第5話 漏洩

優馬から情報をもらう代わりにカードデッキを引き渡してしまった京狐。

しかし、謎のプレイヤー「ハンツ」の急襲により、京狐はカードデッキを持たずにミラーワールドに引きずり込まれてしまう。


「デッキが無ければ、ミラーワールドに連れ込まれることはあっても、出ることはできない。」

エンブースターが京狐にそう告げる。

「うそ、でしょ。」


ハンツが後ろからエンブースターに切りかかる。エンブースターはそれを察知して受け止めるが、炎の刃に耐えきれず、カフェの窓ガラスを突き破り京狐の真横に突き飛ばされた。

立ちすくむ京狐とエンブースターの周りにはガラスの破片が散乱する。

「お前まさか、デッキ忘れたのか?ははは、過去一で間抜けな野郎だぜ。お前は詰みだ。」

ハンツは動けない京狐を見下し言った。

「詰んだ、、?」


「あばよ。」

ハンツが炎の刃を振り上げ、振り落とした。

エンブースターが自前の俊敏な動きで、間一髪で京狐を救い、カフェの外へ出た。


「おい、おい!しっかりしろ!諦めんじゃねぇ、デッキはユニティが持ってんだな?俺が取りに行く。お前は逃げろ死なないように。」

「ああ、それ行けんのか。えでも逃げるって、えぇ!!?あいつからぁ??!!」

京狐はハンツを指さす。ハンツがカフェから出てきて、炎の刃を構え持っていた。

ハンツのデッキにはライオンの様な紋章が刻まれていた。確かに、その形相は獲物を狩る獅子そのものだ。

「ムリムリムリムリムリムリ!」

「んなこと言ってらんねぇんだ!!見ろ!!既に崩壊は始まってる!!時間がねぇんだ。」

エンブースターは京狐の手を示す。京狐の手はまるで蒸発するように消えていっているのに気づいた。どうやら、変身しなければこの世界で長く生きられないらしい。


「とにかく、ここは俺に任せ、、。」

エンブースターが意を決してハンツに向かうが、その動きが止まる。

ハンツはカードを引き抜き、召喚機に差し込んだ。

『アドベント。』

ハンツの前に大きな炎の渦が現れ、その中から、赤みがかったボディに、炎でできた両足と鋭い三本爪を持つライオンの怪物が出てきた。

今まで見た中で1番の怪物。これが、ハンツの契約モンスター。

「ヒートライオネイル。ハンツ、意地でも行かせねぇつもりか。くそ。」


完全にエンブースターは戦意を失った。頼みの綱を失った京狐、これで本当に終わり。そう思った時だった。


「待て、俺が相手だ、ハンツ。」

ガチャガチャとカフェの瓦礫から出てきたのは、ユニティに変身した優馬だった。

「お前は、そうかぁ、もう1人のガキがユニティかぁ。こぉれは儲けもんだぜぇ。」

ハンツがユニティに顔を向ける。

「あーあ、ミラーワールドだからって滅茶苦茶にしやがって、。」

ユニティがカードを使う。

『ソードベント。』

「優馬、くん。来てくれたんだ。」

半泣きになる京狐。


「おい!!!受け取れぇ!!!」

ユニティはデッキを京狐目掛けて投げ、京狐はそれを掴んだ。すると、変身用のベルトが京狐の腰に巻かれる。

ハンツが疑いの目を向ける。

「お前、まさかあのガキを助けたのかぁ!?おいどうしちまったんだよ。せっかく減らせるチャンスだったのによぉ。」

「うるせぇ。やるぞ。」

ユニティがランスを構える。ハンツそれに迎え撃つ。


受け取ったデッキを見つめる京狐。

ハンツとユニティが激しくぶつかり合う中、ハンツの契約モンスターであるヒートライオネイルは、大きな雄叫びをあげ、火花を散らし、京狐の方へ突進して来た。

すかさず、エンブースターが割って入り、ヒートライオネイルの巨体を受け止める。


目の前で繰り広げられる戦いに感化され、京狐は左手でデッキを前に掲げ、意を決して叫んだ。

「変身!!!」

京狐はデッキをベルトに差し入れ、またプレイヤー エンブレムの姿へと変身を遂げた。


間髪入れず、エンブレムはデッキから1枚カードを引き抜いた。

ユニティも、ハンツも武器を召喚するカードを持っていた。自分にもそのようなカードがあるのではと考え、なんか武器、と念ずると、思った通り武器らしきカードが引くことができた。

『ソードベント。』

電子音が鳴ると、既に暗くなりつつある空から、2本の独特な形状をしたオレンジカラーの短剣がエンブレムの足元目掛け降り落ちてきた。

どことなく、エンブースターの長い耳と似た形の双剣を、京狐は地面から引き抜き装備した。

硬質で鋭いが、重さはスーツのおかげか感じず、不思議としっくりくる扱いやすさを感じた。


お手並み拝見の如く、エンブレムはエンブースターとヒートライオネイルが交戦している所に、双剣を構え突っ込んでいった。

エンブレムが振り落とした剣がヒートライオネイルを切り裂く。火花を散らしヒートライオネイルはうねり声をあげ仰け反る。

すかさずもう1本の剣で斬りかかり、流れで2本同時にバツ印に切りつけた。

攻撃は効いているようだった。

「ふぉーーーー!!今の見た!?エンブ!!かっこよくね!?」

「おいよそ見すんな!!後ろ!!!」

既に立ち直っていたヒートライオネイルの爪がエンブレムを襲う。エンブレムはそれを双剣で受け止めるが、爆発のような熱風で押し切られ、エンブースターの方へ吹っ飛ばされた。


エンブレムたちが戦っている間、ユニティとハンツも死闘を繰り広げていた。

ユニティがカードをランス型召喚機に差し込む。

『ガードベント。』

ユニティの左腕に、緑色の馬の顔のような形状をした硬質な盾が装備される。

ハンツが炎の刃を振りかざす。ユニティは熱をもろともせず盾で受け止め、電気を帯びたランスを突き刺す。

ハンツのアーマーを貫くことはなかったが、電撃でハンツが怯み突き飛ばされる。

「あがががが、かぁはっはっは。お互い面倒な能力だなぁ。マジで厄介だぜ。」


ユニティは追撃のためランスを構える。

ハンツは逆に刃の炎を消し、肩に担いだ。

「お前よぉ、なんのつもりだ。あいつと絡む意味がわからねぇ。わかってねぇのか?あいつが、13人目、最後の新規プレイヤーだ。」

ユニティの、優馬の表情が曇る。


「何も聞かねぇと何も言わねぇアンダーターの発言、

『このゲームに用意しているデッキは13。ご自身を除く12人のプレイヤー全員に勝利した暁に、願いを一つ叶えてさしあげましょう。』

俺はこの言葉を信じて、プレイヤーを潰してきた。」

ハンツが自分の物ではない、動物の紋章がそれぞれ刻まれた3つのデッキを、亜空間から取り出した。

「これは、潰したやつから奪ったデッキだ。知ってっか、死んだプレイヤーのデッキは奪えるんだぜ。能力もろとも。」

ユニティは黙ったまま、優馬は何かを迷っているようだ。

「俺は既に6人殺した。あと半分、この血なまぐさい戦いともおさらばだ。だからよぉ、お前も甘い考えは捨てろよ。あいつ、殺せよ。」

 

 ユニティは、絡みつく迷いを振り払うように、ランスを地面に勢いよく突き刺した。

 「俺に、お前のようになれと?人を捨てろってか。」

 「失礼なやつだな。俺が一番人間らしいだろ。」

 ハンツが再び、炎の刃を灯す。

 ユニティはデッキからカードを引き抜いた。

 「戦わなければ生き残れないのなら、俺の相手は、お前の様な怪物(モンスター)だけでいい。」

 ユニティは突き刺したランスにカードを差し込んだ。

 『スタンベント。』

 するとランス先端から大量の電気が放出され、ランスを起点として地面に稲妻のような亀裂が広範囲に広がっていった。

 対峙していたハンツも、少し離れていた場所で戦っていたエンブレムたちも、ユニティの技の衝撃に飲み込まれた。

  

 「いてててて、なんだ、なにが起きたんだ!?」

 エンブレムは起き上がり、辺りを見渡す。

 カフェは窓ガラスが割れ、壁などには穴があき、テラスも瓦礫に埋もれ、カフェ前は亀裂から所々火が噴出していた。

 こんなに滅茶苦茶にして、現実世界には影響は無いのだろうか。

 離れた所でランスを地面に突き刺すユニティと、ヒートライオネイルに覆いかぶせられるハンツを見つけた。

 え?!てか、さっきまで戦ってたのにこの一瞬で飼い主を守りに行く、あのライオン速っ。


 「決定打に欠けるな。俺を殺すには。」

 ハンツがヒートライオネイルの炎の腕の中から姿を現す。

 「必殺技ってのは、こうゆうもんだ。」

 ハンツはデッキに手をかける、がベルトのランプとマスクの額の装飾が点滅し始めた。活動限界が来たようだ。

 「ちっ、だせぇな。」

 ハンツは刃の炎を消し、そっぽを向きそそくさと帰ろうとした。エンブレムがユニティのもとに駆け寄ってくる。

 「大丈夫?ゆ、。」

 「おい、名前を呼ぶな。」

 ユニティはランスを引き抜き、エンブレムの口元に突き付けた。

 ハンツが高らかに笑い、振り返った。

 「お前らの顔は覚えた。この辺の学生か。また会おうぜ。」

 そう言ってハンツは、ヒートライオネイルの背中に乗り、咆哮とともに森の中へ走って行ってしまった。

 

 「最悪だ。」

 「最悪?なにが最悪なの?」

 ユニティがエンブレムに小突いたり蹴ったりリズミカルに八つ当たりした。

 「お前の!せいだぞ!まったく!くそっ!めんどくせぇ!」

 「痛い、痛い、痛い、痛い、痛いよ。」

 「てかなんでお前変身してんだよ!」

 「ええ、デッキ渡してくれたじゃん。」

 

 「現世に帰れってことだろうが!デッキ返せ!」



 「でも、ハンツに顔見られたし、。」




 『また襲ってきても、身を守る手段欲しいし。』

 『ちっ、ああもういいや。帰るぞ。』

 エンブレムとユニティの小競り合いを、カフェから50メートルほど離れた木の上から、音声を盗聴できる特殊なゴーグルで見ていた謎のプレイヤーがいた。

 

 フクロウ型のモンスターを連れた、黄色のアンダースーツに鳥のような容姿のマスクを被ったそのプレイヤーは、いったい、どんな過去と願いを抱えているのだろうか。



 


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