第十九話 空の塔

~バグは時に、心まで抉る~


《スゴいっ――これがバグダーラァケ学園……》


《高いしっ、かっこいいーっ!》


《すげぇ――》


 などなど。

扉から出て来た人はみんな、バグダーラァケ学園を見上げていた。


 バグダーラァケ学園……

それは天にまで届くかのように伸びる高い高い塔――


 っていうか、これ。



空の塔じゃん。


 いや、別に空に塔が浮いている訳じゃないよ?

ただ、現代の中心地にある塔みたいなとこだってこと。


違うのは茶色だってことくらいだよ。色だけは学園らしいよ。


《チュ……》

「いや……よく見ろよ。

なにもまんまってこたぁないだろ?

ただ……似てるだけだ」


 あー………確かにそだね。


 まぁ、塔なんて大体どこも同じ形だしね。

だけどなんか、ぱっと見? 連想したのが?

東○スカ――


《どうです、桜さんっ! 凄いでしょう!

こんな独創的な建物、見たことないですよね!》


「あ、うん」


 確かに、ここの人たちから見たら新鮮で最先端だろうけどさ。

なんか、むしろ懐かしいよ。


《ですがっ。あんまり見上げすぎると首が痛くなっちゃいます。

ささっと受付に行きましょうか》


「え、いいの?」


 ウルフィーだったら誰よりも噛り付いて見てそうなのに。

なんなら丸一日、よだれをまき散らしながら見てそうなのに。


《うぅっ……本当は私も一月は見上げていたいですけど、

そうすると受付に間に合いませんからっ》


 あ、一月ですか。

なんかすいません。絵本狂、ナメてました。


《それに、合格すれば毎日のように見放題ですっ!

だから今はっ。我慢っ、しましょうっ‼》


「う、うんそっか。じゃあ、受付いこっか……」


 でもさ。


何も、そんな震えて歯を食いしばらなくても………


あ、血が。血が出ちゃうよ?


《チュンッ》

「ようやく学園まで来たな。

なんかここまで来んのに16日くらいかかった気分だぜ」


 確かに。

なんかすっごい長い時間を過ごしたような気がするよ。


 でも今の時刻は――

あ、塔に時計ついてる。


 えっと…………12時30分。


 えっ、開始30分前っ⁉

こんなに早く試験会場入りなんて……あの試験以来だなー。


《じゃあ私、先に受付しちゃいますねっ》


「あ、うん」


《では、受験票とお名前を確認させてください》


《はいっ! 赤須ウルフィーですっ!》


 あ、ウルフィーって赤須の方が苗字なんだ。

そっか、大神ウルフィーじゃオオカミの要素しかないもんね。


《……はい。確認できました。

では、試験会場Aの方に向かってください》


《はいっ!》


 あ、こっち向いた。


《次、桜さんの番ですよっ》


「おっけーおっけー」


《では、受験票とお名前を確認させてください》


「はい。藍沢桜で——――」


《ん?》


 あ、あぁぁぁああぁぁぁ⁉


これっ、この受験票の名前っ………

私じゃないじゃんっ⁉


《チュッ》

「げっ、そういやそうだったな」


 や、ヤバいっ………


 門前払いだよ。それどころか偽装を疑われて牢屋行きかもだよっ。

二回も牢屋に入るとか私のメンタルがっ、メンタルが持たないよっ⁉


《…………。

ああ。貴方が藍沢さんですね》


「……え?」


 私のこと、知ってんの?


《今朝、連絡をくれましたよね?

受験票の名前を……

その、初恋の相手の名前で出してしまったと……》


 ……………………


 はぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉


《えぇっ⁉ さ、桜さん、大胆っ――!》


 いや、違うしィ⁉

どんだけ恥ずかしいやつなんだよ、私はっ⁉


《チュッ、チュチュッ?》

「ブッ! マ、マジかお前っ?

頭ん中、花畑系ヒロインかよっ?」


 ちげぇわぁぁぁぁ⁉


 な、な、な、なんでそんなことになってんだよっ⁉


《いや、いいんですよ。

稀ですが居ますからね。まだ受かってないのに

ヒロインになりきっちゃってる人は》


 な、


な、な、な、なぁぁぁぁぁ――


《桜さんっ……分かりますよ、私はっ。

大丈夫ですっ!》


「っ⁉ っつ――!」


《チュチュッ!》

「ヤべッ! 笑い止まんねぇ――

ハハハハハッ‼」


かあぁぁぁぁ。


 く、くそォォォォォォ……


だっ、もうっ、あぁぁ亜ァああァァァ‼


「いや、すみませんねぇっ!

つい、出来心でっ⁉」


《チュ?》

「おお? 否定しねェのか?」


 だってさっ⁉

否定したら試験受けれないんでしょっ⁉


 だからもういいよっ‼

押し切るよっ‼

クソッ‼


《いや、いいんですよ。

ですが…………

君ほど徹底してヒロインになろうとしてる子は初めてですよ》


 もういいだろ。

さっさと通してくれ。


《その服も……わざわざ用意されたんでしょう。

まるで本当に奴隷だったかのような装いですね》


 ……………………


《悲惨な家庭状況からの逆転劇は物語の醍醐味ですからね。

頑張ってください。私は密かに応援していますよ》


 ……………………


《では、藍沢さんは試験会場Cの方に向かってください》


「…………」


フラァ………


《あ、あの、桜さんっ!》


ピタッ。


《わ、私もっ。

桜さんの装い、気合入ってるなって思ってましたっ!

もうどこからどう見ても悲劇のヒロインですねっ!》


「……………………」


《チュー……》

「あー……まぁ、いい意味で、だろ?」




 殺せェェェェェっ‼


 もういっそ殺してくれよォォォォォっ‼




第十九話 空の塔

~バグは時に、心まで抉る~ END・・・





――———————————————


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


 次回からは、本当に本当の入学試験編です!

 これからもよろしくおねがいします‼


 わしゃまるでした。

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