第三十話 いざ、帝国学園へ

八歳の春を迎えた。

いよいよ帝都の学園に入学する。

町はまだ開発途中だけど、あたしシャニの手を離れても大丈夫なようにタオ兄ちゃんが手配してくれた。案外有能じゃないの。ふふ。


飛空艇航路の運行開始はマンレオタ発にした。

あたしシャニが記念する飛空艇の運行開始だもの。譲れないよ。

飛空艇の話は結構広まっているらしく、竜車を駆ってわざわざマンレオタまで乗りに来た人も居ると聞いている。満員御礼だ。嬉しいな。

運行は二本。三日に一回の発着になる。

まあ、マンレオタは僻地になるからね。こんなもんだろう。


陽子の前世に因んで発車前にテープカットの儀式を行った。

つい、涙がこぼれた。この一年、大変だったからなあ。


いざ、皇都へ!

飛空艇がふわりと空へ舞い上がった。


客室艇は各客室の他にラウンジと厨房を設けてある。

客室に荷物を置くと、ニニと次女のミニー、三人揃ってラウンジへ落ち着いた。ラウンジは大きな窓ガラスで覆ってあり、眺望は抜群だ。もちろん、大きな板ガラスはこの世界では無理なので、小さなガラス板を格子状の枠にはめ込んであるんだけど。

試運転で色々検討して出来たのがこの新型艇。うん、居心地は悪くない。


出発してしばらくすると、ラウンジには徐々に人が増えてきた。

流れていく景色に見とれる人、がやがやと見たものについて感想を述べ合う人。


「ここ、よろしいかね、お嬢さん方」

渋い中年のおじさんに声を掛けられた。

ニニと同い年くらいの栗毛の女の子と次女らしい女性が一緒だ。

「どうぞ」


「私はアッシャンゼルのグレオル、この子はミゼラ。もしかして帝都の学園に行かれるのかな?」

アッシャンゼルというと、マンレオタから他を一つ挟んだ領だ。領主様?

「はい、あたしはシャニナリーア・マンレオタ。こっちの子はニニ・バクミン。今度帝国学園に通う事になったんです」

「やっぱりそうか。ミゼラは今度二年次でね、冬休みを終えて学園に戻るところなんだよ。マンレオタというと、サラダン殿のご息女かな?」

「はい。閣下のお名前はかねがね」

「おお、しっかりしておられる」


ミゼラがグレオルの袖を引いた。

「あの、バクミンていうと、あのバクミン工房の?」ミゼラが顔を真っ赤にしてニニを見る。

「はい。ロダ・バクミンはあたしの祖父です」ニニ、ちょっと引き気味。

「それじゃ、あなたも魔道具科?わたしも魔道具科なのよ。お話を聞きたいわ」ミゼラががっしりとニニの手を握った。おお、アグレッシブな子だ。


「それにしても、アッシャンゼルからマンレオタまでかなりかかるでしょう?なぜわざわざ?」

「アッシャンゼルから帝都までは一ヶ月掛かるんでね。五日かけてマンレオタに出て、飛空艇で三日で帝都に向かった方がはるかに早い。しかも安全快適。使わない手はないよ」

なるほど、そういうニーズもあるのか。リサーチを兼ねて乗り込んで正解だ。

もしかして、周辺領に周回路線とか作っても良いかもしれない。


「きゃあ!」ミゼラが叫んだ。何事?

「じゃあ、ニニと同じクラスになるの?やっぱりバクミンの子は違うわね!」

ああ、同じ二年次になるという話をしたらしい。

「こっちのシャニも同じだよ。魔法科も二年次」

「へえっ!小さいのにやるわね」

まあ、見掛けはね。


携帯端末の開発者は極秘になってるし、飛空艇の開発製造はあたしなんだけど、名目上据えられているという外聞になってる。魔道コンロについては、名前は知られているかもしれないけど、目の前の幼女とは結びつかないんだろう。

「シャニって呼んで良い?わたしはミゼラで良いわ」

何とも気さくな領主の娘だ。ナンカ姉様に爪の垢を煎じて飲ませたい。


快適な空の旅はミゼラも加わって、とても楽しい物になった。


「よう、シャニちゃん」

三つめの駅でマッシュ・アジャ会頭と鉢合わせ。アイン・サンデニがくっついている。

「なんでアインがいるのよ」

「ふふ、こんな面白いもの、見逃すわけないでしょ?」


「で、だ。なんでこの話、わしに持って来なかった?」

「ええー……町の件はお願いしてたし」

「まあ、良い。それで物は相談だが、客室艇の食事、接客を任せる気はないか?あんたはそっちの方は素人だろ?食材、接客人員、厨房は儂の方が仕事として請け負う。費用はコストに三割上乗せだ。わしのレストランの人材を使う。品質は保証する」

確かに、今雇っている従業員は素人だ。悪くないかも。


「三割上乗せで良いの?マッシュおじさんなら五割って言いそうなのに」

おじさん、ニヤリと笑った。

「あんたのレシピよこせ。なんだ、うどんとかイーストパンだとか。ピザってのもあったな」

「そんなんで良いの?」

「そんなんって……あんたは賢いのか馬鹿なのか分からんな」

マッシュおじさん、ため息をつく。


そして帝都。

さすがにマンレオタ行きは満席とはならなかったが、途中の町までが満席だった。

折り返しの飛空艇出発を見送って、マンレオタ邸へ向かう。

ミゼラ達とは帝都の駅でお別れだ。


マンレオタ邸につ着くと、学園から制服が届いていた。

貴族学校とは違い、平民も通うので制服で統一するらしい。

女子は襟元にフリルが付いたワンピースで、それに白のローブを羽織る。ワンピースは膝丈で、この世界としては短い。


ワンピースの襟にはタイを巻く。そこには紋章が刺繍されていて科目を現すらしい。色は年次を現す。あたしシャニの紋章は小さな蔦がふたつと鷲がひとつ。それに本なのかな。

蔦の紋章は少し違っていて、片方が魔道具科、もう片方が魔法科、色は赤。二年次を現すそうだ。

鷲と本は領政務科と教養科を現し、両方とも緑だ。


三日後、いよいよ帝国学園入学。

入学式の様子は退屈なので省略。まあ、陽子の前世と似たり寄ったり。

その後、各クラスに分かれて教室に入った。

魔道具科と魔法科は同じ教室らしい。領政務科と教養科は時間をずらして集まるそうだ。


教室に入るなり、ミゼラが手を振っておいでおいでした。

「ニニ、シャニ、こっちこっち」

周りを見ると当たり前だが知らない顔ばかり。ミゼラと知り合いになっておいて良かった。

良く見ると、年齢は結構バラバラ。

あたしシャニ位の子は少なく、ミゼラやニニと同じくらいの子が多い。


「魔人だ……」

久しぶりに聞く台詞。

「じゃあ、あの魔道騎士の娘?」

「強いのかなあ」

「暴れたりしない?」

おいおい、人を何だと思ってるのよ。


「シャニ、魔人なの?」ミゼル、気がついてなかったの。

「うーん、半分。母様が魔人なの」

「ふうん、だから魔法科なのね。凄い魔法使えたりする?」

「それがあんまり。細かい制御ができないの。だからここでお勉強しようと思って」

「シャニの魔法、ショボいからね」

「それは言いっこなしよ、ニニ」


そうお話をしている間もあたしシャニ達は遠巻きにされ、誰も話しかけて来なかった。

ううん、これは前途多難かな。


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