犯人は

わたくし

動かぬ証拠

 今、市中を騒がせている連続殺人事件。

 時間・場所・人を問わず、あらゆる場所で起きていた。

 市警察は連日の捜査で犯人を捜していた。

 なぜ“連続”殺人事件なのか?

 それは、殺人現場に被害者の物では無い髪の毛があったからだ。

 全ての現場にあった髪の毛は、同じ人物の物だと鑑定できた。

 鑑定の結果、犯人は

 血液型 B型

 性別 男性

 年齢 20~50代

 髪型 縮れ毛の長髪

 薬物 使用した痕跡無し

 と解っていた。


 しかし、捜査の目を搔い潜るように事件は起こっていた。

 髪の毛以外、各事件現場には何も共通点は見つからなかった。

 証拠の髪の毛は沢山集まっていった。

 ついに事件の犠牲者は百人を超えてしまった。

 市警察は何人か容疑者を絞り出しては、髪の毛を採取・鑑定に出していた。

 しかし、どれも犯人の髪の毛とは一致しなかった。


 ある日を境に連続殺人は止まった。

 以降は全く事件は起こらなかった。

 取り合えず市民は安堵した。

 市警察は安心する訳にもいかず、必死に捜査を続けていた。



 長い時間と多数の捜査員を費やして、やっと事件の最重参考人に辿り着いた。

 捜査員達は容疑者宅へ踏み込み捜査令状を見せる。

「連続殺人事件の容疑でこの部屋を捜索する」

 容疑者の短髪の若い男は答える。

「どうぞ、気の済むまで探してください」

「探しても何も出て来ませんよ」

「この部屋は半月前に引越したばかりで、家具や調度は新調した物ばかりですから」

 捜索も空しく、髪の毛の一本も見つからなかった。


 勝ち誇った顔で容疑者は捜査員に問い質す。

「なぜ、私が犯人だと思いついたんだい?」


 捜査員は答える。

「連続殺人犯は、自分の犯行の印に髪の毛を置いていたんだ」

「犯行のストレスで抜け落ちる髪の毛を」

「数々の犯行を重ねるうちに、ついに……」

 捜査員は若い男の髪を掴む。

 髪はスルリを剥けて坊主頭が現われた。

 男の髪はかつらだったのだ。

「全ての髪が抜けてしまったのだ」

「髪の毛が無い今は、自分が犯人だと主張する事が出来なくなったのだ」

「それで事件を起こす必要が無くなった」

「それで連続殺人が終わった」


 男は顔色を変えずに答える。

「この通り、今の私の頭は無毛だ」

「これでは私が犯人だと断定できないだろう?」

「仮に前の住居に行って調べても、リフォームなどで何も残ってないだろうし」

「証拠になる私の髪の毛が無いので、私を逮捕出来ないだろう?」

「あともう一歩の所で、犯人の背中に届かなかったな!」


 男は高らかに勝鬨の笑いを上げる。


「証拠は……」

 捜査員は手に持っていたかつらを男の前に差し出す。

「ここにある!」


 かつらの裏側には、男の髪の毛がかつらの髪に絡みついていた。


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犯人は わたくし @watakushi-bun

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