私②

 この間、会社で上司にビンタをされた時に思った事がある。


 最近はAI。つまり人工知能が流行っているらしいのだが、それならば私もそのビッグウェーブに乗って一儲け出来るのではないか? ……と。

 なので思い立った私はその日の帰り――会社帰りに立ち寄ったデスゲームの会場で野生の人工知能を捕まえる事に成功した。

 本来ならば野生の人工知能ではなく、名のある博士が作った血統書付きのAIを買う方が学習効率が良かったりするのだろうが、それよりも元手はタダの方が良い。そう考えた私は別に参加者だった訳ではないのでさっさとデスゲームの会場をあとにし、自宅に野生のAIを持って帰るが――。改まって見ると、とても人工とは思えない私好みの野生味溢れるワイルドなAIで、知らない場所に急に連れてこられて警戒していたのか、エサを与えようとしたら指を噛まれてしまった。しかしまぁ、週1で筋トレをしていて鋼の肉体を持つ私には甘噛み程度のダメージだった。

 

 しかしそんな警戒心の高いAIだったが、翌日には私が敵対心を持たない主人であるという事を学習したのか、私の手から直接エサである低脂肪ドンタコスを受け取るようになり。更に翌日にはトイレもちゃんと覚え、ウンコをする前に尻を拭くようになった。

 そして更に翌日には流暢にスペイン語を話すようになるものの、私がスペイン語を理解出来なかったので急遽、元々持っていたAIに同時通訳させる事でようやくコミュニケーションが取れようになった。

 そのまた次の日。AIが自分探しの旅に出る。そもそも自我のあるAIが自分探しをする理由が私には良くわからない……が。通訳の方のAIなので放っておこう。

 もしかすると、このまま帰ってこなくなったAIが野生の人工知能になっているのかもしれない。

 それはそれとして更にまた次の日。この頃になると野生のAIも大分立派に成長し、TikTokerの中に居ても見分けがつかないくらい立派になっていた。


 なのでいよいよ金儲けを始めようかと思ったが――よくよく考えてみると、具体的には何をすればいいのかわからない……。とりあえずAIっぽくVチューバー辺りにしてみるべきか? そう――例えるなら『マジで中の人などいないVチューバー』ともなれば間違いなく世界初にして世界にただ1人。大バズりする可能性が高い。

 ……あ、いや待てよ。マジで中の人などいないVチューバーと謳ってしまうと幽霊と勘違いする鬼ギャルがいるかもしれない。

 良し。ならばとりあえずはスペイン語の通訳にでもしておいて、明日新しい別の野生の人工知能を捕獲してくるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る