20_決意

 タクと白石さんが、同じ時間にバイトを上がるのは今日が最後だ。タクからの勧めもあり、白石さんと一緒に店を出たタイミングで、タクと入れ替わった。


「改めてごめんね、バイト辞める事伝えてなくて。ダメ元で面接受けた所が受かっちゃって。思ったより早く、出社日も決まっちゃったんだ……」


「とんでもないです! それより、本当におめでとうございました! ……えーと、今日って、お時間ありますか? バイト上がりが一緒の日、多分今日が最後なんで……」


 同じ時間に上がれるのは、今日が最後。そのことを白石さんも把握してくれていた。少し歩いて、駅前の『カフェ・ドラぺ』という、小さなカフェに2人で入った。『カフェ・ドラぺ』安らぎのカフェという意味だそうだ。



「それにしても、すごいじゃないですか。すぐに就職決まっちゃって。決まった会社、どんな所なんですか?」

 

 アージェント株式会社の名前は出さないものの、会社の雰囲気や事業などはそのまま伝えた。また、藤田さんのような先輩デザイナーが社内に居る事も話した。


「それって、凄い恵まれてませんか! 今受けてる授業じゃ、アプリケーションの勉強で一杯一杯なんですよ。デザインを本格的に勉強したければ、また違うコースにも通わないといけない感じで……うわあ、本当にいいなあ」


「俺もデザインの勉強ってやってこなかったので、本当にラッキーだなって思ってる。まあ、働き始めてみないと、どうなるかは分からないけどね」

 

 実は既に働き始めている事に胸を痛めながらも、デザインの話に始まり、白石さんの学校のこと、バイト先のこと、他の話にも花が咲いた。


 ただ、その間も他の事で頭が一杯になっていた。


“次、白石さんと会えるのはいつだろう……”


 言うなら今日だ、ここを出る迄に伝えた方がいい。だが次に会う時、それはタクを介して? それとも斉藤拓也として? さっきから同じ事を悩んでは、他の会話に乗じて先延ばしにしていた。


 そして、刻々と過ぎゆく時間の中、意を決して俺は言った。


「白石さん、バイトではまだ何日か顔を合わせると思うんだけど……その……俺がバイトを辞めてからもまた会える?」


「はい、もちろんです! ……良かった。こうやって一緒に話せるの、今日が最後になったら嫌だな、って思ってたんです」


「ありがとう……じゃ、次に2人で会える日が決まったら、メッセージ入れるから。……ただ、早くても1ヶ月、遅ければ2ヶ月くらい先になってしまうかもしれない。その時には、もっと色々と話せると思うんだ。今の仕事の事とか」


「はい! その時まで楽しみにしています。それまでメッセージを送るのは大丈夫ですか?」


「もちろん! その頃には治験のバイトも終わってるから、一緒に食事でもしましょう。どこかレストランでも探しておきます」


「ふふ、なんですか、急に改まって。私もその時には何か良いお知らせが出来るように、色々と頑張ります!」


 白石さんは、そう笑顔で返してくれた。


 俺はとうとう「斉藤拓也」として、白石さんに会うことを決めたのだ。

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