閑話。エルフで始めるオンライン

 ……すっげぇ!!!


 俺は空いた口が塞がらなかった。

 イノセンスファンタジア。俺がこれまでやっていた、ゴブリンスロートオンラインよりも一世代あとのVRMMO。ベータテストに応募したものの落選。半年経ってようやく、始めることが出来た。


 そこで俺は気付く。

 リアルすぎると。


 至高のイケメンを目指してキャラメイクに時間をかけ、降り立ったのは森の中。まずこの時点で違いが多数。


 触覚。土を踏んでいる感覚がある。


 これまでのVRMMOは、フルダイブである弊害か何処かしらフワフワした感覚があった。夢のような感じで、土の感触なんか覚えたことはない。

 だけどここは違う。確かに土が足の下にあって手ですくえば1個1個の砂が指を滑り落ちる感覚までわかる。


 嗅覚。風が微かな森の匂いを運び、土に鼻を近付ければ湿った匂いを感じる。


 そして、視力。

 これまでのVRMMOには、なんと言えばいいか……

  そう、画質が存在していた。

 どの違うメガネをかけているような、20年前のテレビを見ているような。


 そんなものは一切ない。リアルと1ミリの狂いもなく、ツルッツルだ。

 そんなはずないのに、五感はここが現実世界だと訴えてくる。


 だから、それは仕方ない。いや、現実だとしたらダメなんだっけ?

 まぁ無罪であろう。アカウントBANの音は聞こえてこない。


「……何やっとるんじゃこの変態!!!」


 目の前で話をしようとウズウズしていた、金髪ロリエルフのほっぺたを触ってしまったのは。


『警告』


 あ、ダメっぽい。システムメッセージが脳内に響く。


「……ごめんなさい!!!」


 思わず頭を下げる。システムなんてなくても謝っていただろうけど。

 そんくらい、見た目にそぐわず怒ったプレッシャーは凄かった。

 年齢を聞いた時も同じくらいのプレッシャーを感じた。


「……チュートリアルを始めるぞ。タイチ」


 このロリエルフ。(お名前はサティちゃんと言うらしい)がどうやらチュートリアルを進めてくれるようだ。


 最初に行ったのは種族の選択。

 ここは迷わずエルフにした。

 せっかくの美男キャラメイクはこのため……

 ゲフンゲフン。ボク悪い出会い厨じゃないよ。


 とにかく、エルフを選択。耳が伸びた以外は大きな変化はなさそう。

 ……ん? さっきよりも音が大きく聞こえる、かも。

 森の中、どこに生物がいるのかが分かる気がする。


「ちっ、変態でもエルフじゃったか」


 ロリババアエルフ(推定)は容赦がないな。


 チュートリアルは進む。


 簡単に纏めると、このゲームはスキルが重要になってきそうだ。比較的簡単に取れるが、初期の状態じゃ器用貧乏ですらない貧乏。

 称号などの獲得によって、スキルの幅を広げるかスキルの熟練度を上げてできることを増やすかがメインっぽい。


 だからこそ、初期スキルは万能and育てれば強そうな【風魔法】と【弓術】を選択。


「……典型的なエルフじゃなぁ。変態の癖して」


 サティちゃんは容赦がないな。


 職業の選択肢は3つ。両スキルそれぞれに対応したものと、合わせて対応したものっぽい。

 悩んだけど、ここは合わせてっぽい【レッサーエルフ】で。

 ……いや酷ないか? 気分はもう、1人前のエルフなんですけど。


 ある程度トントン拍子で話は進み、いよいよ初戦闘ってとこまで来た。


 サティちゃんが強引に俺から離れようとした説は否めないが。


「……誠に嫌じゃが、フレンド登録をしておいた。分からないことがあったら聞くがいい。なお教えられる知識は全部詰め込んだので、分からないことなど無いものとする」


 別れの瞬間まで酷い。

 だけど、確かに結構いっぱい教えて貰った気がする。

 ゲーム内時間では1時間が経過。ここはリアルの3倍加速なので現実の20分換算ではあるんだが。

 なげぇよ。もしお相手がロリエルフじゃなかったら途中でログアウトしてたよ。


 いや、まぁ途中でチャチャ入れてた俺も悪いか。


「それでは戦闘エリアへ移動させる。最初はエリア最弱のモンスターに近いところに出るから、そ奴を倒せ。倒したら街を目指すのじゃ。徒歩で10分も行けば見えるじゃろう。その不相応な耳を使えば方向は分かるじゃろ」


「うす、頑張ります」


「人に迷惑をかけずに自由に生きよ。続けて居ればいつか会うこともあるじゃろ。達者でな」


 言葉と共に、サティちゃんが下手くそな(かわいい)口笛を吹く。

 瞬間、目の前の景色が切り替わ……らない?


 目の前は、さっきと同様に森の中。


 いや、ちょっと違う。サティちゃんの姿が無くなっている。木の種類もちょっと違う?

 だけどそれ以上に耳が、そこに住まう生物の質が違うと教えてくれる。


 言葉通りだったようで、飛ばされたのは初期マップだろう。

 明るい森だ。


 事前情報通り、マップはかなり広いのだろう。他ゲーの開始日とは違い、初期マップに溢れる程の人ということはない。


 周囲の確認は完了。

 大型のモンスターも近くにはいない。


「……よし」


 だから小さく呟き、目を逸らしていたソレに向き合う。

 目の前にいるのは、サティちゃんが言っていた最弱のモンスターだろう。

 うん、弱いんだろうな。多分。


 だけどさぁ、コレはちょっと違うんだけど。


 顔くらいの大きさのナメクジは、聞いてないんだけど!!!!


「【風魔法】!! かまいたち!!!」


 スキルの宣誓と同時にやりたいことをイメージする。うっし、成功。


 広げた手のひらから出た風の刃が、ナメクジの表皮を切り裂く。

 反撃は愚鈍。この大きさまでよく生きれたなコイツ。

 風と初期装備のボロボロの弓を駆使すること10分弱。

 タフではあったものの、一撃も喰らわずに討伐完了だ。


『レベルがアップしました。称号【初撃破】を達成しました。称号スキル【鑑定】を入手しました』


 うんうん、順調である。

 レベルは2個アップ。ステータスは賢さと精神力に。魔法のダメージは中々のものだった。

 得た称号は、サティちゃんに教わった通りに名前の上に。

 その状態で、ドロップアイテムの瓶を見てみる。


【小ナメクジの粘液】薬用。


 うん。名前だけじゃなくて効果も見えるな。ちょっと寂しいけど、熟練度が上がれば見える範囲は増えるはず。後で葉っぱとか片っ端から【鑑定】しよう。


 最後にスキルの【聴力強化】を購入して、まぁ完璧といえるような初戦闘は終わった。

 サティちゃんさんのおかげですわ。


「……よし、じゃあ言われた通り街でも探しますか」


 サティちゃんの言うことに間違いはない。

 だから、その言葉に従って街を探そう。


 耳に頼れ。

 だっけ?


【聴力強化】も入手済み。

 街の喧騒を探して耳をすませば……


「助けて!! 誰か!!! 誰でもいいから!!! ぐっ」


 あ、ダメな奴だ。

 街は多分見つけた。走れば10分の位置。

 だけど、真反対に5分。


 少女の悲鳴が、確かに耳を打った。


 サティちゃんの言うことは絶対的に正しい。

 ここは街に向かうのが正規ルート。

 だけどさ、だけどさぁ。


「出会い厨、舐めるなよ?」


 思考がまとまる前に、街に背を向け走り出していた。

 ナイス身体。


「待ってろ美少女。俺が助けてやるからな!!!」







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人魚少女は海を泳く~旧題:サカナで・ボコす・オンライン~ 譚織 蚕 @nununukitaroo

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