未知との挿入
小幸がごくりと唾を飲む音が響いた。
「どう恐ろしいんですか……?」
やめておけばいいものを、小幸は博士の期待通り尋ねてしまう。
「ふふふ……気になるかね?」
博士の眼鏡が妖しく光った。
「話してあげよう……」
女を拘束すると、今度は雇っていた女中にも白痣が現れた。
女と同じ経過をたどり、ついには女中も座敷牢に監禁されたのだ。
そして事件が起きた。
皆が寝静まっている間に女は女中の喉を噛み切って殺してしまったのだ。
事件の発覚と白痣の蔓延を恐れた夫と医者は、女を殺して女中共々、座敷牢の地下深くに埋めたらしい……
「なるほど……それは恐ろしい話ですね……」
小幸が神妙な面持ちで頷いていると博士は分厚いさらしのような布と紙おむつを取り出し笑う。
「さて小幸くん……吾輩はね、類稀なる幸運体質なのだよ。吾輩の身に不幸が起きそうになると、100%その不幸は近くにいる者に転嫁される。ギャンブルをすれば吾輩は大勝ち、そばの者は大負けと言った具合だ。転じて吾輩は呪いの類を受けることが出来ない。おわかりか?」
心幸は小さく頷いた。酷く嫌な予感がした。
「さあ。仕事の時間だよ小幸くん。コレを着て押入れの中に入りたまえ……!!」
床まで垂れた布切れと紙おむつを掲げて博士がカッと目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待ってください!? 百歩譲って押し入れに入るのはいいとして、何でわたしがそんな、へ、へ、変態みたいな格好を!?」
「白痣女と酷似した状況を故意的に生み出すことで、君と霊の波長を可能な限りシンクロさせれば、依代としての効力が格段に上昇し、霊とこの土地の繋がりを一時的に上回ることが出来る!! そうなれば……吾輩の研究室まで霊を持ち帰ることが可能だ……ぐふふふふ!!」
愕然とする小幸に博士は躙り寄った。
「さあ。小幸くん。君に拒否権はない。セレブ生活のためだ。それに心配はいらん。吾輩は君を女としては見ていない。どれだけ健康的な裸体が目の前に転がり、アラレもない姿を晒したとしても、決して理性を失わないと断言できる! 吾輩はガリガリの幽霊みたいな女が好みだからだ……さあ……服を脱ぎたまえ?」
「ひゃ、百歩譲って! おむつは何なんですか!? 博士の趣味じゃない証拠は!?」
小幸はヤケクソで叫んだ。
すると博士は意味深な笑みを湛えて静かに言う。
「先ほど鏡で見ただろう? シンクロして垂れ流すのは嫌かと思い、君に配慮したまでだよ……ぐふふふふ」
小幸の頬に一筋の涙がこぼれた。
しかし小幸は博士の屋敷で食べたフォアグラの味を思い出し、心を決める。
裸一貫に紙おむつ。
未だ見ぬセレブ生活と引き換えに、小幸はまたしても大切な何かを失った気がした。
そんな小幸を博士は布できつく縛り上げると、押入れの中に放り込んだ。
すると暗闇の奥でズルズルと這う音がする。
不幸体質はありえない速さで霊を呼び寄せた。
何の抵抗も出来ない小幸に、音の主は覆いかぶさり呟いた。
「ここから出して……」
口から血の泡を垂らした白痣女が小幸の口に接吻した。
すると、ずるりずるりと小幸の咽頭奥深くまで、女の身体が侵入してくる。
身を捩って暴れたが、女はどんどん中に入ってきた。
それと同時に女の記憶が流れ込んでくる。
女中と不倫する夫、料理に毒を盛った女中、女中に同じ毒を盛った夫、動けぬ私を嬲り殺しにしたあの男……!!
小幸はそこで意識を失った。
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