第11話 腕輪

 来たのは、いつもの館。今日来たのは、預けるためでも、雑談するためでもない。昨日のことを話に来たのだ。


 中に入ると、ルシファーとアスモデウスが既に部屋にいた。


「今日はどうした?」


「実は–––––」


 ウァサゴが語り始めると、二人の表情が変わった。先程とは打って変わって、神妙な面持ちになる。


「……なるほど」


 話を聞いたルシファーは手を顎に当て、深刻そうな表情を見せる。


「怖かったわね」


 アスモデウスは私の頭を優しく撫でた。


「やはり、自己防衛くらいはできるように、何かしら教えた方が良いのでは……」


「––––魔力の使い方でも教えるか?」


「え、魔力?」


 聞き間違いじゃない、確かにそう言った。しかし、魔力というのは悪魔だけが使えるものではないのだろうか。人間も使えるものとは、考えたこともない。


「魔力の根幹は“欲”だ。欲があれば、人間でも魔力をつちかうことは可能だ。人間界そっちに魔女がいるのはそういうことだ」


 どうやら、悪魔と同じくファンタジーだと思っていた魔女も、実在するらしい。


 それにしても、欲があれば人間にも魔力が生まれるとは、なかなかに恐ろしいな。

 その気になれば、力を悪用することだってできてしまうのだから。


「確かに結羽には魔力こそ存在していますが……、制御が難しいでしょう。幼い頃から扱っているわけではないのですから」


「そうだな、難しい。だから、無理やり制御させる」


 ルシファーの言葉を理解することが出来なかった。無理やり……と言うと恐ろしく聞こえる。いや、実際恐れている。

 何をされるのかと、不安が募りに募っていく。


 彼が取り出したのは、クリーム色の宝石。キラキラとしていて、とても美しい。


「……何? それ」


「魔力を制御できる物だと思っておけばいい。これを加工して、お前に身につけさせる」


「結羽ちゃん、アクセサリーで好きなのある?」


 あまりにも唐突だったため、何も思い浮かばなかった。普段アクセサリーを身につけることはないし、あっても––––


「––––腕輪?」


「なら、それでいいか?」


 特に問題は無いので、私は黙って頷く。

 彼には、明日また来るよう言われ、今晩は襲われないように、ウァサゴと共に寝ることが決まった。


◆◆


 翌日、私たちは周りを警戒しながら、館へ向かう。何事も無く着くことが出来た。


「何も無かったか?」


「特に問題はありませんでした」


 ルシファーはその言葉を聞くと安堵の表情を見せ、私にちょいちょいと手招きした。

 私が彼の前まで行くと、ある物を差し出された。金のブレスレットに、昨日見た宝石が埋め込まれているもの。加工が施されると、より一層綺麗だ。


「綺麗……」


「今後はそれを常に身につけていてほしい」


「わかった」

 

 文字を書く時などで邪魔にならないように、左手首にそれをつける。


 ただ、つけても何か変わったような感じはしなかった。もう少し何か起こるのかと思っていたけど。


「あらぁ、もう来てたの?」


 ドアが開き、アスモデウスが入ってきた。


「今日は読んでないんだが……」


「ええ、呼ばれてないわよ。勝手に来たもの」


 彼女が満面の笑みを浮かべると、ルシファーは深くため息をついた。だいぶ苦労していそうだ。


「何か用でもあるのか?」


「あのねぇ」


 そう言うと、アスモデウスは私をぐいっと引き寄せ、後ろから抱きつく。左手で私の右頬を触りながら。


「この子を1日貸してほしいなあって」


「「はあ!?」」

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