第八話 怪奇物語1

~恐怖と口の悪さは比例し、バグは倍になる~


【御伽、怪奇物語 第一談 血塗られた廃墟】


 雲に覆われ、月が見えない暗い暗い闇夜を

Sさんは一人、彷徨っていた。


 歩けど歩けど、

道は途切れることなく続いている。


 だがふと、顔を上げると

先程までは暗闇しかなかったはずの場所に

一軒の民家らしきものが見えた。


 しめた。

Sさんは一晩、泊めてもらおうと思い、

民家に向かって足を進めた。


 その足取りは段々と速くなり、

やがて走り出した。


 そうしてやっとたどり着いた民家。

だが、様子がおかしい。


 明かりがついていないし、よく見れば所々が

ボロくなっていた。

もしかしたら空き家なのかも。


 そう思って扉に手をかけた、その時。


ネチョ


 何やら水っぽいものが手に付いた。

Sさんがそれを見ようと手をひっくり返すと――




 それは、真っ赤に染まっただった。


 恐怖と混乱で固まったSさん。

すると月が顔を出し、民家の全貌が見えた。


 それは――




 民家とは到底、呼ぶことができないほどの

今にも崩れそうなおんぼろ小屋だった。


「キャァァァァァァ‼」


        LOADING・・・




 なんて茶番は置いといて。


「なんじゃこりゃァァァァ⁉」


 これのどこが別荘⁉ ただの小屋じゃん‼

下手したら大きな粗大ごみにさえ見えるんだけど⁉


 ちなみに、手に付いた赤い液体はペンキだった。そして【ペンキ塗りたて】と、ペンキで描いてあった。


「意味なくないっ?

綺麗にしようとしたんじゃないのっ?

ペンキの上にペンキでそんなの描いたら一緒に乾くじゃん⁉」


 てか、今更ペンキ塗り替えたって遅いわ。

全面、造り変えろよ‼ あがくなっ! 潔く諦めろっ!


《チュ》

「まっ、現実こんなもんだろ。タダで泊めてくれるっつってんだから我慢しろよ」


 我慢とかじゃなくてさ、生命の危機じゃない?

寝てる間に崩壊しないよね?

ちょっと強めな風が吹いたらアウトっぽいんだけど。


《チュン…………チュ》

「野宿するよりマシだろ。

…………限りなく、外に近いけどな」


 最悪だァ。ほんとに、関わらない方がよかったかもしれない。

あのオッサンは、疫病神だ。


《チュッ》

「だけど、あのオッサンのお陰で

この世界のことが少し分かってきただろ」


 まぁね。

でも、学園なんて今の私には関係ない話だよ。


 なんでも、もう今年の受付は終わったみたいだし。第一、そんなところに行く余裕はない。


 明日にでもさっさと攻略対象を見つけて

こんな世界、おさらばしなきゃね。


《チュン》

「まっ、頑張れよ」


 悪ドリも頑張れっ。

私の倍、いや五倍は頑張ってくれよ。


《チュチュン》

「わーった、わーった。

 それより、もう寝ようぜ。今日は疲れたわ」


 そうだね。私も疲れた。


 …………じゃあ、そろそろ小屋に入るか。


《チュン》

「なんも起きないのを精々、神にでも祈ろうぜ」


 だね。


 …………あれ?

頼りになる神が見当たらないんですけど?


        LOADING・・・




カタン


「ハッ⁉」


 夜中、音がして飛び起きた。

まだ生存していることに安堵するけど、

色んな意味でガタガタが止まらないよ。


「わ、悪ドリー……」


 近くで寝ているその小さな体をゆするも、起きる気配なし。


「悪ドリってばー」


 持ち上げて上下にゆするも、起きる気配なし。


「悪ドリーっ?」


 両羽を広げて盆踊りをさせるも、起きる気配なし。


 え、もしかして――


「し、死んで――」


《チュ…………ンーーーっ‼》

「うっ…………せェなぁぁぁぁ‼」


ココココココココッ


「イタタタタッ‼ な、なんだよぉ。起きてるなら反応してよぉ」


《チュッ》

「チッ、うぜェなぁ…………

なんだよ、便所か? んなの一人で行け、クソ」


 え、なに?


寝起き悪いの?

悪魔を通り越して、輩みたくなってるよ?


《チュ》

「階層、下がってんじゃねェか。

で、なんだよ」


 あ、そうそう。


「なんかさぁ、

さっき物音みたいのがしたんだよ」


《チュン》

「嘘つけ。物音なんかしてたら今頃、俺ら潰れて死んでんだろ」


 そりゃそうなんだけどさぁ。

小屋っていうか、外の方から聞こえた気が――


ガタンッ


「っっつ――⁉」


 ほらっ‼ ほら今っ‼

確実に聞こえたよねっ‼ 何⁉

恐ろしくてガタガタなんですけどっ⁉


《チュ》

「落ち着けよ。

風か……最悪、獣かなんかだろ」


「…………」


「…………」


 落ち着けるかァァ⁉


《チュンッ》

「ホントだな。

獣だったら、普通に死ぬじゃねェか」


 ヤバイじゃんっ⁉ ヤバイじゃんんんっ⁉

どうすんのっ⁉ 死ぬのっ⁉

食い散らかされるのっ⁉


《チュッ》

「落ち着けっ。

静かにして、動かなきゃ気付かれねェ――かもしんねェだろ」


 かもってェェェェ…………


 無理だ……

死だよ、死。せめてひと思いにやってほしい。

一撃で仕留めてほしい。


《チュン》

「諦めんな。大体、獣じゃねェ可能性、も――」


 え、なに。

なんで固まってんの?


なに? 私の後ろになんかあんの?


あるのは入り口だけだよね?

なんか影みたいなの感じるけど、あれでしょ?

雲で月が隠れたんだよね? そうだよね?


そう、だよね――――




《う、ら、め、し、やー……》


「んっ、ぎゃあァァァァ⁉」


 キャァァァァァァ‼

なんて甲高い声は出ない。人間、本当に怖かったら野太い声が出るもんなんだよ。


 そして私は今、野太い声を出しました。


そうです。


 私の後ろには、獣なんかよりももっと最悪なものが立っていました。


 なんと、死装束を着こなしたジジイが立っていたのである。

着こなし過ぎて、人生で一番、似合ってる服なんじゃないかと思う。

あ、もう死んでんだっけ。


 いや、そんなことより。


「出たァァァァ⁉ 妖怪、【じじぃーん】っ‼」


《誰が妖怪じゃァァァァ‼》


「ぎゃあァァァァ‼ ジジイにされるゥゥゥゥ‼」


 こういう時は…………

全速力で逃げましょうゥゥゥ‼


 反対側の扉を開けて。

いや、張り倒して逃げましょうゥゥゥ‼


 てか、妖怪無理‼

言ったじゃん! 言ったじゃん⁉

私、ホラーは専門外ですゥゥゥ‼


 たたたた助けて、悪ドリィィィィ‼


《チュチュチュッ‼》

「と、取り敢えず落ち着けっ‼

アレ、ジジイだから! 普通のジジイだから‼」


 ジジイィ?

嘘を付けェェェェ‼ あんな死装束が似合うジジイがいるかァァァァ‼


 アレ、アレだよっ‼ 世の中をジジイまみれにしようとしてる妖怪だから‼


 怖ァァァァ‼ 怖ァァァァ‼

私はまだデッドorアライブを彷徨いたくないっ‼ 毎日がデッドorアライブの生活は送りたくないィィィ‼


《チュチュンッ⁉》

「テメェ、失礼通り越してもはや裁判だぜ⁉

んなこと老人の前で言ったら法的にデッドorアライブ、彷徨っちまうぞ⁉」


 と、と、と、取り敢えずわき道に入ろう……


 今の内にアレ。死神呼ばないと。妖怪退治してもらわないと。


 アレ? あの人達って妖怪退治してんだっけ? それはゲジゲジの虎太郎だっけ?


 もう、分かんなくなっちゃったっ⁉




第八話 怪奇物語1

~恐怖と口の悪さは比例し、バグは倍になる~ END・・・

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