47_訪問者

 コンコン。コンコン。


 会話が無くなり静寂が続く中、玄関のドアをノックする音が響いた。夜の11時を過ぎている。こんな時間に誰だろうか。


「夜分遅くに、大変申し訳ございません。私ども、RC-AVATARの関係者でございます。宜しければ少しお時間を頂戴出来ませんでしょうか」


 ドアを開けると、メガネを掛けた日本人女性と、タクが出て行った日に会った、白人男性が立っていた。



「タク様からの信号が途絶えたため、GPS情報を元に、お伺いさせて頂きました。……この度は、タク様が停止してしまったこと、心中お察しします」


 部屋に入るなり、メガネの女性はそう言って頭を深く下げた。隣にいる白人男性も合わせるように頭を下げる。


「し……心中お察しって本気ですか? ただの機械が壊れたのとは違うんですよ」


「……はい、斉藤様はじめ、RC-AVATARとお付き合い頂いた方とは、こうやって何度かお話をお伺いさせて頂いております。私どもとしても、RC-AVATARがどのくらいマスター様にとって、重要な存在であるかは承知しているつもりでございます」


 震える声で絞り出す俺に、その女性は淀みなく答えた。


「RC-AVATARは、世界中で何体も動いているんですか? 他の人もオンラインモールで買って?」


 女性が隣の男性に英語で質問している。答えて良いのかを確認しているのだろう。


「今、何体のRC-AVATARが稼働しているかは、申し訳ございませんがお答え出来ません。現状稼働しているのは、正式にモニターとして契約された方が殆どです。斉藤様のようにオンラインモール経由での契約者様は、ほんの数名だと聞いています」


「モニター? RC-AVATARで何度か検索をかけてみたけど、そんなものは一切見かけませんでしたが」


「RC-AVATARは発表及び、発売前と言うこともあり、モニターのお声掛けをさせて頂いたのは、身内に近いごくごく一部の方々です。もちろん、モニター様にもSNS等での発信に関しては厳しく制限させて頂いておりますので、ウェブ上にはそのような情報は無いかと存じます」


「オンライン経由の方は? 確かに、アプリ起動時にSNSで発信するなとは書いてたけど、あんなの守らない奴の方が多くないですか?」


 女性がまた男性に尋ねる。言ってはいけない事は沢山あるようだ。


「実は、斉藤様以外にもオンラインモールで発注頂いた方は他にもいらっしゃいます。発送までお時間が掛かったかと存じますが、その間にRC-AVATARをお送りするのに相応しい方かどうか、というチェックにも時間を要しました」


 RC-AVATARが届くまで時間が掛かっていたのは、そういう理由があったのか。俺がSNSアカウントを持っていなかったから、というのも購入できた理由の一つかもしれない。


「正式なモニターじゃなくて、オンラインモールで売ってた理由はなんです?」


「タク様でお気づきになられたかと思いますが、RC-AVATARはマスターに最後まで忠誠を誓います。モニター様はそれを重々知った上でRC-AVATARとのお付き合いが始まります。その場合、どうしてもRC-AVATARに対する接し方が、人対ロボットの関係性になってしまう事が多いのです。3年という寿命もあり、人対人として付き合ってしまうと、辛い結果になってしまいますので……

——端的に言いますと、事前情報が少ない状況下でRC-AVATARに接した場合、RC-AVATARがどういう行動を取るのか、というデータが必要でございました」


「人対ロボットか……俺の場合はどうでした? 見てたんでしょ、俺とタクをずっと。ゴーグルなのかタクから送られていたのかは分からないけど。ずっとモニタリングされてたんですよね? ……それと、ゴーグルを持って行ったのも貴方たちですよね?」


 女性が隣の男性に確かめる。今回で何度目だろうか。男性は仕方ない、という顔で2度ほど頷いた。


「さようでございます。基本どちらからもデータは届くようになっておりました。タク様がこの部屋にゴーグルを隠したのも全部送信されておりましのたで、斉藤様が出社された際、誠に申し訳ございませんが、回収させて頂きました」


 タクがいなくなり、ゴーグルが天井裏に隠された事によって、俺の動きは分からなくなっていたのだろう。タクが出て行ったショックで、遅刻しそうなタイミングだったから、白人男性と鉢合わせたのだ。普段の出社時間なら会っていなかったに違いない。

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