第21話:???

 「──先輩、ひとつお聞きしていいですか?」


 「なんだい藪から棒に。いいよ、ぼくに応えられることなら」


 「先輩は、わたしたち三人のことを、以前からご存じだったみたいですけど、わたしを、そのぅ……す、好きになったのって、いつ頃からか教えてもらえないでしょうか?」


 「うっ……ちょっと、照れ臭いなぁ。でも、真面目に答えると──あの日、猪狩沢で君を見つけて色々話をして、それでもって別れ際にニッコリ微笑んでくれた時から、かな。

 その時、ドキッとして、次の日、窓越しに再会した時に「やっぱこの子、可愛いな」って思って、まぁその……お近づきになりたいって強く思ったんだ」


 「(そんな早くから////)あ、ありがとうございます。おかげで、決心がつきました」


 「ん? 何の?」


 「今日、これから地元に帰る訳ですけど──明日の夕方17時に、恒原駅前の“ダムダムバーガー”まで来ていただけませんか? そこで“お返事”をさせていただこうと思います。

 (もし、先輩が、この約束をですけど……)」


 * * * 


 8月20日の午後6時に、わたしたち4人は“狩掘煮屋”のスタッフに見送られながら、電車に乗って寅洲海岸をあとにしました。

 こんな時間になったのは、矢城店長が早めに店を閉めて、わたしたちのために簡単な送別会を開いてくださったからです。

 猪狩沢の女将さん同様、店長さんもわたしたちのことを高く評価してくださり、「できたら来年の夏もバイトに来てほしい」と言われました。


 そのことは、わたしも雪さんもうれしかったですし、晴海さんは「ま、条件が折り合えばね!」と嘯かれましたが、表情はニッコニコでしたので内心は推して知るべし、というところでしょうか。


 行きと違ってわたしたち4人は、国枝先輩とわたし、晴海さんと雪さんという組み合わせで、あえて別々のコンパートメントに座りました。

 たぶん、おふたりは気を回してくださったんでしょうね。有難い気遣いです。


 そこで、先輩と“大事な話”をしたことで、わたしは“決意”が固まりました。

 いえ、一応、その前から“計画”はしていたのですが、「自分自身わたしが逸樹さんに想われている」ということを確信したことで、「万難排しても成し遂げよう」と執念じみたものを抱いたというか……。


 (まったく……まさかわたしが、こんな気持ちになるなんて、この夏が始まる前は思ってもみませんでしたよ)


 自分ぼく/わたしは、どちらかというと意志&主体性が弱いという自覚があったのですが、“好きな人”ができると人間って変わるなんものですね。


 「ん? どうかしたのかい、そんな真剣な目で見つめてきて」

 「フフッ、何でもないですよ、先輩いつきさん♪」


 もしかしたら、今のわたしは、彼の事をちょっとヤンデレちっくな瞳で見ていたのかもしれません。


 * * * 


 午後8時過ぎ、鶴橋晴海、長津田雪、朝日奈恭子に、国枝逸樹を加えた4人の恒聖高校生たちは、無事に地元である恒原駅に戻ってきた。

 少し遅い時間なので、今日は駅前ここで解散することは、電車の中で決めてあった。


 「じゃあ、ぼくはもう行くよ。もう夜だし、三人とも女の子なんだから気を付けて」

 「私の家は、駅のすぐ近くなので問題ない」

 「あたしは、正直ひょろっちい国枝先輩より強いからへーきよ!

 ──ま、それはそれとして。恭子、明日のお昼過ぎにアンタん家に遊びに行くから、その時に、ね」

 「はい、晴海さん、雪さん、また明日お逢いしましょう」


 ……

 …………

 ………………


 あくる日の午後、は、朝日奈恭子の家を訪れていた。


 「まあまあ、晴海ちゃんに雪ちゃん、お久しぶりね! やっぱり海の家でアルバイトしてたから、よく日に焼けて……恭子もだけど、若いからって過信しないで、お肌のお手入れはちゃんとしないとダメよ?」

 「大丈夫ですよ、おば様。漢方薬店であるウチ自家製のスキンケア用品一式、持ってきたんで、恭子にもソレ分けるつもりですし」

 「あらあら有難う。いつも悪いわね~」


 そんな会話を恭子の母としつつ、勝手知ったる他人の家。2階の恭子の部屋へと、ふたりは向かう。


 「グーテンターク、恭子! 調子はどう?」


 やはりと言うべきか、先頭に立った晴海は、ノックもそこそこにドアを開けて部屋になだれ込んだ。


 「──ちなみに私は、昨晩から首の後ろの肌が剥け始めた。痒い」


 後に続く雪も、女子高生にあるまじき醜態を自己申告しつつ、恭子の部屋に入ってくる。


 「こんにちは、晴海さん、雪さん──今日は、なんですね?」


 迎える恭子の方は、いつぞやと同じ薄緑色の半袖サマードレスを着て、口元に不思議アルカイックな笑みを浮かべていた。


 「? いつものことでしょ。あ! それとも……愛しの先輩も引っ張ってきて欲しかったとか?」

 「恭子、色を知る年頃か──女の友情は儚い」

 「ち、違います~、そんな意味じゃありません~!」


 ふたりにからかわれた恭子が、途端にアタフタするのも「いつも通りの三人娘の日常風景」だ。


 「……で、あたしら、今日、なんで恭子ん家に来たんだっけ?」

 「いえ、そのですね……しゅ、宿題を教えていただきたくて」


 先程までの大人びた雰囲気から一転して、上目遣いになって夏の課題の残りを差し出し、縮こまる恭子。


 「──問題ない。試験前の一夜漬けと比べれば、まだ10日も余裕はある」

 「あ、でも、今日は、その……夕方から、ちょっと用事がありまして」


 申し訳なさそうな恭子の表情を見て、晴海と雪は揃ってニヤリと笑い、サムズアップする。


 「知ってるわ! 恭子……(告白)するのね!? 今日、ついに! パンツは色っぽいの履いてる?」

 「大丈夫。国枝逸樹に対する朝日奈恭子の告白成功率しょうりつは150パーセント。超過する50パーセントは、性的な雰囲気に突入する分」

 「(告白は)するけど、(えっちなことはまだ)しーまーせーん!!」


 「女三人寄れば姦しい」ということわざ通り、キャーキャー、わーわー騒ぎになるのは、仲良し三人組にはいつものコトだ。


 今日のである「恭子の宿題の片付け」を始めるまでは、まだしばらくかかりそうだった。

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