第6話 刑事と佐藤楓

青木は動かない。

日野が慌てながら言った。


「狩野!警察を呼んで!」


狩野が動揺しながら叫ぶ。


「警察!?」


神崎が青木の手首に手を触って脈を確認するが脈の音がない。


「死んでる……」


それを聞いてカメラマンの富永が汗をかきながら叫ぶ。


「うわぁマジか!」


カメラマンの富永はスクープだと思いカメラを回し始める。

それをディレクターの神崎が怒鳴って制止する。


「おい! 富永! カメラはやめろ!」


富永はカメラを回しながら言う。


「まあ硬い事を言わずに!」


楓が青木の顔を覗いて呟く。


「毒殺ですかね?」


富永が楓に聞いた。


「 分かるのか姉ちゃん?」


「いえ……専門家ではありませんので分かりません」


「なぁんだよ! でも毒かもなぁ。異常な苦しみ方だったしな」


カメラマンの富永はカメラを回し続けた。

数分して救急車と警察と刑事も到着した。

女性刑事が大きな声で言う。


「刑事の佐藤奏です。今回は自殺か事件か捜査します! みなさん動揺されているかと思いますが捜査のご協力をお願いします。今から事情を聞かせてもらいます」


すぐに全員が佐藤楓の顔を見た。

楓は苦笑いをして誤魔化すが、どう見ても女刑事と楓の顔はそっくりだ。

中島が楓に質問する。


「楓先生の姉妹ですか?」


「 あぁ姉だよ」


「 もしかして楓先生が事件に深く関わらない理由はお姉さんに会いたくないからですか?」


「 姉に会うと大変なんだよ……」


奏が楓に近づいて声をかける。


「楓こっちに来たなら私に連絡をよこしなさい」


「急な旅行だったので……」


奏は楓を指をさして偉そうに言う。


「旅行ね……どうせ仕事したくないからフラフラしてるだけだろ! 小説家より刑事になりなさい! やりがいがあるぞ!」


うんざりした顔で楓は答える。


「 私は刑事になりませんよ!」


「私は諦めない! 気が変わったら私にいつでも連絡しなさい! あなたには期待してるのよ」


奏は華麗に去ってゆく。

中島は奏の勢いが凄くて一言も言葉を挟めなかった。


「お姉さん強そうですね……」


楓は疲れたように中島の肩に手をのせてもたれながら事情を話す。


「 前に知恵をかしたら毎回この調子。姉は鋼のメンタルで怖い人なんだよ」


事情聴取が始まる。

現場になった店で個別で事情聴取を受けた。

最後に楓は事情聴取される。

刑事の佐藤奏と吉岡宏太が事情を聞いた。


「初めて! 吉岡です! 楓先生の大ファンです!」


愛想笑いをして楓はお礼を言う。


「それは、ありがとうございます」


吉岡は握手をしてニコニコしながら言う。


「 捜査ご協力をお願いします!」


吉岡は忠犬みたいな青年で姉に従順そうだ。

奏が楓に聞く。


「 楓は被害者と同じものを食べてるけど体調は大丈夫か?」


「お陰様でピンピンしてます」


「そう良かった。今回、青木さんは自殺の線は薄い。殺人の可能性が高い。楓は犯人の目星はついているだろ?」


楓は困った顔をして答える。


「いえ、情報がないので……」


奏がニヤリと悪い顔をして言う。


「じゃあ刑事がうっかり事件の情報を話そうか? 吉岡!」


吉岡は待ってましたという顔をして話す。


「はい! 皆さんから聞いた事情聴取の内容を読み上げます」


楓は叫ぶ。


「吉岡! 読み上げるなー!」


奏が鬼のような目で睨む。


「楓……何か文句でも?」


楓は諦めた顔をして答えた。


「いえ何もないです」


奏は偉そうに言う。


「 心して聞きなさい」


吉岡は事情聴取の内容を楓に教えた。

奏刑事は事情聴取で青木は自殺する様子があったか聞いて更に青木を恨んでる人やトラブルになった人を聞いた。

最初に事情聴取を受けた照明の狩野の話……


「青木は自殺するような人間ではありません。確かに最近は日野さんが青木に振られて現場の空気は悪かったけど。そんな事で彼女は落ち込んだりしませんよ。それにカメラマンの富永さんが青木が振ったところを撮って、データがほしいならお金くれって言われても青木は裁判をするって強気でしたから自殺はありえません」


次にカメラマンの富永の事情聴取では……


「ちょっと冗談でお金くれって言ったら青木が怒ってさぁ。青木はスポンサーのお気に入りだからってディレクターも俺に怒ってくるし。面倒でしたよ。でもよぉそれくらいで青木を殺そうなんて考えませんよぉ。まぁ自殺はありえないから誰かがキレてやっちまったなぁ」


次に日野を事情聴取……


「 振られてムカついたけど! でも俺より苦しめられてるのは朝倉さんじゃね? 朝倉さんは青木にすすめられた投資で借金して!! 青木の担当メイクをやめられないって愚痴ってたから犯人は朝倉さんだろ?」


次に朝倉の事情聴取……


「借金の事で青木さんを殺したりしません!! 借金なら神崎さんも私と同じですよ!! 青木さんは確かに性格は悪いですが、いいところもありました。青木さんが死んだら困るのは私ですよ!収入が減るので生活が困ります。青木さんが亡くなって悲しいのに生活の事もあって……本当これからどうしよう……」


次にディレクターの神崎の事情聴取……


「あぁ借金なんて気にしてませんよ。ギャンブルは自己責任ですから。確かに青木の性格にはムカついていましたが日野や狩野よりは恨んでませんよ。狩野は青木の元恋人で喧嘩ばかりで仕事にならない時もありました。あと日野はだいぶ貢いでましたよ」


事情聴取で全員が青木とトラブルになっていた事が分かった。

事情がよく分かったところで奏は楓と犯人の答え合わせがしたいようだった。


「殺害された青木さんは毒殺」


楓が質問する。


「毒は化粧品から検出されましたか?」


奏は嬉しそうに答えた。


「 そう、そのとおりだ」


楓が続けて質問する。


「 毒は口紅とグロスリップのどちらから検出されましたか?」


「グロスリップだ」


「指紋は調べましたか?」


「もちろん! 持ち主の朝倉さんの指紋しか出なかった。あと全員の持ち物に手袋や怪しい物は何も見つかっていない!」


吉岡が質問する。


「犯人は朝倉さんで決まりですか?」


楓が話す。


「状況的に朝倉さんですね。ちなみに中島ちゃんは事情聴取で何か言ってましたか?」


奏が指示の声をあげる。


「吉岡! 報告!」


吉岡は真面目に答える。


「 はい! 中島さんは皆さんをあまり知らないので特別な情報はありませんが、青木さんが倒れる前に日野さんが中島さんと青木さんに冷たいコーヒーを差し入れしてくれたそうです。それを青木さんも飲んでました。以上です!」


奏が補足を言う。


「コーヒーからは毒は検出されてない」


吉岡が真剣な顔で言う。


「やはり毒の化粧品を持っていた朝倉さんが犯人ですね!」


楓は何かに気づき奏に声をかける。


「お姉様お願いがあります」


奏がご機嫌良さそうに話す。


「楓がお願い事をするのは珍しいな。お願いは何だい?」


楓は真面目な顔で言う。


「 全部の化粧品から私の指紋を見つけて下さい」


奏は驚き一瞬だが動きが固まった。

それから左手で自分の顔を覆い笑って聞いた。


「他にお願いはあるか?」


楓はニヤリとして答える。


「探して欲しいものがあります」


奏は指示の声をあげた。


「吉岡! 探し物だ!」


吉岡は姿勢を正して返事をする。


「はい! 了解であります!」


探し物は吉岡に任せた。

それから全員が店内に集められた。

奏刑事が話を始める。


「事件について話がありまして皆さんに集まって頂きました」


富永が質問する。


「犯人が分かったのか?」


奏は自信満々に発言した。


「そうです! ちなみに犯行方法ですが毒殺でした。ちなみに化粧品から毒が出ました」


スタッフは朝倉を見た。

朝倉は驚きながら言う。


「私は何もしてません!」


奏が声をはる。


「朝倉さんは犯人ではありません。朝倉さんは真犯人に利用されてたのです!」


狩野が周りを見ながら質問した。


「じゃあ誰が毒を?」


富永が首を傾げて言う。


「本当に朝倉じゃないのか?」


奏が話す。


「化粧品を調べたら朝倉さん以外の指紋も検出しました」


富永が笑いながら言う。


「まぬけな犯人だな」


神崎が聞く。


「誰の指紋ですか? 」


奏が話す。


「その前に皆さんに確認ですが朝倉さん以外は化粧品には触っていませんか?日野さんどうです?」


日野さんは少し驚き答えた。


「えっ 俺は触ってない!」


奏は頷きながら言う。


「そうですか……朝倉さんが犯人なら1回目の化粧で犯行を実行されると思いませんか? でも犯行は2回目の化粧でした!」


中島が気づいた。


「1回目化粧を終えて化粧品が出てる時に誰かが毒の化粧品とすり替えた!?」


富永が呟く。


「食べ物の単品を撮ってる時に化粧してるよなぁ」


狩野もボソボソ言う。


「その時はディレクターとカメラと照明は仕事してるから音声は手があくけど……」


日野は慌てながら言う。


「 俺はすり替えてねぇ! そもそも誰の指紋なんだよ! 誰か言えよ!」


奏がため息をつきながら言う。


「実は毒の化粧品からは朝倉さんの指紋しか出ませんでした」


日野は喜んだ顔をしながら言う。


「ほら! やっぱり! 朝倉の指紋しか出てないなら朝倉が犯人だ!」


楓が口を出した。


「朝倉さんの指紋しか出なかったのは変です!


日野はイラつきながら言う。


「なんでだよ!」


楓は笑いながら言う。


「だって私は朝倉さんに化粧品を見せてもらって全部の化粧品に触ったんです。私の指紋が出ないと変なんですよ」


日野は顔色が暗くなった。

奏が補足を伝えた。


「化粧品すべてを調べました。持ち主の朝倉さんとゲストできた楓の指紋が確認できました。しかし楓が触ったはずの毒の化粧品には朝倉さんの指紋だけです。これは化粧品がすり替えられた事が明確です」


日野はオロオロする。


「でも! 俺がグロスをすり替えた事にはならない!」


全員が騒つく。

富永が隣にいた狩野に聞いてみる。


「グロスってなんだ?」


「僕に聞かれても、化粧品はよく分からないのです」


神崎もよく分からない顔で発言する。


「 口紅の事だろ?」


中島が奏に質問した。


「あの口紅じゃなくてグロスに毒が?」


奏は少し笑みを見せて話す。


「言い忘れまだが口紅ではなくグロスリップに毒が入ってました」


楓が朝倉に質問した。


「青木さんは口紅とグロスリップを塗るのがお好みだったんじゃないですか?」


朝倉は答えた。


「はい。普通はどちらかを塗れば十分なんですが……青木さんはグロスリップだと色が薄いし、すぐ落ちるから気に入らない言ってました。でも口紅だけだと潤いがイマイチと言われて……口紅とグロスリップを重ねて塗ってました」


中島が呟く。


「色の濃さで口紅だと思ってました」


日野は汗をかき始めた。

その時に吉岡が戻ってきて叫ぶ。


「見つけました! トイレのゴミ箱からグロスリップを見つけました! 朝倉さんと楓さんの指紋ついてました! それから日野さんの指紋も確認できました!」


日野は口を大きく開けて汗をかいて驚いている。

奏は笑いながら言う。



「ふふふっ……これは日野さん大きなミスだ。毒入りのグロスが現場にあるからすり替えたグロスは探されないと思って指紋を吹かなかったみたようだ」


慌てながら日野は叫ぶ。


「俺は違う! 誰かが俺の指紋をつけたに違いない!」


奏が一喝する。


「いい加減認めなさい!」


急に日野はわめきだす。


「うわぁぁああぁぁ!!!」


日野が暴れ出して中島に飛びかかろうとした。

しかし楓が中島を突き飛ばし庇う。

楓の首に日野の左腕が巻きつき楓の後ろに日野は回る。

楓が人質になってしまった。

全員が恐怖で声を出せなくなった。

しかし奏は平気そうに話しかける。


「こんな事しても無駄だ!」


「俺はやってない!」


呆れた顔で楓が言う。


「わぁまだ認めないのぉ」


「うるせぇ!」


楓は我慢の限界だった。

楓は右肘で思いっきり日野の腹部を突く。

日野が腹部の痛さで腕の力がゆるんだ隙に楓は日野の左腕を素早く引きながら同時に足を蹴りはらい背負い投げをした。

楓は呟いた。


「ポケット」


日野は投げられた事にも驚いたが楓が言うポケットの意味も分からない。

楓は髪と服を整えながら言う。


「 あなたが朝倉さんのグロスをポケットに入れて運んだならポケットから化粧品の成分が出てくるよ。化粧品って結構さぁ他の化粧品の粉とか付いてるから!」


それを聞いて日野は自分が言い逃れできない事を理解した。

日野はパトカーに乗せられて連行される。

楓が無事で良かったと中島は楓に抱きつきながら泣きながら叫ぶ。


「楓せーんしぇーよおがぁったー」


「中島ちゃんもう大丈夫だから泣かないで落ち着いて」


吉岡がキラキラした目で楓に言う。


「楓先生! 本当に無事で良かったです! あんなに強いなんて凄いっす!」


「護身術は姉に鍛えられたものだよ」


奏は笑みを見せながら言う。


「楓は推理もできて腕もいいから刑事にむいてるだろ」


吉岡が興奮しながら言う。


「はい! 是非刑事に! あっでも楓先生の小説が読めなくなるのは困るな。探偵はどうでしょうか?」


中島が涙を手で擦りながら言う。


「楓先生は小説家です! こんな危険な事はさせられません!」


楓はなんだか照れくさそうに言う。


「中島ちゃん心配してくれてありがとう」


奏たちはまだ仕事があると言いパトカーに乗り込み去って行った。

楓たちも荷物をまとめて帰る事にした。

楓はため息をして言う。


「また明日からは小説を書くのか」


「書いてもらわないと困ります」


「まだ小説が思いつかないなぁ。書けないと困るよね。そうだぁ! 今から名古屋に行って泊まらない?」


中島は驚く。


「はぁ? ダメです! 帰りましょう!」


「今から東京に帰るのは遅いし。名古屋に泊まろうよ。それから、ひつまぶしと酒を飲んで……あぁ! いいねぇー!!」


また楓は小説を書くのをサボりそうだ。

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