第47話 そして、目的地へ……
「あれ? 突っ走ってきちゃったけど、そういえば、さっきので最後なんじゃなかったっけ?」
「なにが?」
「なにがって……。あれ?」
俺も、この遺跡について詳しいわけじゃないから、うまく言えないのだが、なんだろう、なんかモヤモヤするな。
「ゴーレムって三種類なんでしょ? それで、さっきのほぼ人型で、カタコトだけど話してたので三種類目、で合ってるよね?」
「合ってるよ?」
「でも、ヨバナちゃんが目当てにしてた、思い出が映る板ってのは、この辺りにはない、っての合ってるよね?」
「うん。この層にはないよ」
「ないんだ」
すっかり忘れそうになっていたけど、この遺跡に来た元々の目的としては、ヨバナちゃんが、ママとパパの姿を見たいということだった。そのために、過去の映像をタイムシフト的に見れる、オーパーツ的なタブレットを入手する、という話だったのだ。
いつになってもそんなものが出てこないので、危うくすっぽかすところだったが、思い出せてよかった。
しかし、やっぱりさっきのゴーレムで三種類目なのか。
「なんとなくだけど、さっきのやつが、この遺跡を統括してるって話なのかなって思ってたんだけど、そうじゃないんだ」
「わたしもそこはよくわかんない」
「え。ここまで来てよくわかんないの?」
マジで?
って、小学生にそこまでの正確さを求めるのは酷ってものだ。
相手が大人だったとしても、こんな意味のわからない状況を、正確に覚えておけっていうのも難しい。
まして、スマホのない世界なのだ。映像としてSNSでシェアをするという文化もない以上、口で伝えるか本で伝えるかしかないのだろう。
だから、こんな秘境にまでこなければ、思い出の映像を見ることさえ叶わないという話なわけで……。
「なんだかまだ困難が控えてそうだなぁ」
「でも、ママもパパもここからは走ってなかったよ?」
「そうなの? ちなみに、結構歩いてきたけど、あとどれくらい?」
「もう少しだと思うよ」
「そっか。もう少し、ね」
そうしたら、話の通り、まっすぐ歩けば着く場所ではあったのだ。
ということは、ようやく見えてきた異質な壁が、それこそ目的の場所なのだろう。
いやぁ、思えばここまで長かった。
「追ってこないね」
「そうだね。よかったよかった」
ヨバナちゃんに言われ背後を見てみても、さっきまでの、ビームの乱射音が嘘のように静かだ。
クリスタル大爆発によって、耳へのダメージがめちゃくちゃでかく、耳が使い物にならなくなっているとかでもないのなら、きっと大丈夫なはずだ。
つまり、壁を破壊できないという見通しは、ここでも大正解だったわけだ。
となると、増援は今頃、仲間の救護にでもあたっているのかもしれない。まあ、そんなものが本当にいたなら、の話だが。今さら戻ってまで、真偽の程を確かめたいとは思わない。それこそ、蜂の巣にされてしまう。
「ヨバナちゃんもなんともない?」
「う、うん。なんともないよ?」
ここにきて、何かを誤魔化すようにヨバナちゃんは目線をそらした。
え、なんか既視感。
「俺、何か変なことしちゃった?」
「ううん。ただ、その……」
「その?」
「茶化すんじゃなくて、本当にかっこよかったよ」
「……。あ、えっと」
「王子様みたいだった。女の子だけど」
「王子様……」
そういえば、初めの頃にもそんなこと言ってたっけ。
女の子だな。
「いやだなぁ。俺は中身こそ男だけど、今はこんな女の子なんだぜ? 王子様じゃないよ」
「そ、そうだよね! 変なこと言ってごめんね!」
「まあ、謝ることほどのことでもないけども。俺だって、ヨバナちゃんのために、こうして色々できて、結構楽しいからさ」
「ほんと?」
「ああ。もし、悪いなとか思ってるなら、気にしなくていいって」
「うん! ありがとね」
「ああ」
そもそも、俺だって自分のためにこんなことをしているのだ。
俺の目的。天華を元の世界に返すため。
なんにしても、モヤモヤはすぐに解消するが吉。ってのはつい最近の経験から。
さて、閑話休題。
目的地が目前に近づいてきたことだし、本筋に戻るか。
「それで、あそこの中はどんな感じなの? 三種類のゴーレムってことは、あの中のゴーレムは今までのと同じってこと? わかんなくても、板のことは覚えてたんだし、ちょっとくらい思い出せないかな?」
「うーん……」
そう聞くと、困ったようにヨバナちゃんは腕組みうつむいてしまった。
「ヨバナちゃん?」
「ほんとは、覚えてないんじゃなくて、入ったことないの」
「え?』
入ったことない?
「でも、ここには来たことあるみたいだったけど」
「うん。ここには来たことあるよ。それは本当。でも、あそこから先は入ったことないの。外で待ってたから」
「待ってたって……」
この遺跡の中を、一人でか?
いや、この静けさ。もしかしたら、ゴーレムは近寄れない結界でも張られているのかもしれない。
「カゴに背負われてたから」
「抱えてたっていうか背負ってたの?」
遺跡のことは知らせても、その時が来るまで中は見せない。そういうしきたりか?
わからないけど、これはきっと、他人の家庭の事情だろう。俺がとやかく言える問題じゃない。
となれば、この先に本当に目的のものがあるのか怪しくなってくるわけか。
本があったというのも。見たというより、映像、もしくは両親から聞いた話というところなのだろう。
考えをまとめるには短かった。とうとうというか、ようやくというか、目的地、最後の怪しい壁の前までやってきてしまった。
「この先で、ヨバナちゃんのママとパパは、何かをしてたってわけか」
「それは本当」
「いや、ここまできて疑ってないさ」
壁を手で撫でると、ひんやりつめたい大理石のような磨き上げられた感触が伝わってくる。
ここだけいやに質感が違うな。魔法使いが住んでたのか?
それこそ、ここまでは本当に侵入者対策の場所、ただの道だったってことなのか?
「なんだこれ。また全然開かないけど、どうしたら開くんだ?」
「おや、久しぶりのお客さんですか」
壁の内側から声がして、俺は勢いよく退いた。
人間の、話し声、だと……?
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