何でも鑑定眼!TVでおなじみの事をしていたら幸せになりました。良い仕事してますねぇ~

naturalsoft

良い仕事してますねぇ~

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今年最初の投稿です。

短編ですが、1万文字超えの大ボリュームです!

今年もよろしくお願い致します


それと報告なのですが、クリスマス後からコロナに掛かりまだ体調が良くありません。


この短編は早目に書き上げたので大丈夫でしたが、連載中の小説の続きは、もうしばらくお待ち下さい。

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シオン・トゥルース子爵令嬢は変わった令嬢だった。トゥルース家の祖父が趣味でやっていた古物店のお店が子爵家の屋敷の側にあり、幼い頃から出入りしていた。


「お祖父ちゃん!私、この店好き!」

「おお、そうかいそうかい。シオンもこの店が好きかい。嬉しいねぇ~」


サンタクロースの様な白髭を手で撫でながら、嬉しそうに笑った。


「では、店内にある物の商品について教えようか」


シオンの祖父ガレリア・トゥルースはまだ5歳になった孫娘が自分の趣味を好きだと言った事が嬉しく、それぞれの商品について語り聞かせた。



いつの時代に作られたのか?

作者は?

商品の素材は?

由来は?



最初は自慢げに語っていたが、次第にシオンが、古物の見分け方を【正しく理解】している事に気付き、本気で古物について教え始めた。



そして、シオンはと言うと───


『ここは天国かしら!?』



そう、転生者だった。



しかし変わっていた。

生前では普通のOLだった。

乙女ゲームも学生時代、スマホで遊んだくらいで、そこまでハマった訳ではない。


そうシオンの生前の趣味は骨董店巡りだった。

実家に大きな江戸時代からの蔵があり、そこで鎧や陶器などあって、素人趣味ではあるが、休日は街中を色々と見て周っていた。


シオンにとって、ここが乙女ゲームの世界でも、知らないファンタジー世界でも構わなかった。



ただ、好きな古物に触れられるのなら!


眼をキラキラッさせていた。


そして、趣味と実益を兼ねた祖父の講義に真面目に取り組んだ。


成長するにともなって、最低限の子爵令嬢としての勉強はしたが、お茶会などにはほとんど出席せず、実家を手伝っていた。


最初は祖父と一緒にお客の対応をしていたが、僅か10歳の頃には1人で顧客と対面し、古物の売買を行うまでになっていた。


無論、まだ幼いので護衛を付けていた。


「お嬢、本日買い取ったこれは、どういう由来の物なんだ?」


シオンの護衛に雇われたのは、まだ40歳になったばかりの元騎士の男性だった。

任務中に足を斬られて、歩く事はできるが、走ることができず、騎士を退団しなくてはならなかった所を、付き合いのあったお祖父ちゃんが雇ったのだ。


護衛の方はバールさんと言い、家族を養わないといけないので、深く感謝して家族ぐるみで交流している仲だった。


「う~ん、良い仕事してますねぇ~~」


買い取った商品をじっくり虫眼鏡で見ながら言った。


「そうですね。少し珍しい品である事は間違いないですね」


目の前には真っ黒な水晶が大事に木箱に入れられ、テーブルに置かれていた。


「これは【輝石】で、間違いないです」

「輝石………ですか?」


バールの記憶と目の前の鉱物が一致しないので首を傾げた。


【輝石】とは、主に教会が管理している鉱石で、魔のモノを祓う力を持った鉱石である。

結界のコアになる鉱石であり、武器を作る時に混ぜれば聖属性を付加できたりする希少な鉱石である。


「これは恐らく瘴気を防ぐ結界を張る時に使われた、結界のコアですね。長年瘴気にさらされて、透明なクリスタルが、真っ黒になったのだと思います」


輝石が真っ黒になるまでだと100年以上のものでしょうね。


「しかし、この使用済みの輝石が金貨1枚(日本円で100万円ほど)の価値があるのですかな?」


バールはシオンが払い過ぎたのではと心配そうにいった。


「うふふっ、バールさん、輝石ってどこで採掘出来るか知ってます?」


シオンの問いにバールは首を振った。


「教会は秘密にしてますが、日の光が良く当たる断崖絶壁の岩肌から採れるそうです。そこから私は個人で調べた所、輝石とは太陽の光を取り込む性質がある鉱物だとわかったのです」


シオンの言葉にバールはピンッと来なく首を傾げた。


「それがどうしたんだ?」

「この輝石は真っ黒なことから、恐らく日の当たらない洞窟などで、瘴気を抑える結界に使われたのでしょう。これから何年も太陽の日を浴びせれば、力を取り戻すと思います」


シオンはソロバンを弾いた。


「これだけ大きな輝石はかなり希少です。本来の透明なクリスタルに戻れば、これくらいで販売できますよ♪」


バールはシオンの叩いた金額を見て驚愕した。

その金額は金貨100枚(1億円)だったからだ。


「そいつぁ……………」


詐欺じゃないよな?

と、思ったがシオンが言った。


「冒険者が探索で見つけたと言っていたので大丈夫ですよ。それに、この使用済みな状態だと、他では銀貨1枚(1万円)も出さないですし、良心的に買い取ってます」


にししっと笑うシオンにバールは頭を掻くのだった。


そして知らない間に、骨董屋『トゥルーアイ』は国内でも知る人ぞ知る隠れた名店となっていた。


お金に困った貴族達が、自宅にあった物を売りに来る事がある。それ以外にも、ただ良くわからない商品の価値を調べる為に【鑑定】を依頼する事の方が多いのだ。



さて、本日きたお客様は───


「どういうことだっ!お前の鑑定結果と全然違うぞっ!責任を取れっ!?」


数日前に鑑定を依頼してきた、サーギ男爵だった。


「どういう事か説明をお願いします」


前回、鑑定の依頼をされたのは古い純金の指輪だった。50年ほど前に作られた指輪で、シオンの鑑定で金貨2枚ほどの価値とでた。


しかしサーギ男爵が別の店で鑑定して貰うと、指輪は金メッキで銀貨2枚ほどの価値しかないと言われたそうだ。


「…………その指輪、見せて頂けますか?」


サーギ男爵は指輪をシオンに渡した。

シオンは白い手袋して、指輪を鑑定した。


『ふむふむ、なるほどね~』


鑑定が終わると指輪をトレイに置いてサーギ男爵の前に出した。


「結論からお伝えします。この指輪は前回持ってこられた指輪と別物です。確かにこの指輪は銀貨2枚の価値しかないでしょう」


「なっ、何を言っている!これは前回と同じ指輪だぞっ!」

「いいえ、違います」


シオンははっきりと言った。


「証拠はあるのかっ!お前が間違えて嘘を言っているのではないかっ!」


シオンは深いため息を付いた。


「貴方はジャスティス伯爵の紹介でここに来ましたね。うちは一見さんはお断りなので、身元保証人の紹介状がないと受付しません」


「そうだ!寄親であるジャスティス伯爵様に、貴様の事を訴えても───」


シオンは被せように言った。


「サーギ男爵、貴方の行為は寄親であるジャスティス伯爵の面目を潰す行為です。今なら私の胸の内にしまう事もできますが?」


シオンは眼を細めてサーギ男爵を睨んだ。

それだけでサーギ男爵は、全てを見透かされている感覚に陥り動揺した。


「き、貴様ごときに、何が───」

「そこまでだ!」


バタンッ


扉が開き、今言っていたジャスティス伯爵が入ってきた。


「は、伯爵様っ!?どうしてここに!」


伯爵の登場に明らかにサーギ男爵は動揺しながら尋ねた。


「なに最近な、宝石店や商会に指輪や宝石を鑑定依頼を出したのに、後日鑑定が違っていたと言って弁償金を払えと言う?恥知らずな者がいると聞いてな。心配で様子を見に来たのだ」


!?


「伯爵様、私は大丈夫です。サーギ男爵、前回鑑定した私の鑑定書を出して下さい」


サーギ男爵は慌ててカバンから鑑定書を出した。


「貴方は知らなかったでしょうね。うちの鑑定書は特別製で、魔法が掛けられているのですよ」


「ま、魔法だと?」


シオンは鑑定書の上に指輪を置いた。

すると───



浮かび上がるように文字が空中に現れた。


『これは鑑定した商品と違います』



これだけで、その場にいる者は理解した。


「ば、バカな………」


呆然とするサーギ男爵の肩にジャスティス伯爵が手を置いた。


「私の顔に泥を塗ってくれたな?このまま帰れると思うなよ?」


ドスの効いた声で、サーギ男爵は伯爵の護衛騎士に捕まり連れて行かれるのだった。


「お嬢、これはどういうことですかい?」


バールは尋ねた。


「サーギ男爵は『本物』と『偽物』を用意していたのよ。他の店で偽物を鑑定させて、私が間違えたと言って弁償金?の様なものを、せしめようとしたのでしょう」


「まさにその通りだ。シオン君、迷惑を掛けたね。申し訳なかった」


「いいえ、伯爵様も今の様な詐欺が多発していて、サーギ男爵を見張っていたのでしょう?そうでなければタイミング良く入って来れませんもの」


伯爵は感心したように言った。


「本当にシオン君は10歳とは思えぬな。我が息子の嫁に欲しいくらいだ」


「まぁ、光栄ですわ。しかし御子息様はすでに侯爵家の令嬢の婚約者がいますでしょう?また次の機会にお願いしますわ」


シオンの言葉にジャスティス伯爵は、ほぅと感嘆の息を吐いた。この歳で周囲の貴族の情報収集を良くしていると思った。


伯爵は後日御礼をすると言って出ていった。

その夜のトゥルース子爵家では───


「シオン、今日は大変だったね」

「いえ、バールさんが側に居たので安心して対処できました」


シオンの父は護衛のバールに感謝した。


「今日は少し胆が冷えましたな。お嬢がまだ子供だと侮るヤツが多いのも事実です。もう1人ほど護衛を雇う事はでませんかね?」


ふーむと少し考えてから許可した。


「そうだな。これからの事も考えて、女性の護衛を1人付けるか。シオンはこの歳で十分に骨董屋を運営しているしな」


祖父から店を受継いでからシオンはしっかりと利益を出していたのだ。


「ありがとうございます。今月はトントンでしたが、後日販売する品物がありますので、十分に黒字です」



古物屋『トゥルーアイ』は繁盛するほど人は来ない。1日に数名の来店があれば良いほうだ。


ただ、扱う品物の金額の桁が違うのである。


【適正鑑定】


多少、誤差はあるとはいえ、『トゥルーアイ』での【鑑定眼】はこの界隈では有名となっていた。

その人物がまだ10歳の子供となれば、噂にならないはずがないのだ。そして、高額なレアな商品なのか、ゴミなのかわからない品物に、正しい価値を教えてくれる、良心的な店としても有名となっていた。


こうして、もう1人の護衛を雇う事になったのである。



「初めまして、本日よりお嬢様の護衛を務めますカナンと申します。Aランク冒険者です。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「お嬢様、早速ですが1つお願いしてもいいでしょうか?」


カナンは金髪の長い髪を軽く後ろで結んでいる長身のクール美人系の女性だった。


「空いている時間は鍛錬に費やしても良いでしょうか?」


シオンはキョトンとして快く了承した。


「しかし、カナンさんはその若さでAランクなんて凄いですね!」


「いやいや、シオンお嬢様に言われたくないですよ。その歳で立派に骨董屋を運営しているではないですか?」


照れくさそうにお互い様ですよと言った。

それからカナンはシオンの鑑定を間近で見て、シオンの仕事に感服したのだった。


「バール殿、シオンお嬢様は凄いですね」

「そうでしょう。あの鑑定をしている時の集中力は息を呑みますな」


シオンは鑑定を仕事を終えて一服した。


「ふぅ~疲れた~~~」

「お疲れ様でした。今日はかなり集中してましたね?」


甘いものを摘みながら答えた。


「ちょっと判り難い品物でね~見分けが難しかったのよ」


シオンの目の前には、2つの真珠の様な白い玉が置かれていた。


「これはなんですか?」


カナンがジロジロ見ながら言った。


「【対極玉】って言うもので、正しい順番で使うと魔力が増大する品物よ。でも、逆に使うと減少するんですって。まぁ、『1』と『2』があるみたいな感じね」


目の前には全く同じといった白い玉が置かれていて、どっちがどっちかわからない。


「それはたいそうな物ですが、全然わからないですね」

「本当にね。色ぐらい変えればいいのに」

「それにしても、よく見分けがつきましたね」


「うん、虫眼鏡を使って玉の魔力の漏れる箇所を調べたの。1番の玉は魔力を増幅するなら、周囲の魔力を中に吸込む様な圧力が掛かると思ったの。もう1つは力が抜ける方だから、外に排出するような感じだと思ってね。色の事以外では、良い仕事してますよ~」


とはいえ、普通の人にはわからないものである。


ガランッ


「失礼する」


ちょうど身なりの良い初老の男性が入ってきた。


「お待ちしておりました」


シオンは立ち上がると、深く頭を下げた。


「…………その様子では、上手く鑑定できたようだね?」

「はい。先程終わりました。印を付けさせて頂いたので、後ほど宮廷魔術師に再度、確認をお願い致します」


シオンは対極玉を専用のケースにしまうと、男性に渡した。


「どうやって鑑定したのか伺ってもいいかな?」


シオンは先程の話を初老の男性にも話した。


「ほぅ?僅かな魔力の漏れを感じ取ったのか…………噂に違わぬ鑑定眼の持ち主だな」


初老の男性は眼を細めてシオンを見て言った。


「なかなか骨の折れる仕事でしたが、達成感がありました。良い仕事を頂きありがとうございました」


「ハハハッ、難しい仕事をお願いして、礼を言われるとは。これは失礼した。シオン・トゥルース子爵令嬢、素晴らしい仕事だった」


初老の男性はシオンを一人前の仕事人と認めたのだった。


「失礼ながら、宜しいでしょうか?」

「ふむ、なんだね?」


シオンは対極玉を指さして言った。


「ソレを使う日は近いのですか?」


ピリッ


空気が変わったのが肌で感じた。


「…………すまぬが、それを話す訳にはいかぬのだ」

「いえ、これは失礼致しました」


シオンは何事もなく頭を下げた。


「なぜに近々使うと思った?」

「最近、コレが私の所に持ち込まれたもので」


それは真っ黒になった輝石だった。


「なるほど。すでに無くなったと思っておったが、こんなところに持ち込まれていたか。確かに価値のないものとして、捨てられてもおかしくは無かったが、これだけ大きな物であれば、多少金になると思われたか…………」


男性はシオンに言った。


「それを買い取らせて頂いても良いだろうか?」


「はい。そちらの提示価格でお譲り致します。それと知っているかと思いますが、太陽の光を浴びせることで、本来の姿に戻るでしょう。日当たりの良い場所へ置いておいて下さい」



ボソッ

「そこまで知っておったか。これは余り侮れんな」



小さな声で呟くと鑑定の料金を置いて背を向けた。


「この輝石の代金は後日持ってこさせる。すまぬが先に頂いていくがよいか?」


「無論です。あるべきモノは、あるべき方の元にあるのが天命ですので」


初老の男性はフッと笑うと一言いって出ていった。


「また来る。次も少し難解な依頼になると思うが、よろしく頼む」


そして、シオンは最上位のカーテシーをして見送りながら言った。


「またのご来店お待ちしております。…………国王陛下」



!?


なっ────


護衛のバールとカナンは驚きの叫び声を上げた!!!


「お、お、お嬢!!!今、なんてっ!?」

「う、嘘よね?嘘って言って!?私、不敬罪で死刑かしら!?失礼な事してないよね!??ねっ?」


いつも冷静沈着なカナンもパニックになっていた。


「落ち着いて。馬車を見てよ。王家の紋章の入った馬車でしょう?あれに乗れるのは王家の者だけだからね?」


いやいやいやっ!!!?

一般人は知らないから!!!


真っ青になりながらバールとカナンは冷や汗を掻いていた。


コソコソッ

「バールさん!どういうことですか!国王陛下が来るような店なんて聞いてませんよっ!」

「バカいえ!俺だって初めてだぞっ!?」


長年、シオンの側にいるバールはある事に気付き更に青ざめてしまった。


「ま、まさか俺が気付かなかっただけで、度々高貴な御方がきていたのか………?」



その呟きがシオンに聞こえた。


「う~ん?まぁ、公爵家などの上位貴族の方々は良く来ますね。そういえば1度、王太子様もいらっしゃいましたね」


!?


「嘘だろっ!?」

「嘘です」



「お嬢っ!!!!」


「あはははっ、驚き過ぎですよ~」


いつも静かな骨董屋『トゥルーアイ』に珍しく笑い声が響くのでした。


後日、真っ黒な輝石の代金として2億円(金貨200枚)が送られてきて、バールとカナンが抱き合って震えたのは御愛嬌である。


『うちのお嬢様は、やべぇーーーよ!!!!』


御忍びとはいえ、国王陛下に怯みもせず、対等な顧客として対応するシオンに対して、二人は尊敬の眼差しで見ることになるのだった。




それから更に数年の月日が流れた。

シオンも貴族なら必ず入学しなければならない、王立の学園へ入学する歳になりました。


「はぁ~行きたくな~い」

「そんな事を言うのはお嬢ぐらいだぞ。学園は国の派閥の縮小図なんだぞ?」


わかってますよ~


シオンは学園でコネを作ったり、学園生活を楽しむよりも、骨董に触れていたかったが、貴族の義務として学園へ向かうのだった。


ちなみにシオンは自宅から通える距離の為、護衛のバールとカナンも送り迎えに同行している。



シオンが学園に入学するとおかしい事が起こった。



『何故』か、高位貴族の方々が私の周囲に集まってくるのだ。


「シオン令嬢、今日もよろしくね」


「おう、一緒に昼飯でも食べに行こうぜっ!」


「シオン君は今日も知的ですね。今日の講義についてお話しませんか?」



う~む?

この国の王子様に、騎士団長の息子に、宰相の子息……………???



なんか嫌な予感がするわ。


「ねぇ?レイチェルちゃん、どうして高位の男性が私に寄ってくるのかな?」


シオンは金髪ロングヘアーをドリルに巻いているクラスメイトに声を掛けた。


「誰がレイチェルちゃんですか!無礼な!?」


プンプンッと怒るレイチェルは可愛い!じゃない、なだめて、話を聞いた。


「まったく、貴方は自分の立場を理解してますの?」

「どういうこと???」


シオンはまったく知らなかった。


隠れた名店、骨董屋『トゥルーアイ』顧客の多くは上級貴族が多い。この世界の古物の品物は、魔法関係の物が多く、実は危険な物が大半を占めるのだ。


故に、大金が動くのだが、危険手当としてとんでもない金銭を吹っ掛ける悪質業者が多く市場を独占していたのだ。


現代で言う所のマフィアやヤクザと言った人種が運営する闇売買店。中には借金奴隷などを使い捨てに古物に触れさせ、効果を確かめるようなやり方が横行していた。


そこに、数少ないまっとうな骨董屋である『トゥルーアイ』の新しきオーナーは、まだ幼いのに先代を超えるほどの鑑定眼を持つと話題になったのだ。



様子見で、いくつかの骨董や魔法の古物を鑑定して貰うと、その実力は事実だと判明した。

一部を除き、古物の鑑定は顧客の目の前でするため、その鑑定眼の正しさを疑う者は居なかったのだ。


そして、段々とトゥルーアイの店を訪れる者が増えていった。


実は、シオンは知らなかったが、祖父と父親の指示で、店の周囲にはバール、カナン以外の護衛が見廻っていたのだ。これは、市場を奪われたマフィア達からシオンを守る為で、護衛は高位貴族や王家から派遣されていた騎士団だった。


過去に何度か襲撃されたのだが、秘密裏に騎士団に防がれ、襲撃者達からマフィアのアジトを一網打尽にしていき、多くの裏の者達は、トゥルーアイには王家が後ろに付いている。トゥルーアイを囮に、自分達を殲滅しようとしていると噂がたち、平穏が訪れたのだった。


故に、この事実を知っているのは高位の貴族のみであり、シオンがこれまで鑑定した魔法系由来の古物は国を揺るがす物が含まれており、その鑑定のお陰で多くの者が助かった事実があった。


その事実を知る貴族、王族の当主達は学園に通う子息や令嬢達に、口をスッぱく言っていた。



『シオン・トゥルース令嬢と親しくなれ』と。



最初は親に言われて近付いた者も、シオンの素っ気ない態度に興味を持ち、いざ会話をして見るとその知識量に驚き、運動は苦手だが、魔法技術は宮廷魔導士に匹敵するほどの実力があったりと、すぐに夢中になっていったのだ。


シオン自身は、普通に接している程度の感じで、同じ女子達も対等に接していた為に、学園の生徒達の間では有名になっていた。



この娘は『天然さん』だと。



周囲の好意に気付いておらず、凄い実力があるのに自慢もせず、我道を往く天然令嬢。


シオンの会話の殆どが骨董に準ずる物であり、普通の令嬢のお茶会の話など殆どなかった。


なのに、なぜ女子達からも嫌われていないかと言うと、シオンがたまたま、この国に『トリートメント』を広めたのが原因だった。


この国と言うか、世界では多くの貴族の女性が髪を伸ばしている。しかし、香油はあるが、髪をケアするトリートメント系がなかったのだ。


幼い頃、シオンはそこまで美容に拘る人物ではなかったが、前世の記憶から、髪がギトギトするのに違和感があり、かじった知識で【リンゴ酢】からトリートメントを開発した。


スッキリサッパリとしてキューティクルに艶をだす事から、国中で世界中で大流行した。


シオン本人は鑑定の仕事にしか興味なく、母親にプレゼントしただけなのだが、シオンの母が作り方を教えて欲しいと言ったので、身内なら良いか~と言う感じで教えたのだ。


シオンの母、エリーゼ・トゥルースはすぐにその価値に気付き、シオンに製造、販売しても良いか確認して大規模工場を建設。


大流行したと言う訳であった。

シオンはその頃、仕事楽しく、生返事だったのは言うまでもない。



そしてエリーゼは商売上手だった。

シオンの店に高位貴族が来店しているのはしっかり把握していた為に、王家が開催する年始のパーティーに、リンゴ酢のトリートメントをして出席して欲しいと、王家と高位貴族の方々にプレゼントを送った。


すると、大規模な王家のパーティーで、煌めく艶のある髪でサラサラした絹の様な髪に、全ての女性が虜になったのだ。


王家や高位貴族を歩く広告塔にしたシオンの母エリーゼの作戦勝ちだった。



後に、シオンにもトリートメントの商売の話をしたが、十分に骨董屋でも利益が上がっていたので、トリートメントの商売は両親に全て丸投げした。


シオンの骨董屋『トゥルーアイ』は前にも述べたが、1日数人これば良い方なので、普段は暇である。


その間に、店内の裏で暇つぶしに化粧品の開発などもしていたのである。あくまで趣味の範囲で。


学園の女子達にやっかみを受けないのは、トリートメントはまだまだ高級品であり、それなりに値が張る。たまに使う程度なら学園の令嬢達も問題ないが、普段使いになると、金銭的に厳しいのだ。


そんな令嬢達に、シオンは試作品のトリートメントを渡して、細く効果や使い感をレポートしてくれれば、無料であげると言って多くの令嬢に渡したのだ。アレルギーなどもあるからと、注意をしっかりして、契約書まで書かせる徹底ぶりだったが、それが裕福ではない令嬢達に大いにウケた。


数人、アレルギーで肌が赤くなった方には、手厚い治療を施し、アレルギーのない別の素材で作ったトリートメントを大量に渡した。


人気が爆上がりである。


新しいシオンのトリートメントの話題も、真っ先にできる為に、文句を言う者は皆無だった。



これがシオンの学園での出来事である。


当の本人は気づいていないのだ。

自分の価値を。

自分の人気を。



天然であるから故に!


シオンの実家、トゥルース子爵家は『伯爵』に陞爵することが決まった。



それとは別に、シオン本人には『侯爵位』が授与される事になった。位の授与はシオンが学園を卒業する18歳に行われる。これは成人することで、当主としての責任を担う事になる為である。


新たな家名は『トゥルーアイ侯爵家』


領地はないが、貴族年金は侯爵と同じであり、基本的にシオンには鑑定の仕事をメインに、思いつきのアイデア商品の研究をお願いする為に、国内に留まらせたいと言う思惑が国王にはあった。


子爵令嬢では、一部の高位貴族から守れないといった事も考慮されている。



ガミガミッと、レイチェルがシオンに説教しながら、今のシオンの立場を教えてくれた。


「ありがとうレイチェルちゃん!」


目をキラキラさせて御礼を言うシオンに、レイチェルは照れくさそうに顔を背けて、別にたいした事はいっていませんわ!と言った。


「シオンさん、あなた私の話を全然聞いてませんわね!?ちゃん付けは止めなさい!恥ずかしい」

「え~可愛いのに~~」


「か、かわいい!?」


ああ…………顔を真っ赤にするレイチェルちゃん可愛いなぁ~~


とはいえ、トリートメントの効果は凄いなぁ~

髪に効く効果ではなく、貴族社会での立場な効果の意味で。


学園の授業が終わったらすぐに家に戻ってたし、余り親しく友達を作ってなかったのも、周囲の情報が入って来なかったのも悪かったよね。


それなら───



「レイチェルちゃん、私と友達になってくれる?私の知らない事や気付かない事を教えて欲しいの」


「はぁ~もういいですわ。わかりました。これからビシバシと貴族の在りかたを教えて差し上げますので、覚悟なさい」


シオンになにを言っても無駄だと悟り、レイチェルは常識知らずのシオンを守らなければと、変な責任感が生まれたのだった。


こうしてレイチェルから今の立場を知ったシオンは、まず三馬鹿トリオに説教した。


婚約者がいるのに他の令嬢に熱を上げてなにをしているのだ!私は、クラスメイトととして、友人なら付き合うが、恋人になるつもりはないっ!


それはもう、男らしく言ったことで三馬鹿トリオも目が覚めて、婚約者達にお詫びして、二人の時間を持つ様になった。


うんうん、よかよかっ!


シオンは満足して、学園生活を送った。


そんな時間を過ごしていた時、【魔王】が復活したと、大陸中に激震が走った。


各地で魔物が活性化して街を襲った。

各国は総力を上げて国の魔物の駆逐を尽力し、各国の精鋭部隊が魔王討伐に向かうことになった。


何故かシオンは王城に呼ばれて、古(いにしえ)の魔道具などについて、根掘り葉掘り聞かれることになった。


「ふむふむ、この古物は鏡を使えば、安全に解除できるのですね。そして、こっちの呪具は───」


宮廷魔導士に、古い武器や魔道具の使い方や危険性、解除の仕方など詳しく鑑定しながら、教える事になった。


「シオン令嬢の鑑定眼には脱帽です。素晴らしい知識と技術をお持ちですね。どうです、宮廷魔導士になりませんか?貴女なら魔力が少なくとも、豊富な知識と技術で十分になれますよ」


シオンは熱烈な勧誘を丁寧に断り、手順など紙に記載して王城を後にするのだった。



それからしばらくして、各国の派遣した魔王討伐隊は、見事に魔王を討伐して凱旋したのだった。


魔王討伐の中で、一番活躍したのはうちの国だったらしく、各国を招いて祝勝会が開かれる事になった。


「勇敢なる勇者達よ!魔王討伐、見事であった!そなた達の勇気と武名に賭けて、できる限りの褒美を取らせる!何か欲しい物があれば遠慮なく言うがよい!」


国王陛下のお言葉に、魔王にトドメをさした青年が言った。


「では、お言葉に甘えます」


スタスタッと青年はシオンの側に歩いてくると、膝を着いてシオンを見上げた。


「シオン令嬢、君に救われた時から貴女に惹かれていました。ようやくあなたに相応しい手柄を上げれたと思います。どうか私と結婚して下さい」


???


シオンは周囲を見渡して何が起こったのか理解して、真っ赤になった。


「な、なんですか急に!?それにあなたに会った事なんて……………」


言いかけて、どこかで見た様なと思い立った。


「えっ、まさかガイコツ王子!?」



口に出してしまったのは、シオンのうっかりさんだったが昔、呪いを掛けられて、生命力を吸い取られてガイコツのようになっていたので、そう呼ばれていた、この国の第一王子だった。


どんなに調べても病気ではないと診断され、国王陛下はシオンに【鑑定】を依頼した。


あの対極玉の後に依頼されたお願いだった。


国王は最初は毒ではと思っていたのだが、シオンが調べてみると呪いのせいと判明したのだ。



ちなみに三馬鹿トリオの王子は第三王子である。



「はい、私はガイコツ王子と呼ばれて、死ぬ運命だった私を、君は救ってくれた恩人だ。他の令嬢が私の姿を見ると声を上げて逃げていくなか、君だけが本当の私を見つめて、私に掛けられていた呪いを解いてくれた。すでに健康な第二王子が王太子にと任命を受けている。私が君の家に婿として入る事も問題ない。どうか、私の思いを受け取ってもらえないだろうか?」


はうわっ!?


まさかこんな公衆の面前でプロポーズなんて恥ずかし過ぎる!?


顔を真っ赤にしながらシオンは、アワアワしてパニクっていた。


「驚かせてごめん。でも、君には魔王討伐の時にも何度も助けられたんだ」


「私は何もしてませんよ!」


王子は顔を振って答えた。


「君が鑑定した古代の武器や魔道具など、その対処方法を調べて教えてくれただろう?魔王が使っていた武器についても対処方法が、わかっていたから助かったんだ」


「あの時の!?」


王城に呼ばれた時のアレがそうだったのか!

過去の文献から同じ様な武器や魔道具を見つけ出し、魔王の攻撃を防ぐ為に研究されていた物を鑑定依頼されたのだった。



「さらに言えば、シオンが鑑定して、本来の力を取り戻した輝石で、聖なる結界を強化して、正しい順序で対極玉を使い、魔力が増幅した聖剣を魔王に突き刺した。魔王討伐はシオンの手柄とも言えるよ」



ああ、もう!

逃場がないじゃない!?


「あ、あの、いきなり結婚はどうも…………せめて婚約期間を設けてお互いの事を知ってからじゃダメでしょうか?」


「ああ、それで構わない!私、レオン・オルフェリアは生涯シオンを愛し守ると誓う!」



あっ、この国の名前オルフェリア王国って言うんだった。


シオンは思考を停止して、どうでもいい事を考えながら遠くをみるのだった。


パチパチパチッ!!!

パチパチパチッ!!!



波を打つかの様に、会場全体が大きな拍手と歓声で震えるのだった。


あの天然令嬢がと、レイチェルも涙を流しながら喜んだ。


そしてまた時間が流れてシオンが学園を卒業する時になった。


「うわぁ~ん!シオン様~卒業しないで~~」


トリートメントの開発者であるシオンが卒業で、下級生達は大いに嘆いた。


「卒業するな、なんて無茶な事を………」


隣りでレイチェルが苦笑いしていた。


「購買で学園生なら割安でトリートメントを購入できるように準備もしたのにね~」


ワイワイッ

ガヤガヤッ


クラスメイト達と別れを惜しんでいると、レオンが迎えに来てくれた。


「卒業おめでとうシオン」

「あ、ありがとうございます」


そこには顔をほんのり赤めて御礼を言うシオンがいた。

この1年で、会うたびに愛を囁くレオンにシオンは籠絡していたのだ。


「シオン、良い方を射止めたわね」


レイチェルの言葉にシオンは照れくさそうに言った。


「私の鑑定眼に間違いはないわよ♪」





【END】








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何でも鑑定眼!TVでおなじみの事をしていたら幸せになりました。良い仕事してますねぇ~ naturalsoft @naturalsoft

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