18_そして2人

 なんと、白石さんと2人きりになってしまった……


 山岡がいたときは意識しなかったが、2人きりになると会話が上手く続くだろうかと急に不安になる。


「し、白石さんっていつもそれくらいのペースで飲んでるの? お酒」


「いえ、いつもはもっとゆっくりですよ。なんだか今日はペースが早かったみたいで……」


「山岡くんのせいかもね。……ほら、彼ペース早いから」


「ああ、そうかもしれませんね。いつもはこんな事無いんですよ、アハハ……」


 危惧した通り、早速空白の時間が生まれた。



 話を切り出してくれたのは、白石さんの方だった。


「酔っちゃったら、思い切って聞きたい事聞けるかな? ってのも、ちょっとあったかもです」


「聞きたい事? 誰に?」


「その……斉藤さんに。例えば、まだ連絡先とかも知らないし……」


 鼓動が早くなる。これはタクの体からなのか、俺本体の鼓動なのか。


「お、俺の連絡先? ……メッセージアプリでいい?」


「もちろんです! これで情報交換も出来ますね!」


 そっか……「仕事の情報交換をしたい」ってさっき言ってたっけ。


 もしかして今日は何かあるかもしれない、そう思ってタクにスマホを持たせていた。そしてその結果、俺と連絡先を交換する事になった。


「あ、メッセージ来ました! サイトウタクヤ。拓也さんって言うんですね。だからこの間、『タクちゃん』って呼ばれてたんだ」


 バイトの履歴書の個人情報は、名前、誕生日、マイナンバー、電話番号等々、全てが俺のものだ。ややこしい話だが、カラオケボックスで働いている「タク」は「斉藤拓也」という事になっている。


 それより、先日山内さんが「タクちゃん」って呼んでいたのを憶えていたんだ……


「『タクちゃん』って呼ぶ人ね、初対面でもあんなノリの人で。従兄弟も同じ『斉藤』だから、俺の事は『タク』って呼ばないとややこしいよね、って」


「そうなんですね。へえー」


 白石さんは意味深な笑顔を浮かべて言った。



 そんなやりとりの間に、白石さんからメッセージが届いた。 


——————————

これからも宜しくお願いします!

白石花帆

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花帆かほさん……って言うんだ。すごく良い名前だね、芸能人みたいだ」


「名前はよく可愛いって言われるんです、フフ。——芸能人みたいな名前かー。子供の頃はよく言われたかなあ」


 可愛いのは名前だけじゃ無いけど。頭の中の俺が言う。


 その後は、「子供の頃」というワードから、お互いの小さい頃の話が広がっていった。


 彼女の話を聞いていて思った。多分、子供の頃の白石さんに出会ったとしても、俺は好きになっていただろうと。彼女は幼少の頃の俺を、どんな風に思っただろう。



「白石さん、11時も過ぎたし、そろそろお会計にしようか。あまり遅くなるとご両親も心配するだろうし」


 白石さんは、ここから電車で一駅のマンションに両親と住んでいるらしい。


「えっ!? もうそんな時間ですか、早いなあ……今日はありがとうございました、本当に楽しかったです」


「いやいや、俺もすごく楽しかった、こちらこそありがとう。——そもそも、俺たちの歓迎会なのに、俺たちだけ残ってるって変な話だよね」


 白石さんは「ホントに」と笑った。



 白石さんを駅の改札で見送った後、1人帰路についた。今日の俺の行動を見ていたであろう、タクは何を思っているだろう。早く帰って話したい気持ちもあるが、今は白石さんと一緒にいた時間の余韻に浸っていたかった。そして、ハイツに着こうかというタイミングで、メッセージが届いた。白石さんからだ。


——————————

わざわざ駅まで送って頂いて、ありがとうございました!

私たちの未来、どうなるか楽しみですね!

実現出来るよう、これからも頑張ります!

——————————


『私たちの』か……


 就きたい仕事の事だろうけど、今日は良いように勘違いしておこうと思う。

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