第35話 話し合い

『はい! こちら魔王が居ると噂の八王子ダンジョンに来ております! 見てください! 入り口の前は警察によって厳重な警備が引かれおります! そして入り口の近くにはカメラを持った人やたくさんの見物人が来ております! 天下五剣ぎ1人鬼瓦健太さんの登場をいまかいまかと待ちわびています!』


 ダンジョンのボス部屋で机の上にテレビを設置して、俺達はテレビを見ていた。

 現在の時刻は6時25分、番組が始まってからこの時間まで、魔王について芸人や俳優が語り合っていた。


 またマスラオさんを倒した時の監視カメラの映像も流れていて、アイドルの美咲ちゃんがこのシーン格好よくて何回も見直していると言ってくれた時は内心では喜んでいた。

 あいなとオタメガには何故か足を踏まれたが……


「いよいよ登場みたいだね」


「ああ、そうだな」


「どんな奴でも関係ありません! 私が出て殺し……はしませんが多少痛めつけて帰らせますので!」


 フィオナがようやく俺の考えを分かってくれたみたいで嬉しい。


「しかし凄い観客ですな。警察の方に今日一日ダンジョンを封鎖させてまで、この攻略をさせるとは国家権力恐るべしですな!」


「そりゃあ当然だよ〜。天下五剣の攻略中に他の冒険者に足を引っ張られて失敗なんて事になったら国のメンツも持たないからね〜」


 普段と別人の様なあいなが口を開いた。

 髪型と化粧だけでここまで変わるってすごいな。


「メンツを気にするならば天下五剣、全員で来れば良いものを! 魔王様の事を舐めすぎだ!」


 俺としては舐められてる方がいいんだけどね。天下五剣の能力が未知数である以上ある程度どれくらいなのかは知っておきたいし……


『おぉっと! 警察車両と共に一台の車がやってきました! あの中に鬼丸国綱の使い手鬼瓦健太さんがいるのでしょうか!? ……あの刀は間違いありません! 彼が鬼瓦さんの様です! 警察の方と何かを話しています!』


 車から4人の男女が降りてきた瞬間をカメラが捉えているのだが、どこか見覚えがある人達だ。


「あの人間……」


 俺が考えているとフィオナが声を漏らした。


「フィオナ、知ってるのか?」


「渋谷のダンジョンにいたあの男ですよ。……私達がダンジョンに入ろうとした時に声をかけてきた」


「あー! あの時の!」


 思い出した! 2人でダンジョンに入ろうとしていた時に注意してくれた優しいお兄さんだ。

 まさかあの人が天下五剣だったとは……世の中って狭いんだな。


「え? なになに知り合いなの?」


 あいなは目を輝かせている。


「知り合いというかなんというか……ダンジョンに入ろうとした時注意してくれたんだよね」


「フィオナ様と太郎くんが?」


「そっ、あの時は私服でダンジョン入ろうとしてたからそれが原因かな?」


「意外と世界というのは小さいものなのですな」


 オタメガは何故かうんうんと頷いている。


「そーだなー」


『おい魔王! ダンジョンに入る前に話をしないか! もし本当に存在するなら戦う前に話がしたい!』


 そんな事を話しながらテレビを見ていると鬼瓦さんが突然カメラに向かって叫び始めた。


「なんでこの人テレビに向かって話してるの……」


 あいなは少し引き気味に呟いた。

 確かに魔王がテレビを見ると思っているのか? まあ実際見てるんだけど……


「どうしますか、魔王様」


「どうするって言われても……」


 話すと言われても話す内容がない。もし俺が下に行ってこのダンジョンを攻略しないように説得できるなら行ってもいいが、これだけ人がいる手前向こうも引かないだろうし……何が目的なんだ?


『最初はアンタの事を噂程度にしか気にしていなかったが、渋谷に現れて以降アンタの事を調べてみた。するとあることが分かった。八王子ダンジョン、魔王城と言われているこのダンジョンではアンタの噂以降死者が出ていない! アンタは本当に魔王なのか?』


 問いかけるように話す鬼瓦さん。


 これはもしかしたら行けるかも知れない。人が死ぬ事を望んでいないと伝えれば、向こうはこのダンジョンに執着することも無いし……


「どうするでござる?」


「……ちょっと行ってくる」


 悩んだ末に出した答えは対話だった。

 もし、戦わずに済むならそれ以上の事はないと思ったからだ。

 

 俺は仮面を手に取り装着する。


「魔王様、護衛は?」


「大丈夫、ちょっと話してくるだけだから」


 戦う訳じゃないんだ。1人で行けば向こうも多少は警戒をしないでくれるだろう。


「分かりました。ご武運を……」


「頑張ってね!」


「応援してるでござる!」


 3人の声を聞いてから転移魔法を使って移動するのだった。


「鬼瓦さん、そんな事を言って魔王が出てくるわけ……出たぁ!?」


 ちょうど鬼瓦さんの正面に転移すると女子アナが驚いて腰を抜かした。

 うわっ、顔ちっちゃ! テレビで見るより美人じゃん!


「……!?」


 鬼瓦さんは女子アナを抱えて後ろに飛んだ。


 そして辺りは騒然に包まれたかと思ったら喧騒に囲まれた。

 カメラはこちらへ向きフラッシュやら何やらで凄いことになっている。


 うぅ、緊張するなぁ。でも今の俺は魔王だ。


 俺は一歩前に出る。すると鬼瓦さんは身構えた。


「どうした? お前が俺を呼んだのだろう? 話がしたいと」


「あぁ、そうだ。でもなんで分かったんだ? まさかテレビでも見てたのか?」


 鬼瓦さんは構を解いて女子アナを後ろに下がる様指示した。そして俺を見ながら話を始めた。


「家の前で煩い奴がいれば誰でも顔を出すだろう?」


 まさか馬鹿正直にテレビ見てました。なんて言える訳もない。


「悪かったな。……じゃあ話したい内容も分かってるな?」


「あぁ、以前きた女にも言った事だが死体の処理が面倒だからだが?」


 配信なんて知りませんよ俺。スタイルで話をする。


「……俺たちみたいな奴らがアンタの城に入るのはいいのか?」


「あぁ、構わない」


 まあ正直困るけど、別に実害があった訳じゃないし。誰もボス部屋まで辿り着けてないしな。


「……アンタの目的はなんだ?」


 少しの沈黙の後鬼瓦さんが口を開いた。

 目的? そんなものないんだけどなぁ。寧ろ俺は巻き込まれたみたいなもんだし……


「さあな。当ててみろ」


 理由を考えるの面倒いしとりあえず誤魔化しとけばいいか。


「っ! まさか世界征服なんて言うんじゃないだろうな?」


「ふっ……」


 なんだそれそんな事する訳ないだろ。鬼瓦さんもいい大人なのに言ってるんだよ。普通に考えて無理だろ。


 何故か俺が笑った瞬間、鬼瓦さんが刀を抜いた。そしてパーティメンバーの3人がそれぞれ武器を構えて近づいてきた。

 それぞれの武器は刀にハルバード、2丁拳銃にメリケンサックだ。


 ってか待て待て! なんで俺を囲ってるんだ!?


「話し合うんじゃなかったのか?」


「あぁ、そのつもりだった。だがアンタの目的が世界征服である以上俺たちはそれを看過できない。アンタが仮面を外して誠意を見せてくれたらまだ対話の余地はあるんだけどな」


 は? 身バレするんだが……流石にそれは飲めないな。


「誠意というならお前達の向けているそれの方が誠意が無いんじゃないか?」


「分かってる。話し合いはここまでだ。」


 瞬間鬼瓦さんの姿が消えた。


 あぁ、仕方ないか。


 俺は転移魔法を発動させてハルバードを持った金髪の女性と位置を入れ替えた。


「ッ!?」


 鬼瓦さんはすんでのところで刀を止めた。


「やるじゃないか」


 俺はそれに拍手しながら答える。


「これが魔王の不思議な力か……」


「正確には魔法だがな。例えば……こんなこともできるぞ」


「きゃ、きゃーー!!!」


 俺はかなり下がった所にいるアナウンサーを念魔法で浮かせる。


「なっ!?」


「さて彼女には人質になってもらおうか。俺としては話し合いで終わらせたいんだ、分かるだろう?」


「ひっ、卑怯者!」


 金髪のハルバード使いが叫んだ。


「先に仕掛けてきたのはそちらだろ? 俺からの提案は2つ」


 そう言って指を2本立てた。


「1つ、お前達がこのまま帰ること。2つ、2度とこんな馬鹿げた事をしない事だ」


 もう話し合いは難しそうだし、帰ってもらう方向で話を進めよう。


「馬鹿げた事?」


「俺に刃を向けるなと言っている」


 宙吊りになっているアナウンサーを俺の近くまで引き寄せる。


「ひぃぃぃ」


「彼女がどうなってもいいのか?」


 辺りは静まり返り、鬼瓦さんの答えを待っている。


「人命は何よりも優先される……」


「なら」


「だが、アンタを生かしているともっと被害が増える。勇気!」


 鬼瓦さんが叫ぶと拳銃を持った男がこちらを狙って構えた。

 マジかよ!? こっちは人質連れてんだぞ!?


 パンッパンッと乾いた音が鳴る。


「きゃー!? って痛くない?」


 撃たれたと思ったらアナウンサーは不思議そうに自分の体を触っている。


「って浮いてるー!?!?」


 空飛んでるからね。にしてもこれは困った。人質大作戦は失敗だ。


「……それが答えか。ならば話し合う事はない」


 このままボス部屋に帰るか。


「魔王、アンタは俺が討つ」


 鬼瓦さんを見下しながら見ると鬼瓦さんは睨み返してきた。


「あの、私はどうなるんですか? もしかしてこのまま落としたりしないですよね?」


 隣のアナウンサーがひどく怯えた様子で訪ねてきた。


「……安心しろ。俺は殺しは嫌いだからな。ゆっくりと下ろしてやる。地面に降りるまでの間景色でも楽しんでいろ」


 俺はアナウンサーの答えも聞かず転移魔法でボス部屋に戻るのだった。

 勿論アナウンサーはゆっくり下ろしてあげるのだった。

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