第六話 バグダーラァケ学園とは

~聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うけど、 その一時の恥がバグのように重い~


 はい、どうも。

みなさん、お忘れの頃かと思いますので自己紹介。藍沢 桜でございます。


 さてさて、りんごを採ったという罪に問われ

トランプの中で平たくなった私の物語はまだまだ終わりません。


「どんな物語だよっ」


 あ、どうも。ツッコミありがとうございます。


 えー現在、平たい私たちを連れて兵隊たちはどこかの森を歩いています。


 このタイミングでおばあちゃんの幻影を見ている少女が現われでもしたら、トランプはよく燃えるだろうなぁ、と。

時折、呟いては兵隊をビクつかせるという小さな抵抗を行うこと26回。


 何やら見えてきたのは森の中で一際、大きな大樹。そこになんとっ!

兵隊は横向きになって、幹の隙間を通り中へ入って行ったのです。


 いやぁー、あんな激セマ隙間を通るなんて体験、トランプの中に入ってなきゃできませんでしたよ。


 で。

 幹の中は空洞ができていて、その中には木でできた家具などが置いてありました。

普通の人間でも十分に生活ができるくらいの空間が広がり、兵隊は階段を下りていきました。


 そして、今。




 私は紅茶をすすり、ケーキをパクついています。


《チュン》

「いや、どういう状況だよ」


「さぁねー……ズズズッ」


 一応、ここは牢屋というべき場所なのだろう。だが、トランプの中から出されて鍵を閉められたここにはきのこでできた椅子に、またまたきのこでできたテーブル。

その他にもランプや壁紙まで全て、きのこオンリーの空間が広がっている。


 そしておまけのケーキに紅茶。


 こんな空間じゃ、更生できるもんもできやしないでしょう。


《いやぁー。

ここのおやつは何度食べても絶品だねぇ》


「はぁ」


 そして正面にはほっこり顔のオッサン。

ちょっと前のシリアスな表情はなんだったんだ…………


 いや、え?


 え??

今、なんて言ったこいつ。


「何回食べてもって……

何回か来たことあるんですか⁉」


《あはは、うん。

もう十回……から数えてないかな》


 マジか。

極悪人でもそこまで捕まらないよ。


《お。また来たのか、先生》


《あはは、お世話になります》


《仕方がないなぁ》


 …………


 看守と談笑って、こちとら笑えないんですけど。


 いやほんと、ここに来て前科持ちになるとは思わなかった。

前科って…………私はショックだよ。

ショック過ぎてショッキングモールが建てられそうだよ。


《チュッ》

「例えが意味わかんねェよ」


 どうしてこんなことにっ……

ていうか、りんごって採っていいんじゃなかったの?


《チュン》

「だから言っただろ。

あいつは怪しいって」


 あいつ? あいつって…………


「あいつゥゥゥゥ⁉

私のこと、騙しやがったなァァァァ‼」


《わ⁉》


《こら、囚人! 静かにしないかっ!》


「誰が、囚じ——囚人って…………」


ズーーーーーン


 ダメだ。

囚人なんて言葉がイコール私になる日が来るなんて、立ち直れないわ。


《チュン》

「情緒不安定なやつだな、おい」


《えっと……お嬢さん。

あいつって、誰のことだい?》


「あいつ……? あいつっていうのは――


 オッサンと別れてからの話を、どんよりと、

まるできのこのようにジメジメと語った。


《あー、なるほど。

そりゃ、狐に化かされたんだね》


「…………狐っ⁉」


 狸じゃなくて⁉ 盲点だったっ…………


《チュッ》

「いや、狸まで頭にあったんなら気付けよ」


 いや、悪ドリも気付いてなかったじゃん!

サポートキャラなのにっ!


《チュンッ》

「あんなピンポイントで声掛けたやつが化けてるとは思わねェだろ。

普通、化かすやつから声掛けてくるもんだしな」


 ぐぬっ。


《チュンチュン》

「あっちもさぞ驚いたことだろうよ。

こんなバカな人間いるのかってな」


 ぐぅぅぅぅ…………! うっさいわぁっ‼


「あの狐めェ…………

今度あったらただじゃおかんっ‼」


 神なんかいなかったっ‼

みなさん。やはり神に頼らず自分の力で生きていきましょう。


 …………それか仏に頼りましょう。


プルルルル


《はい》


 えぇぇっ。


 電話の音が聞こえたと思ってさっきオッサンと談笑してた兵隊を見たら、なんとその兵隊。

持っていたフォークの武器みたいなものを折って自分の耳に当てていた。


 あれ、携帯電話だったんだ。


 そしてナイフの武器みたいなの持ってた奴。

さっき連れてこられる間に、それ使ってケーキ切ってるの見えた。


 なに? もしかして武器じゃないの?

生活用品なの?

ナイフに至っては使い方、まんまじゃん。


 改めて、訳分からん世界だな。


《そういえば、君。ここらへんじゃ見掛けないけど、どこ出身なんだい? こんな時間じゃ、親御さんも心配してるだろう》


「え?」


 あー、うんうん。

確かに、普通の親が見たら発狂事だろうね。

こんなオッサンと牢屋でティータイムなんて、私が親なら泣いちゃう。


「えーっと……

実は親どころか、家もなくてですね」


《えっ》


 驚いてるオッさん(オッサンは正気なオッサンに失礼なのでオッさんと呼ぶことにした)。


 当たり前だ。

この歳でしかもこんな美少女がホームレスなんて驚くに決まっている。

私なら家にあげてあげるね、こんな美少女がホームレスなら。


《チュン?》

「美少女? 顔面詐欺女の間違いだろ」


《そ、それって……!

じゃ、じゃあ君は、今までどうやって生きてきたんだいっ?》


 え、なんか興奮気味なんだけど。

 普通、心配だろ。心配で声枯れるくらい泣くだろ。こんな美少女がさ。


「どうって言われても……ただ気が付いたらここにいたっていうか…………」


《え…………。それって……誘拐——》


「…………え」


《……チュ》

「……あ」


 なるほど。そう取っちゃったかァ……

確かに。確かに誘拐だわ。

そして事情を知らない人からすれば、想像しただけで同情の嵐だわ。


 だって誘拐よ? 下手したら人身売買よ?

そりゃ、悲惨だわ。


《そ、それはっ、本当に、本当にっ、た、たいへっ……大変だったねっ》


 って、言いながらなんか嬉しそうなんだけど。

なんだよ。私の不幸がそんなに面白いか?

 大丈夫か、この人…………


《いや、ごめんごめん。

本人からしたらたまったものじゃないよね》


 私のドン引きを通り越したボン引きが突き刺さったようだが、オッさんのにやけた口元は上がったままだ。


《でも、私らからしたら咄嗟に期待しちゃうんだ。君が、次世代のなんじゃないかって》


 …………は?


「あの、なんで皆そんなに絵本が好きなんですか? たかが物語ですし、子どものための教育本みたいなものなのに」


《た、たかが物語だってっ?》


 え、なんか震え出し――


《君は、なにをバカなことを言ってるんだね⁉》


「バ、バカって……」


《絵本の主役や登場人物はみな、ここに生きとし生ける者たちなんだ‼

 子どものためだけなんてとんでもないっ!

 絵本になった者は英雄として語り継がれるとても名誉ある、みなが憧れるスーパースターなんだよ!》


「え、あ、はぁ……」


 凄い剣幕で半分くらい聞き取れなかったけど、えっと――

つまり、絵本の主役になった人はハリウッドスターってこと?


《チュッ》

「まぁ、遠くもないな」


《実は私も、絵本の登場人物となる次世代の英雄たちを育てる学校。バグダーラァケ学園の教員なんだ》


「ば、バグダーラァケ学園って、あの⁉」


《チュン》

「ああ。この世界のタイトルだな」


 こんなところで繋がるなんてっ。

流石、物語の世界っ。


《君も知っているようだね。

 あそこは絵本の登場人物となるに足りる素質を持つ者しか入学できない、特別な学園なんだ》


「へぇー……」


 そんなとこがあるんですかぁー。

知らないなぁー。私、このゲーム全クリしてるはずなのになぁー。

聞いたこともないなぁー。


 …………バグって怖い。


《そうだっ。君も来年、受けてみるといいよ。

 今年の試験の受付は終了しちゃったけど、君なら素質がありそうだ。

 現に、私を助けようとしてくれた。だけど罰を犯して牢屋行き。こんなに特別な出来事を起こせるような君ならきっと入学できるはずだ》


「え? い、いやぁ~」


 そ、それほどでもないけどさぁ~…………

いや、それ褒めてんの?


 ていうか、そもそも明日の未来も閉ざされちゃってるんですけど。

この状況でする話にしては明るすぎて目が潰れるんですけど。


「ていうか、もう何度も牢屋に入ってるんですよね? どうやって先生続けてたんですか?」


《ん?》


 いや、お前なに言ってんだみたいな目で見られても。


《ああ、そうか。

 君は牢屋に入ったのが初めてだから知らないんだろうけど、多分、もうすぐ――》


《またですか、先生っ!》


 そんなグッドタイミングで現れたのは…………

五歳くらいの茶髪おかっぱぐるぐるメガネ少女で――――




 彼女は、長い長い竹馬に乗っていた。


《やぁ、すまないね。スネカ》


 なんか、また変なの出てきたんですけど。




第六話 バグダーラァケ学園とは

~聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うけど、 その一時の恥がバグのように重い~ END・・・

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