第8話

「見つけた」


 浅瀬、氷の下、湖に下水道。


 沖合、岩壁の下、暖流に寒流。


 そして深海。


 1000に飛ばした意識のうちの1つが、その光景を見届けた。


「……全プレイヤー最速デスね。……おめでとう? リプソンちゃん」


 この世界においてただ1人のみが手に入れられる称号。それに付随するスキルはどれも強力だ。


 例えば、最初に民を纏め王に至ったプレイヤーがいた場合。【始王】の称号は民からのスキル借用と付与を可能とする。


 だからこそ、今日はどこも勝負である。

 始まりが最も生まれやすい日なのだから。


 ある種のギャンブル。だが、今日の私は調子がいい。


 最速の死者が、生命の源である私のもとうみで生まれた。


 レベル1とは思えない泳ぎの速さ。

 無鉄砲さ。

 意志の強さ。


 スキル構成は歪で、少し不安ではあるが。


 人魚という種族もいい。正統派だ。


 先程まで意識を割いていた少女は、何が面白いのか貝なんかを選んでいた。

 海はこんなに広いのに、ほとんど動けない種族を選ぶなど愚か過ぎるだろう。


 ……種族の特性を活かしてキャラメイクを速攻で終わらせ、そのまま【ファーストブラッド】の称号を得たこと以外は。


 駒が揃い始めている。

 これならば。これならばきっと……


 大切に、大切に。時には苦難を与えて強靭に、強靭に。


 育てなければならない。


 来る日のために。


 だからここで折れられては困る。こんな試金石で、折れられては困る。


「……遅くなってごめんなさい」


 嘘よ。ちゃんとずっと、ちゃんとずっと見てたわ。


「最後のチュートリアルを始めましょう」

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