魂の牢獄、「アビス」

第6話

目が覚めた。


「またこのくだりかよ。さっきやったろ。」


どこまでも白い部屋だった。白すぎて壁や天井、床の境界がわからないほど。妙に現実感のない空間だ。

気づくと両サイドに警備員。手枷、足枷がつけられている。手枷は小さな箱のようで、俺の手首から先の両手を格納して―――。


「!?」


左腕が、ある。


それどころか損傷していたはずの目は治り、全身を襲っていた刺すような痛みはなくなっている。


「なんだこれ、夢k「夢ではない!」ぅわ」


被せ気味に否定の声。

前を向くと、少し高いところに5人の“何か”が座っている。5人を“何か”と形容したのは、彼らが男か女か、人であるかどうかすらもわからないからである。

―――しかし夢の中で夢であることを否定されるとは、なんともおかしな夢だ。


「毒が見せてる幻覚か?それとも人ってのは死ぬ前に夢を見るのか、ああ、死自体がずっと夢を見ることなのか...」


「被告人は静粛に。」


カン、と木槌のなる音がする。

前方に座った5人のうち真ん中のやつが手に木槌を握って打ち鳴らしていた。


「被告人?俺が?」

「そうだ。ワールドナンバー407、セト・ダルクだな。」

「ワードナンバ?」


裁判、か。


「裁判長、夢かどうかを確認するために手枷をとってくれないか。頬をつねらせていただきたい。」

「さて、被告人、セト・ダルクだな。男性、17歳、W407のエニルク大陸の北国ノスランド出身。」


俺の頼みは華麗にスルーされ、俺に着いての情報が列挙された。死ぬ前さっきも同じようなことしたんだけどな。


「W400?のエニーズ体育?はなんのことかわからないが俺は北国ノスランドで育ったセトだ。ダルクかどうかは知らんし17歳かどうかも定かじゃねえ。」


「裁判長」


前の5人のうち一番左に座っている“何か”から声がした。全く生きた気配を感じなかったので驚く。


「被告人は混乱しています。一度しっかりとした事情を説明されてはいかがですか。」


「ふむ。」


裁判長はそう頷くと姿を変え始める。

空間が、景色が見慣れたものになっていく。


ここは―――バー?


間違いなく俺が通っていて、ガキと交戦したあのバーだ。

前方の5体も姿を変え、1人はマスターに、1人はレイン、1人は俺が初めて殺した兵士に...。


「夢、という認識も間違っちゃいない。ここは死後の世界の一段階前―――君の記憶の中だよ。」


「死後の世界―――。」


「私たちはこのバーの老爺でも君の同期でもなく、ただ君の記憶によって見た目を変える『裁判官』だから安心して欲しい。この場所バーも君が本能的に安らぎを求めた結果―――」


裁判長の言葉はとてもどうでもよかったので、途中からセトは聞き流すことにした。言葉も雨が止んだところでセトは切り出す。


「裁判なんだろ。めんどくさいから判決だけ言ってくれ。」


ざわ、と空気が揺らいだ。


「ふむ...」


「こっちは死ぬ前におんなじようなことやってんの。サクッと言ってくれ。償うから。」


再びざわついたあと裁判長が空中から巻物を取り出し、広げて読み上げた。


「懲役17267391918だ。」


「は?」


「ああ、君の世界の単位で言うと...4852万年ほどかな。」


「どこで4000万年も過ごせって言うんだ?」


アホか、という感想を飲み込んでそう質問する。懲役4000万年とか小学生かよ。


「亜空間刑務所“深淵アビス”。通称『魂の牢獄』。ありとあらやる宇宙、世界、国や地域で共通して『地獄』と呼ばれている。」


「地獄...。」


地獄で4000万年?

生涯より死後の時間の方が200万倍長いってのはどうなんだろうか。


「被告人からは『早くしてくれ。償うから。』と言った言質をとっている。減刑はなし。解散!」

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転生アサシン 夜野やかん @ykn28

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