供の時の出来事だ。



「だって、あの時の貧相なガキがあんな美少女になるなんて思わないじゃないか……」



 他の貴族のパーティーで再会して以来手紙を送っても社交辞令的な返事しかかえってこず、パーティーに招待しても袖にされ続けていた。挙句の果てに今回のパーティーもブラッディが同行すればよいと返事があったくらいだ。

 だから、このパーティー確実のものにしようと決めていたのである。そのために闇ルートを使って腕の立つ冒険者に襲撃するフリを頼んだのである。



「だいたいブラッディのどこがいいって言うんだよ。あんなやつはただの男爵だろうが!! ちょっと強いからって調子に乗りやがって。それに本気でたたかえば今の僕の方が強いに決まってる」



 これが彼の本性である。選民意識が高く自分が一番でないと納得しない。それこそ、相手がより立場の高い人間だったり、勇者のような特別な人間ならば別だが……

 


「ついでだ……ブラッディのやつの情けないところもリリスに見せて落胆させてやるか、ああ、リリスを襲わせてピンチになったところを助けるのもいいな……」



 そうぶつぶつ言っていると乱入者がプロミネンスに目くばせをしてくる。さっさと行動しろということだろう。

 いつの間にかブラッディの姿は見当たらず、どうせ逃げたかと笑ってプロミネンスは声を張りあげる。



「皆の者落ち着け!! 騎士たちは来賓を避難させよ」



 プロミネンスの言葉と共に何も事情をしらない警護の騎士たちが来賓の貴族たちを、守りつつ脱出路の方へと誘導していく。



「はは、逃がすかよ、そこの女どもは人質になってもらおうか!! 特にそこの銀髪の女……お前みたいな綺麗なのは高く売れそうだぜぇ」」



 襲撃者の一部が護衛の騎士たちを襲いリリスたちを捕らえようとする。騎士たちも必死に戦うが襲撃者は手練れのようで圧倒されていく。

 そんな中リリスと襲撃者の間にプロミネンスが剣を構えて割り込む。



「君たちやめたまえ!! 美しき令嬢に手を出すことは僕が許さな……うげぇ」



 予定ではプロミネンスの剣によって、襲撃者は傷つきそれを理由に撤退するはずだった。なのに、襲撃者は彼の一撃を受け流して自慢の顔を剣の柄で叩いたのだ。



「お前…なんで、僕を……?」



 信じられないといった顔をしたプロミネンスに襲撃者が鼻で笑って唾を吐く。



「はっ、あんなはした金で、俺たちが言うことを聞くと思ったのか? お前の計画を利用してやったんだよ。おかげで警備もゆるくて助かった。金目のものと女はもらっていくぜ」

「貴様……平民の分際で……」

「そういうとこだぜ、貴族様。お前がむかつくっていうやつは結構いてな。お前が俺たちを使いつぶすつもりだったことも筒抜けだったぜ。あの世で後悔しな!!」



 そう言って、襲撃者が剣を振りあげて当たりに悲鳴が響き渡った時だった。



「リリカルスターアロー!!」



 詠唱と共にまばゆい光が襲撃者たちを襲った。そして、魔法が放たれた方向にいるのは白いスーツにパピヨンマスクの青年である。

 


「皆の者大丈夫か!! ジャスティレディ!!」

「はいはい、わかっていますよ、マスター」



 ジャスティス仮面とジャスティスレディーはプロミネンスが歯が立たなかった襲撃者たちを子供でもあしらうかのように倒していく。その様にプロミネンスは自分の計画が崩れ、プライドをぼろぼろになっていくのをかんじるのだった。



★★



 いつもの服装に着替えたジャスティス仮面とジャスティレディーと共に襲撃者を倒す。まずは、リリスに近づこうとした襲撃者に魔法を放つと、彼女の無事を確認してほっと一息ついて、負傷しているプロミネンスに声をかける。



「私の名前はジャスティス仮面。正義の味方だ。怪我は大丈夫か?」

「おまえ……あいつらを一瞬で……」

「ああ、雑魚だったからな。そんなことより治療してやろうか?」

「な……」



 ジャスティス仮面の言葉にプロミネンスはなぜか顔を真っ赤にしてにらみつけてくる。なにこいつ情緒不安定かな? と思っていると背後から罵声が飛んでくる。



「なんだてめえ、その恰好はふざけてんのか!?」



 ジャスティス仮面を見た襲撃者が怒りの声を上げるが……



「ジャスティス仮面様!! 助けに来てくださったのですね!!」

「ははは、リリスのピンチにはいつでもかけつけるといったろ!! 悪よ、滅ぶがいい!! リリカルスターアロー!!」

「完全に調子に乗ってますね……」



 リリスの歓声にテンションの上がったジャスティス仮面の無詠唱魔法によってどんどん襲撃者たちは倒されていく。しかもわざわざかっこいいポーズを取って倒してくものだからナツメが冷たい声をあげる。

 そして、二人が乱入してたった数分で襲撃者は全員意識を失わせ捕縛することに成功するのだった。





「ジャスティス仮面様おまちください!! もう行ってしまわれるのですか?」



 パーティー会場での出来事がおわり、ジャスティス仮面が騒動に紛れて姿をくらまそうとしていると、綺麗なドレスが乱れるのも構わずに走ってきたリリスに声をかけられる。

 


「ああ、リリスか、君を守ることができたからね」

「ですが、皆さんジャスティス仮面様に感謝していますよ!! お礼の言葉を伝えたいとおっしゃってます」

「ふふ、それは嬉しいが私は別に感謝されたくてやっているわけじゃないんでね」



 リリスの言葉は本当である。絶体絶命のピンチを救ってもらった貴族も、事情を知らないプロミネンスの騎士たちも主を救ってもらったと感謝しているのである。

 そして、謝礼も受け取らず去っていくブラッディの評価はあがっていく。



「もちろんそれは私も同じです。命を助けていただいたお礼をしたいのです」

「お礼か……」



 ジャスティ仮面を演じきっているブラッディは気障っぽい仕草でうなる。そして、一つの答えを得た。



「じゃあ、リリスよ、俺と踊ってくれないか? 実は君とダンスがしたかったんだ」



 少し恥ずかしそうにいうブラッディ。ブラッディという立場ではできなかったが、ジャスティス仮面ならば話は別である。



「え……」



 予想外の言葉に固まるリリス。それを見て、ブラッディはプロミネンスに対して断っていたのを思い出す。



「ああ、いやならば構わな……」

「踊りたいです!! 躍らせてください!! ジャスティス仮面様!!」



 食い気味にリリスはそういうと、大きく深呼吸してから手を差し出した。そして、ジャスティス仮面と踊る彼女は本当に幸せな顔をしていたのだった。




★★



「くそが……ブラッディの奴め調子にのりやがって……」



 プロミネンスは痛む顔を抑えながら、自室にいた。今回の件の証拠を隠滅しておかなければいけないからだ。それに、闇ギルドにも苦情をいおう……



「失礼します。プロミネンス様。お話があるのですか?」

「何者だ!! おまえは……ブラッディのメイドじゃないか!!」



 びくっと震えながら振り向いた先にいたにいたのはパピヨンマスクをしたナツメだった。





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