第34話 オタメガとの

 ギィっと扉が開いた。


「お待たせしました魔王様! 帰還致しました!」


 という訳でフィオナが帰ってきた。

 オタメガが横で涙目になっている。そりゃ誰だってそうなるだろう。自分と一緒に居た時よりも攻略のスピードが上がったのだから、自分が役立たずだと言われたような気分になっているのだろう。


 そんなオタメガが居た堪れなくなって頭に手を置いて撫でてあげる。

 前のオタメガには絶対できない事だけど、体も小さいしやりやすい。というかこいつの髪なんでこんなにサラサラなんだ……シャンプーにこだわってるのか?


「おかえり」


「フィオナ様は凄いね〜」


 2人で出迎えるとフィオナはえっへんと胸を突き出した。


「ああ、凄いだろ! どうですか魔王様! 私の事を見直しましたか!」


 見直しましたかって、残念だと思われていたのは知ってたのかよ。


「うん。見直したよ。……ダンジョンを攻略した感想はどうだ?」


 早速本題に入るとフィオナは顎に手を置いて少し考える仕草を見せた。


「魔物達の動き自体は悪くありませんでした。魔王様のスキルも噛み合っていましたし、ただ……」


「ただ?」


「もう少し魔物の種類を増やしてもいいかもしれません。統率されている分、普通のダンジョンより魔物の数が増えたとしても問題ないと思います」


 魔物の種類か……フィオナが言うなら大丈夫かな?


「分かった。もう少しガチャを回してみるよ。他に気になった所は?」


「特にありません。天下五剣という輩の太刀筋を見た訳ではありませんが、このレベルがあれば問題なく勝利できるかと」


 お墨付きは貰えたし、取り敢えず安心して良さそうだ。


「分かった。態々ありがとな、オタメガも」


「拙者はフィオナ殿の邪魔をしていただけでござる」


 オタメガの方を見て感謝を伝えると分かりやすく落ち込んでいる。

 ここまで酷いとは、どうにか元気の出る言葉をかけてあげたいけど……なんて言えばいいんだ?


「ちょっと太郎くん……」


 悩んでいると肩を指でとんとんと叩かれた。


「ん? どうした?」


「小田くん落ち込んでるみたいだし、一回2人で気分転換に外に行ってきたら?」


 まあフィオナからお墨付きも貰えたし、多少なら大丈夫か。


「オタメガ、ちょっと外に行こうぜ」


「……太郎殿、拙者そういう気分ではないのでござる」


 これは重症だ。


「……そういえば、アキバの方で雪風のフィギュアが新しく入ったってなんかで見たなぁ」


 昨日の夜よく行く店が入荷しました! って広告出してたけど、まだ残っているだろうか?

 分からないけど、これを言えばオタメガは……


「本当ですか!? すぐに行きましょうぞ! 太郎殿!」


 うん。やっぱり元気になった。


「じゃあちょっと出てくる」


 2人に挨拶をして俺とオタメガはアキバまで転移魔法で向かうのだった。



「ってお前、服着替えろよ。俺あっち向いてるから」


 路地裏に転移した俺はある事に気づいた。


 オタメガは現在、雪風と同じ服装をしている。側から見ればコスプレだけど、この状態のオタメガと街を歩くには俺の度胸が足りない。


 俺は異空間から適当に服を取り出してオタメガに渡した。


「太郎殿! 乙女にここで着替えろというのですか!? どういう事でござるか!」


 顔を真っ赤にしながらぷりぷり怒ってきたが、全く怖くない。


「いや、誰も見てないし……それにオタメガはそんなの気にしないだろ?」


 元男だし、どこで着替えても問題ないだろう。

 実際、俺とオタメガは体育の時にトラブルがあって体育館裏で着替えたこともあるし。


「ッ〜!!! 太郎殿の馬鹿! 拙者知らないでござる!」


 オタメガは何故か怒りながらメインストリートの方へ歩いて行くのだった。

 もしかして雪風の体だから気にしてんのか? 別に誰も見ないだろうに。


「ちょっ、待てよ! 本当にそれで行くのか!?」


 ズカズカと歩き進めるオタメガに声をかける。


「アキバならこちらの方が寧ろ礼服でござる!」


 目も合わせずに歩くオタメガの後ろを追いかけるのだった。



 店の前までやってきた俺達はカメラを構えた集団に囲まれていた。

 まあ俺達というよりもオタメガがだが……


「あの、雪風ちゃんのコスプレですよね! 完成度高いですね! 撮らせてもらっていいですか?」


 彼らは通称カメラ小僧、略してカメコだ。


「せ、せ、拙者をですか!? ど、どうぞお撮りください」


「ありがとうございます!」


 オタメガは困惑しながらも喜んでいるみたいだ。オタメガは雪風の代名詞である、忍術を発動する時の構えをした。

 感謝の言葉を述べるとカメコ達が一斉に撮影し始めた。


「うぉ!? まぶっ!?」


 フラッシュの眩しさに思わず目を閉じてしまう。


「アンタ邪魔だ!」


「いてっ!?」


 隣にいた俺はあれよあれよと端の方へ追い出されてしまった。


「あ、あのー……」


 撮影会が開始されては俺の言葉はもう届かないのだろう。オタメガはカメコの指示通りポーズをしているし、カメコ達はそれをカメラで収める為に必死だ。


「はぁ、時間かかりそうだよな……」


 近くの自販機でジュースを買ってそれを飲みながらオタメガを見る。

 少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。


「夢が叶ってよかったな」


 俺は誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


 もう少し、待っているかと思ったその時、オタメガの近くにいた最前列の奴らが凄いローアングルで撮影し始めた。


「そ、その! 少し下から撮りすぎでござらんか?」


 当然オタメガも気づいているようで注意し始めた。


「大丈夫! 可愛く撮れてるよ!」


 はいダウト。君、パンツ撮ってるね。


 にしても先程までいい雰囲気だったのに、空気もピリピリし始めた。

 マナーがなってないカメコのせいで一般カメコ達が怒ってるみたいだ。でもローアングルを止めようしていない。


 事情を知っている俺からしたら地獄絵図だ。

 むさ苦しい男共がオタメガのパンツを狙うなんて……


「はぁ……使う気はなかったんだけどな……」


 魔王モードじゃないので、魔法を使う気はなかったけど……仕方ないか。


 魔力で近くにあった小石をいくつか浮かせて、ローアングルばかり撮っている奴らのカメラはぶつける。

 そしてそれが当たるとカメラのレンズは割れて、本体も壊れた。


「え!? なんで石が!」


「か、カメラがぁ……」


「嘘……だ……ろ」


 マナーを守らないお前達が悪いんだからな!


 心の中でそんな事を呟きながら平和に戻った撮影会を眺めるのだった。




「今日は楽しかったでござる! 太郎殿、改めてありがとうございます」


 あれから撮影会は終わりフィギュアも買えた帰り道、オタメガが笑顔で頭を下げてきた。


 落ち込んでるのが、少しでも治っていればいいけど……


「俺も楽しかった。お礼なんて言わなくても大丈夫だよ」


 実は俺も幻と言われる昔のゲームを格安で買えたので満足している。

 むしろお礼を言いたいのはこっちの方まである。


「拙者がお礼を言ってるのはカメラを壊してくれた時の事でござる! あの時、拙者からは注意しづらかったので本当に助かったでござる」


 あぁ、あの時のことか。


「あー、そんな気にすんなよ」


「そういうわけにはいかないでござる。という事で何かお礼がしたいでござる!」


「お礼? 別に何もしなくてもいいけど……あっ! そう言えば、お前のラボにアラガミ5があっただろ? アレやらしてくれよ!」


 魔王騒動に巻き込まれる前、最新作格闘ゲームアラガミ5が出たのだが、俺は買えていないし忙しすぎてそれどころじゃなかったのだ。


「それで構わないのですか?」


「勿論! アラガミ4ではオタメガに勝てなかったからなぁ! 5でリベンジだ!」


 俺のリリィがオタメガのペガサスの前に何回も散ったのは苦い記憶だ。


「ふふっ、拙者に勝とうとは100年いや1000年早いでござる! 進化したダークペガサスの力を見せてやるでござる!」


「うっそだろ! ペガサスって強くなったのかよ!」


 ただでさえ強かったキャラに強化って運営頭おかしいだろ。


「そうでござる。ダーク化したペガサスは遠距離技も習得したのでござる! ふっ、降参するなら今のうちでござるよ!」


「上等じゃねぇか! リリィでぼっこぼっこにしてやんよ!」


「あっ、今作からリリィは削除され他でござるよ」


「ガッデム! ならアキラは?」


「そのキャラならいるでござる」


「OK! なら問題ない! 早く行こうぜ!」


 2番目に得意なキャラがいることにして安心して俺とオタメガはラボに向かうのだった。


 その日は対戦を楽しみ、次の日からは対策をして、とうとう決戦の日を迎えるのだった。

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