第4話 イフリート、依頼、受ける

翌朝。老人貴族に言われた通り俺は応接間にやってきた。


「朝食はどうだったね?」

「俺は馬鹿舌ですからねぇ。分かんねぇですけど、冷めてて薄味であんまりうまくなかったっすわ(ド直球)」


場が凍ったが貴族は高笑いしていた。


「ははは、実に素直な青年だ。気に入ったよ。君を見込んで正解だった」


そう言うと貴族は言った。


「実はね、君に依頼したいことがあるのだよ」

「俺に依頼?」


そう聞くと貴族は言った。


「これからとある辺境に向かうのだがね。私の護衛をお願いしたいのだ」

「護衛?SPってやつですかい」

「そうだ。それだ。報酬ははずもう」


パチン。


老人が指を鳴らすと扉が開いて騎士が入ってきた。


(俺も指パッチンしたら何か起きるかな?例えばメイドが入ってきたり)


バチーーーーーーーーン。


指パッチンすると指が燃えて火が出てきた。


「ははは、君は直感が鋭いな」


そう言うと老人はタバコを取り出してきた。


「ちょうど一服したいところだったのだ。火をつけてくれないか?」

「うぃっす!」


タバコに火をつけると老人は喜んでいた。


指を高速で振って火を消した。


騎士が俺の近くにやってきて口を開く。


「今から行くのは高貴なる天上人の家です。こちらにお着替えを」


そう言って渡してきたのはタキシードとサングラスだった。


「サングラスまでつける意味あるんすか?」


騎士は神妙な顔つきで老人を見た。


「主、意味があるんですか?」

「はて、ワシはその意味を知らぬ」


どうやら誰もSPがサングラスをつける理由を知らないらしい。


俺たち3人は顔を見合わせて


「「「ぶはははははははは。知らねぇのかよ!」」」


笑いあった。

貴族が思い出したように口を開く。


「あ、いや。一応意味はあってじゃな。なんと煙などが見えなくなるのじゃ。どーら、警備もしやすいだろう?」

「へー」


俺は言われた通りスーツを着てサングラスも着用した。


(んひょーーーー、かっけぇぇ!!憧れのえっすぴー!)


ピースしながら爺さんの方を見る。


(本当に煙が見えないんだな)


煙が出ていないように見ててクリアに見えた。


だから、見えてしまったんだ。タバコの先っちょの違和感が。


「爺さん、タバコってのは先端が青紫なんですかい?」

「はっ」


気付いたように老人はタバコの火を灰皿で揉み消した。


そうしてから服の中に入れてたタバコの箱を取り出すとゴミ箱に捨ててた。


「よく気付いてくれたねイフリート」

「どうしました?」

「最近微弱な毒を日常的に摂取していたようなんだ。おそらくタバコから摂取してたんだろう。誰かが塗ったのだ」

「いったい誰が?」

「先日離婚した妻だろう。ワシのことを恨んでいるのはあいつくらいだ」

「なにかあったんですか?」

「ワシがキャバ嬢との間に子供を作って離婚表を叩きつけたのだ。お前とは離婚する!って。よく考えたらワシが全面的に悪いな」


俺と騎士は見つめあってから同時に叫んだ。


「「自業自得じゃねぇかよ!」」


俺たち3人はまた笑いあった。




貴族の屋敷を出ると俺たちは馬車に乗り込んだ。


ここでやっと名前を聞いたが貴族の名前はキゾーク、騎士の方はキシーという名前らしい。


実に覚えやすくていい。


「さて、これから向かうのはとある貴族の家だ。片道半日ほどかかる」

「ほえー。遠いっすね」


そんな話をしていた時だった。


運転席に座ってたキシーが叫んだ。


「大変です。キゾーク様!」

「どうした?キシー」

「馬が酒を飲んでいたようで二日酔いで走れません」

「なんだと!」


そこでキゾークは頭を抱えた。


「誰だ馬に酒を与えたのは!くそっ!待ち合わせ時刻に遅れてはならんと言うのに」


そこで俺は手を挙げた。


「あんのー。キゾークさん」

「なんだ?お主は回復魔法なども使えるのか?」

「いや、回復魔法は使えないっすけど」


俺は馬車を降りて馬が引っ張るところを手で掴んだ。


「俺が走りますよ。だからあんたらは大船に乗ったつもりでいろって」

「すまん。恩に着るぞイフリート」


キゾーク達は俺を信用してくれているらしい。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!俺のターン!筋肉魔法発動!イフリート号発進!」


俺は走り出した。


走り出した俺を待ち受ける最初の難関は


「地獄谷だ。落ちれば生きては帰って来れないぞ。まずここで迂回するのに1時間ほどかかるんだ」


キゾークの言葉。


「俺を信じてみろよ!谷を飛ぶぞ!」

「おうっ!信じよう!」


ジャンプした。

しかし馬車が重くて思ったより飛距離が出なかった。


「筋肉魔法発動!空中ジャンプ!」


シュコッ!シュコッ!


両足を思いっきり使って風圧を起こしながら俺は空中ジャンプをしていく。


そして、谷を渡りきった。


「信じられませんね。あの地獄谷を超えるなんて」

「奴は不可能を可能にする男だキシー。お前も見習うがいい」

「イフリート、なんてやつだ」


そんな声を聞きながら俺はまた進んで行った。


次に俺を待ち受けたのは巨大な湖。


「ふん。ただの湖じゃないか。さっきより楽だ」

「気をつけろイフリート。この湖には主がいる」


「それがどうした!」


俺は昨日のように湖に指を突っ込むとかき混ぜ始めた。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


やがて湖の水は天へ登っていく。

その中には鰻みたいなのがいた。


「あれが主のリヴァィサンだが、竜巻に巻き込まれている、今のうちに突破だ」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


俺は駆け抜けた。

全身全力で。


そして、数々の困難を乗り越えた俺たちはやがて目的地についた。


「ふん。俺の筋肉魔法の前では児戯だな」


ドヤ顔しながらキゾーク達を馬車から下ろす。


「ご苦労。助かったぞイフリート。さすがワシの見込んだ男だ」


そう言いながら降りてくるキゾーク。


そのままキゾークは最後の身だしなみチェック。


ポケットからハンカチを取り出すと胸ポケットに入れていた。


「ん?イフリート。何をしている。お前もハンカチを胸ポケットにいれろ。これはマナーである」

「そ、そんなもの持ってませんよ?!」


「そ、そんな馬鹿な。すまん。用意しなかったワシが悪かった!それより何か持っていないのか?なんでもいい。とりあえず布を詰めておけ。誤魔化せ!何も無いと門前払いだぞ!」


そう言われて俺は思い出した。


「布……ならありますよ」

「でかしたぞ!それでいい。中に入れろ!ちょっとだけ見えるように出すんだぞ」


俺はインベントリからメイドのパンツを取りだした。


それを胸ポケットに入れた。


まるで、ここに収まるのが正しいと言うようにパンツは吸い込まれていった。

素晴らしいフィット感。


これは【正解】の行動だったようだ。


(ふん。やはりこのパンツはキーアイテムだったようだな。俺の見立てに狂いはなかった)


堂々と胸を張っていると誰も胸ポケットに入ってるのがパンツだと気付かない。


否っ!


気付けないっ!


(ふん。これでマナーチェックはクリアだ。あとは商談を成功させるだけっ!)


俺は言われた通りSPとしてキゾークの後ろで立っている事にした。


キゾークが商人の大豪邸に向かって歩き出す。



名前:イフリート

装備:タキシード


アクセサリー:メイドのパンツ


堂々と胸を張れ!

胸ポケットに入っているのがパンツだとしてもっ!


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