第9話 記憶

 ここはずっと探していた思い出の海。子供の頃に両親に旅行に連れてきてもらった。海岸線、防波堤、桟橋、そんなに変わってはいないが、必要なのことは、見えている海でなく、記憶に残ってる海だ。全てを呼び起こさないと。


 そもそも俺が深層心理で理想像の女性を作り上げてしまったから、こんなことに、この娘は俺のせいで巻き込んでしまった…


【これで戻れないなら、ごめん、諦めるしかない】


【そうなったら、私のこと知ってるのはお兄さんだけ…そうなるんだよね?】


【俺のこと、両親も解らなかったからね…】


絶対に抜け出せなくては、絶対に…絶対に!!行くぞ!


【よし、準備は出来た。そっちは大丈夫か?】


【うん…握ればいいんだよね?】


【これで大丈夫だ。行くぞ!】


クリスタルを握って…信じて…



……………………………………………………………



光に包まれた。


戻れたかな?戻れたよな?


【ここは?戻ってこれたの?】


【とりあえず民宿に戻ろう!!】


【うん!!】


俺達は走って、民宿へ。


【お母さん!!】


【あれ、どこ行ってたの?お客様案内してって…こら、急にいきなり飛びつくことないでしょ!】


【お母さん!!お母さーーーーーーーーん!!私だよ!覚えてるよね?私のこと!!】


【何馬鹿なこと言って…泣いてるの?】


良かった!!戻れたね。お母さんにしがみついてる…


【お客様の前で、もう、何そんなに泣いてるんだか。すみません、お見苦しいとこ見せてしまって】


本当に本当に、良かったね。


【娘さん、暫く抱きしめてあげてください。怖い夢見てたみたいですよ】


【そうなんですか…この娘はほんとに、もう】


【お母さん、ここ手伝うね!!絶対にワガママ言わないから。ごめんね、ごめんね、ずっと居るからね】


【そう…じゃ、たくさんお願いするからね】


【何でも何でも言ってね】


俺はそろそろ帰ろうかな?ここには俺は不要だね。


歩き出したその時、呼び止められて、


【お兄さん〜ありがとうね。お姉ちゃんのこと詳しく教えるから】


【いや、もういいんだ…元気でね】


【え…何で?】


 これで良かったんだ。きっと俺の理想像の女性は、深層心理の世界でしか存在しない。


 俺は歩き出して、駅までの途中、この思い出の海を見て、少し懐かしさを感じていると、


【待ってよ~何で、もういいって?会いたくて来たんでしょ?】


おいおい、追いかけてきたのかよ?


【ほら、お母さんとこ行きなよ】


【何でお姉ちゃんに会おうとしないの?】


【俺の身勝手な理想像の世界だよ。そんなふうな感情で君のお姉さんに会うのは失礼でしょ…ね、だから会うのはやめておくよ】


【お兄さん…】


泣きそうになってる…この娘。


【ほら、戻って民宿手伝ってきて】


俺は両肩を掴んで、反転させて、背中を押した。


【お兄さんは?どこに行くの?】


【住んでいたとこに帰るよ。それじゃ、元気で】


さあ、帰ろう!!記憶はここに置いていく。



……………………………………………………………



戻ってきた、懐かしい実家に。


【こら、ふらふらと行ったきりで、何してんの!!】


いつもの光景だ。安心した。思わす笑ってしまう。


【親が怒ってるのに、何笑ってるの!!】


そうだね。これは失礼だ。


【ごめん、ごめん、お袋俺のこと覚えているね】


【あんた、何言ってんの!!さっきここ出ていって、ほんとふらふらして、変だよ、この頃】


【親父もそうだね。何も言わずに出掛けるよね?】


【全く、親子して変なとこ似て…夕飯は?】


【食べるって言っていいのかな?】


【有り合わせのものだけだよ。ちょっと待ってて】


【ちょっと出掛けてくる、すぐ戻るから!!】


【また、あんたは!!すぐ戻るんだよ!!】


【了解!!】



……………………………………………………………



公園にはいないか?おじいさんは。


そりゃそうだね、ずっとここにいる訳ない…いた!!


【おじいさん、いつもここにいるんだな】


【なんじゃ、いちゃ悪いのか?】


【いや、そんなことは…これ返します】


【そうか…もう必要ないのか】


【ありがとうございました。お陰で思い出の海見つかりました】


【お前さんはそれだけじゃないじゃろ…さては…】


【はい、いろいろとありました。後悔はしていません。ありがとうございました。では】


【解った。わしもここにはもう来ないんじゃ。娘に

同居をしないかって誘われての…それで…こりゃ、話を聞きなさい…せっかちは治らんの〜】


 さあて、よく眠れそうだ。やべっ!!早く行かないとお袋に怒られる…腹減った〜眠い〜ふらふら…












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る