第6話夢に出てきたよ

その日の晩御飯はチキンカレーにツナサラダ、付け合わせはらっきょうと福神漬、白菜のキムチだった。僕は基本的にはらっきょうはあまり好きじゃないのだけど、カレーのときは別である。スパイシーなカレーと酸っぱいらっきょうの組み合わせは最強だと思う。

妹の白音しろねはらっきょうが嫌いだ。テーブルに並べると露骨に嫌な顔をする。

しかし、これだけは譲れないのだ。

その代わりといってはなんだが、辛いもの同士で僕は合わないと思うキムチをテーブルに並べてあげる。

カレーにキムチの組み合わせは、妹の好物なので特別にテーブルに並べてあげるのだ。


晩御飯のカレーを食べながら、僕は今日出会った難波零子のことを話した。

今や唯一の肉親だから、出来るだけ隠し事はしないようにしようと思っている。

もちろん、全てをさらけ出すわけにはいかないが。

交通事故から助けるためにおっぱいを触ってしまったことは言わないでおく。

白音は僕が異性との接触をあまり好まない。ブラコンと言えばそうだが、たまに行きすぎな言動をとることもある。

なので、白音の前で異性の話をするときは言葉を慎重に選ばないといけないのだ。


「ほっておけなくて送ってあげたら、面接がギリギリになっちゃったんだよな。それで焦って面接はぐだぐだだったんだ」

僕はチキンをかみながら、そう言った。

チキンは柔らかく煮込まれていて、かなりうまい。我なら良くできたと思う。


白音はジト目で僕を見ている。

やっぱり話題としてまずかったかな。

でも、妹にはできるだけ秘密をもちたくないんだよな。そいつは分かってほしいところなんだけど。

カレーとキムチを混ぜながら、ぱくりと白音は食べる。

三口ほどそれを繰り返した。

「お兄ちゃん、親切すぎ。それで面接うまくいかなかったなんて、本末転倒だよ」

ああっ、話題としてよくなかったかな。

白音は分かりやすく怒っている。

はーあっと舞台役者のようにはっきりとした声でため息を白音はつく。


「そのお兄ちゃんが助けたっていう難波零子っていう人、どっかできいたことあるんだよね」

白音はルームウェアのショートパンツのポケットからスマートフォンを取り出す。

何やら検索しだした。

「あったあった」

白音は言い、僕にスマートフォンの画面を見せる。


僕はスマートフォンの画面を凝視する。

その画面には白いスーツを着た四人の女性が写っている。

その左端の人物があの難波零子であった。

「今年のミススノウキャッスルのメンバー発表……」

それは地元紙のひとこまであった。

ミススノウキャッスルとは一年間におよび雪城城の観光PR活動をするために選ばれた女性たちのことである。

過去にはこのミススノウキャッスルに選ばれて、そこから芸能界にデビューした者もいる。

その写真には四人の個性的な美人が写っている。そしてそのうちの一人があの難波零子だ。


「お兄ちゃんが助けたのってこの金髪の人?」

白音がきく。

僕は頷く。

「わーめっちゃ美人じゃない。それにおっぱいデカ!!」

白音は画像をガン見して言う。

白音の言う通り、ジャケットの上からでもわかるほど難波零子の胸は大きくて豊かだ。

僕は偶発的事故ではあるがそのおっぱいを触ってしまったのだよな。

手のひらにあの柔らかで温かな感触がまだ残っている。

はーもう一度触れたい。

僕は心からそう思った。


「お兄ちゃん、やめときなよ。相手芸能人だよ。私らとは違うんだよ。住む世界が違うんだよ」

白音は断言し、カレーを食べる。

芸能人、確かに僕の知り合いにそれを生業とする人はいない。

白音の言う通り、別世界の人間だ。

それでもと僕は思う。


あの時、難波零子は必要以上にぐいぐいきた。それは脈が1ミリもないとは言いきれない。オタク童貞の希望的観測かもしれないが。


晩ごはんをたべた後、僕はリビングでぼんやりと異世界転生もののアニメを見ていた。

白音は自室でマンガを描いている。

彼女は看護士をしながら、マンガ家を目指しているのだ。

何気なくアニメを見ていると僕のスマートフォンから着信音が鳴る。

ラインのメッセージだった。


「こんばんは零子だよ。お昼休憩中にうたた寝してたら、灰都君夢に出てきたねん。むふふっな夢やったわ。うちまた灰都君に会いたくなったわ」

それは難波零子からのメッセージであった。

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金髪青眼の彼女は関西弁が強すぎる 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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