41_テクニカル ノート

 金曜日の夕方、吉田さんからメッセージが入った。


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今日の21時ってお邪魔して大丈夫?

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 金曜の夜だというのに予定は何も無い。もちろん、大丈夫と返信しておいた。




「ごめんね、珍しく忙しくて、なかなか説明書を読む機会が無かったの。本気にして無かった、って理由の方が大きいけどね」


 そう言いながら吉田さんは、俺の家に入ってきた。


「斉藤さんって、説明書全部読んだ?」


「もちろん読んだけど……何か変なところあった?」


Technical Noteテクニカル ノートは?」


「テクニカル ノート? その部分も日本語に翻訳されてるんでしょ?」


「いや、このテクニカル ノートは英文しかないのよ。この説明書作ったのは多分、英語圏の人ね」


「……じゃ、なんで中国語が頭に来てるんだろう?」


「んー、そこはよく分からない。それでテクニカル ノートの中に、気になる一文があったのよ」


「吉田さんってもしかして英語堪能なの?」


「黙ってた訳じゃ無いけど、私、帰国子女なのよ。高校に進学するまでは、私の実家凄く裕福だったの。そこからの転落は凄かったけど……高校生の時にはバイト掛け持ち始めたりね。そうそう、お好み焼きの腕もそこで磨い——」


「吉田さん脱線させてごめん。それでその一文ってのは?」


「あ、ごめんごめん。その一文を訳すとね『ゴーグルを破損や無くした場合は、このアプリからRC-AVATARにメッセージを送ることが出来ます』って書いてるの。どう思う?」


 俺は返事をする前に、スマホを取り出した。


「どこどこ? どこから!?」


「まず、言語設定を英語にして、設定のメニューから『Emergency Contact緊急連絡先』を押してみて」


「こ、これか! あ、メッセージウィンドウが出てきた。ここは日本語でも大丈夫なのかな?」


「いや、それは分からない。一度、日本語で送ってみたら」


 俺はもちろん、吉田さんも少し興奮しているようだ。息をのむのが分かった。


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タク、届いてる? 拓也より

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拓也? どうやって送ったの? ゴーグルの機能?

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 驚くほど早く、返信が来た。俺と吉田さんは顔を見合わせた。


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ゴーグルはタクが持って行っただろ! それよりどこに居るんだよ。勝手に出て行ったりして!

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ああ、ごめん……今、バスを降りたところ。どう? 仕事と白石さんとは上手くいってる?

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それは今いい! それより、そこは遠いの? 帰ってこれないの?

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拓也が困ってるならいつでも戻るよ

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めちゃくちゃ困ってるよ! すぐにでも帰ってきて!

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分かった。今からなら15分程で着くかな。

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待ってる! 今なら吉田さんもいるから!

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お隣の吉田さん? んー、なんか訳ありなのかな。急いで行くよ。

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「んー、私、壮大にめられているのかな。タクさんがロボットだって信じそうになってるんだけど」


「吉田さんもタクが帰ってくるまで、待っててよ。あと15分くらいで帰ってくるみたいだし」


「当たり前じゃない。逆に帰れって言われても、気になって帰れないよ、こんなの」


 タクが、タクが帰ってくる……!!

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