幸奇心

野村アルモン

秘密

「魔女をみたんだ。」

少女は、はっきりとそういった。

魔女? いったいなんのことだろう? しかし、この少女は、何かを知っているようだった。

その目は真剣で、嘘をついているようにはみえなかった。

ただ、あまりにも突拍子もない話だったので、わたしはあっけにとられてしまった。

そんなわたしの様子を見て、少女はさらに言葉を継いだ。

少女の話を要約すると、こういうことだった。

この村では、昔から魔女の呪いが信じられているというのである。それは、村の中で生まれた子どもを忌み嫌い魔女が子どもをさらっていくという伝説だった。

そして、その呪いは今でも続いているというのだ。

この村には、ときどき不思議な力を持つ者が生まれることがあるのだという。そういった者たちは、みな幼いころに姿を消してしまうのだった。

もちろん、そんなことは迷信にすぎないのだが……。

しかし、少女はそれを信じているようだ。

少女の目には、恐怖の色が浮かんでいたからだ。

わたしは、少女の話を信じることにした。

いや……むしろ信じたかったのかもしれない。

もしそうだとすれば、少女がこれほどまでに怯えている理由がわかるからだ。

わたしは、少女に尋ねた。

いったい何があったのかと……。

すると、少女は震えながら口を開いた。

少女の話によると、村では今、おかしなことが起こっているのだという。

ある晩、村で火事が起こり、多くの人が焼け死んだらしい。

その火事の原因は、まったくわからないのだという。

村人はみな、必死で火を消そうとしたのだが……間に合わなかったそうだ。

そして、その火事が起きた数日後、今度は別の家でも火事が起きたという。しかも、その家もやはり、火を消すことができずに焼け落ちてしまった。

それからというもの、この村では原因不明の火事が続いているという。

それもすべて、魔女の呪いなのだという。

これは何か悪いことが起ころうとしている前触れなのだ……と。

少女はそう言った。

少女は、とても不安そうだった。

「魔女をみたっていうのは?」

わたしが尋ねると、少女は答えた。

魔女が、燃え盛る家をじっとみつめていたというのだ。

ただ、それだけしかわからなかったらしい。

少女は、続けていった。

もしかしたら、魔女は何かを探しているのではないか……と。

この村で起きている事件はすべて、その魔女が起こしているものなのかもしれないと……。

そして、少女はわたしに問いかけた。もし魔女が探しているものをみつけることができたら、呪いを解くことができるかもしれない。

あなたは、この村を救うために協力してくれるだろうかと。

わたしは、もちろん協力すると約束した。

そこで、わたしたちは明日、その魔女の屋敷に向かうことにしたのだ。

少女は、何度も何度も礼を言ってから、去っていった。

そして、翌日になった。

わたしは、少女とともに魔女の屋敷に向かった。

そこは、村外れの森の奥深くにある不気味な屋敷だった。

屋敷の周りには、雑草や蔦が伸び放題になっており、見る者を威圧していた。

扉は朽ち果てており、まるでわたしたちを呑み込もうとしているかのように不気味に口を開けていた。

わたしたちは、恐る恐る中に入った。

屋敷に入ると、埃とカビの匂いが鼻をついた。

長い間放置されていたせいだろう、空気がよどんでいるように感じられた。

しかし、幸いなことに、中には誰もおらず、荒らされた様子もなかった。

わたしたちは、ゆっくりと探索を開始した。

「それにしても、どうして魔女が何か探しているんじゃないかと思ったの?」

わたしは、尋ねた。

すると少女は答えた。

少女の話によると、魔女の日記を見つけたのだという。

少女はその日記を読んで、何かを探しているのではと思ったようだ。

そして、その中にこの村で起きている出来事と同じような記述があったらしい。

わたしたちは、屋敷の中をくまなく見て回ったが、特に変わったものはみつからなかった。

ただ一つを除いて……。

それを見つけたとき、わたしは何とも言えない悪寒を覚えた。

それは、金庫のような箱だった。

かなりの大きさがあり、厳重に鍵がかけられている。

いったい、何が入っているのだろう……。

わたしは、鍵穴に目を近づけて中を見ようとした。しかし、中は真っ暗で何も見えなかった。

そして、蓋の表面に不思議な文様が描かれていることに気がついた。

まるで、魔法陣のような形をしていた。それが何を意味しているのかはわからなかった。

おそらく、この金庫のようなものを開けるための鍵がどこかにあるのだろう。

わたしがそのことを話すと、少女はポケットから何かを取り出した。

それは、古い鍵だった。

どこで見つけたのかと聞くと、少女は答えた。

昨日の夜、家の倉庫を探索していたら、この鍵がみつかったのだという。それは、金庫に書かれている文様と同じものだった。

何故少女の家にあったのかは分からないがこの鍵を使えば、金庫を開けることができるかもしれない。

わたしは、少女の手にある鍵を受け取った。そして、鍵穴に差し込んで回した。

すると、カチリという音が聞こえた。わたしは、ゆっくりと蓋を開けた。

そこには、一冊の古びた本が入っていた。

かなり古いもののようで、ページは茶色に変色しており、あちこち破れていたり破れかけたりしていた。表紙にもうっすらとカビのような汚れがついている。

それはまるで、何年もの間誰にも読まれていないかのようだった。

わたしは、そっと本を開いてみた。

中は手書きの文字で書かれており、少し読みづらかった。

何行か読んだところで、わたしは思わず驚いてしまった。

何故なら、そこに書かれていたのは、わたしたちが探し求めていたものだったからだ。

魔女は何かを探しているという少女の予想は当たっていたのだ。

そしてこれは、少女が見つけたという魔女の日記の続きだった。

この日記によると、魔女はある子供を探していたようだった。その子供の名前はなかったが、どうやらこの村の出身らしい。

産まれた時に不思議な力を持っており、そのせいで小さい頃から村で迫害されていたらしい。

そして、ある日を境に村から姿を消してしまったそうだ。魔女はその子を見つけるために、村中を探し回っていたようだった。

そして、とうとう見つけたとあった。

だが、それは決して喜ばしいことではなかった。なぜならその子供は、すでに死んでいたからだ。しかも、何者かによって殺されてしまっていたのだ。魔女は、涙を流しながら悲しんでいた。

そして、その子の体を大事に抱え上げ、そして……。

わたしは、続く文章を読んだところで吐き気に襲われた。

思わず本を閉じて、そのまま屋敷の外に飛び出した。

そして、吐いた。

胃の中が空っぽになってもまだ嘔吐し続けた。それほどまでに恐ろしい内容だったのだ。

少女は、心配そうにわたしをみつめていた。

わたしの体が落ち着くのを待ってから、少女は言った。その本に何が書いてあったの? と。

わたしは、少女の質問に答えることができなかった。

まだ頭が混乱していたのだ。

もう一度、少女がわたしに質問しようとしたその時、少女は小さく悲鳴を上げた。

次の瞬間、わたしと少女はその場で凍り付いてしまった。

目の前に、白い装束に身を包んだ女性が立っていたからだ。

おそらく、魔女なのだろう……そう思った。

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幸奇心 野村アルモン @nomuraarumon

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