第二十九話 工房の里大拡張

適性検査が終わったらすぐ『工房の里』へ戻る予定が、色々あって延びてしまった。

あたしシャニはマッシュおじさんと色々打ち合わせが終わって一旦戻る事にする。

スケボーの生産には工房の拡張や技師の増員が必要なので、そちらが一段落する頃また訪れる事にした。概ね三ヶ月くらい先になるだろう。

ニニはしばらく帝都に滞在して、魔道スケボーの試作試験や訓練に付き合うそうだ。


帰りはもちろん飛空艇。父様も一緒だ。

皇都の事はノドム兄様にまかせるそうだ。魔道スケボーの事でちょいちょい工房に呼ばれる事もあるらしい。


長い旅行と帝都滞在になったけど、実はちょこちょこ転移でカーサ母様やタオ兄ちゃんと会っていたんだ。さすがに『工房の里』に顔は出さないけど、タオ兄ちゃんから情報は貰っている。

もちろん、旅行中の事や魔道スケボーの話、適性検査に受かって春から学園に通う事も話してある。ケッテニー宰相の話があったので、計画は大幅に修正する必要がある。

そういう相談もした。


だから『工房の里』に着いた時は打ち合わせの準備は全て出来ていた。


『工房の里』の事業はふたつ、飛空艇製造と魔鉱石の掘削だ。

実は現在、かなり変則的な雇用状態となっている。

技師や鉱夫の皆さんは単身赴任状態で、食事や物資なんかは配給制。

お店が無いからだ。

家族を呼んでも買い物が出来ない。

マンレオタまで出れば買い物は出来るが、二日がかりになるので現実的じゃ無い。


「町を作んなきゃいけないね」思わず漏らしてしまう。

「店についてはアジャ商会に相談に乗ってもらうか」

「マンレオタの街にも募集掛けると来るかな」

「住宅も用意しなくちゃね」

「水道か井戸も要るね」

「魔獣が出るから高い塀で囲まないと」


幸い、資金はある。

魔鉱石の販売、携帯端末とコンロのロイヤリティ。

バクミン工房にも少し出資して貰えばそこそこの町は作れるだろう。

飛空艇製造工房の拡張には、ケッテニー宰相に相談して出資を仰ぐか。


ある程度の青写真をタオ兄ちゃんと父様を交えて用意してみた。

工房に技師や鉱夫の皆さん、全部集めて意見を聞いた。

鉱夫は現状露天掘りでそう手間はかからない。現状二十人くらいで廻ってる。

ただ、飛空艇の増産とその他の販売を見込むと五十人は必要という。


技師は現在十五名。全然足りない。

足りないところはバクミン工房から人手を貸して貰っている。

将来、帝都からの航路拡張を見込むと二百名くらいは考えた方が良い。

工房と掘削に必要な人員は二百五十名。

そこに家族を呼ぶと七~八百名。

町規模になると管理する人や警護する人員も必要になる。

戸数は最低二百五十戸として商店その他を考えると五百戸は必要だろう。


将来、人口が増えるとして、周りに巡らす塀は二千戸くらいを見込んだ方が良い。

一ヶ月ほどあれやこれやを検討して、大まかにエリアを決めるとまず塀を作成する。

ここはリーアの出番だね。

鉱夫仕事から解放されたあたしリーアは手透きになっていたので丁度良い。

まあ、塀作りなんて鉱夫とあんまり変わらないけどね。


町づくりはマンレオタの復興が一段落しているので職人さんを回して貰う。

一度アジャ商会に行って仮店舗を出して貰う話も済んだ。

とりあえず、現状の技師や鉱夫の人に利用して貰う。

家が完成したら家族を呼んで貰っても良い。最低限の買い物は出来るだろう。

魔獣の警護はシンハンニルの里人から何人か回して貰った。


ニニは結局一月ほど帝都に滞在し、魔道スケボーの試験を終え、一旦戻ってきた。

量産体制は魔道協会工房が行う事になっているそうだ。

そこで工房の拡張やライン増設計画についてニニと詰めを行う。

三ヶ月後、あたしシャニはアジャ商会の工房に行って生産の準備に入った。

やっぱり新しい技師さん達は七歳のあたしシャニに途惑っているな。

ここでも生産体制を整えるのに一月。


合間に魔道協会に行って技師さん達の手配を依頼。

宰相にも会って工房への出資も取り付けた。

議会への根回しはうまくいっているらしい。

ニニは二月に一度、魔道協会工房に行って色々調整を行っている。

それ以外はあたしシャニを手伝ってくれた。


いやー、忙しい。

時々カーサ母様を補充しなかったら心が折れていたかもしれない。

タオ兄ちゃんは工房の拡張に手一杯で、ゾラに文句を言われているそうだ。

あたしシャニも早くゾラに乗って飛びたいな。

春から増水していた川も徐々に引いていき、もうすぐ夏の終わり。


秋口になって、アジャ商会の魔道スケボーが発売された。

なにしろ、馴染みの無いものなので出足はあまりぱっとしなかった。

ただ、その便利さと面白さに、冬に入る頃には売り上げが伸び始めた。

帝都に行くたび、魔道スケボーですいすい走っている姿が増えているように思う。


その頃には飛空艇の製造技師さんの数も五十人を超え、製造が加速された。

『工房の里』~マンレオタ間の飛空艇の客室艇、貨物艇とも連結数を増やし、輸送能力を上げる。

町には入居する人が増え始め、マンレオタの商店も店舗を出すところが出てきた。

そこそこ順調かな。


帝都~マンレオタ館の航路準備は着々と進んでいる。

三つの町の発着場も完成し、試験運転に入った。速度や高度、発着場への進入速度、停止時間など細かく決めていく。乗員の訓練も兼ねている。

町とは発着場の価格交渉が進み、春には運行が開始できるだろう。

運賃設定には悩まされた。

竜車で一ヶ月かかる費用は結構バラバラで、その五分の一程度が妥当だと言われていたけど、

どの費用を元にするか決めかねる。


マンレオタ~『工房の里』はプライベートな区間なのであまり考えていなかったけど、宰相に注意された。これから運用していく航路のモデルケースになるんだから慎重にと。

結局、飛空艇が一日で飛べる区間を金貨一枚にした。前世感覚だと十万円。

あたしシャニには高いと思えるけど、この世界では護衛や野営を考えると結構割安らしい。

快適な車中泊――あ、艇中泊も出来るしね。


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