No.7 あなたはサンタを信じますか?『34丁目の奇跡』
ホー!ホー!ホー! 今日は待ちに待ったクリスマス!
みんな、プレゼントはもらったかな!? あるいは、もらったプレゼントを覚えてるかな!?
お礼を言うなら、フィルムの中にいる彼にどうぞ!
『34丁目の奇跡』
(1994年・アメリカ・114分・Amazon Prime)
【あらすじ】
クリスマス商戦に社運を賭けている老舗デパート・コールズ。その企画責任者・ドリーは通りすがりの白ひげの老紳士をイベントのサンタクロース役にスカウトする。彼は見かけもそっくりだが心もサンタで、たちまちデパートの人気者に。愛娘・スーザンも彼に夢中となったことに、複雑な感情を抱くドリー。彼女自身はサンタを信じておらず、また過去に夫に一方的に去られた心の傷から、信じていたものに裏切られる苦しみをトラウマにしていた。しかしクリスマス直前、買収を狙うライバルデパートの陰謀により、〝サンタ〟が暴行容疑で逮捕され……。
【解説(ネタバレあり)】
近代化目覚ましい90年代に、サンタクロースいるかいないか問題に真っ向から挑んだ不朽の名作。
正確には’47年の同名映画をオリジナルとしたリメイクですが(オリジナルは邦題を『三十四丁目の奇蹟』と漢数字・「せき」の字違いで区別)、元から古さを感じさせない普遍的なストーリーに、映像のカラー化、右肩上がりだった90年代アメリカのきらびやかな街並みや元気なポップミュージックなどを上乗せした完成度を上げたと言えるものです。
※ オリジナル版は別の機会に紹介済みです。本エッセイトップの概要にリンクがありますので、そちらからどうぞ。
登場する〝サンタクロース〟ことクリス・クリングル氏(この本名もサンタクロースの別名ですが)は、ステキな白ひげで
彼は自前のサンタ衣装も持っていますが、この仕立ても完璧。上質な革のブーツに、ジャケットは金ボタンに金のステッチ。ボタンには一つ一頭、あの有名なトナカイたちが名前付きで彫られています。それからリースをかたどった金の指輪。
人柄の上の教養もあり、多数の言語を操ることができて、手話までできる彼は、サンタクロース役にピッタリ(オーバースペックですが笑)。サンタは架空と教育され、8歳ながらそれを飲み込んでいた才女スーザンにも「信じてみたい」という気持ちを抱かせるほどです。
しかし、社会から見た彼には一つ、欠点がありました。それは、「自分のことを本物のサンタクロースだと思っていること」です。
過去の傷からどうしても彼を本物とは認められないドリー。賢くて“いい子”のスーザンはママにストレスを与えたくないので、クリングル氏にも難題をぶつけて証明を乞います。優しい彼は突っぱねもごまかしもせず受けて立つのですが、このタイミングで陰謀に出し抜かれ、彼は法廷にて「本物(=正気)かどうか」を裁かれる事態に陥るのです。
言葉にしてみると見かけより複雑なドラマです。
またここへドリーの“男友達”ブライアンも絡んできます。スーザンは彼にパパになってもらいたがっていますが、ドリーは先述のトラウマで踏み込めず、恋人未満の宙ぶらりんです。しかし心根の優しい彼は辛抱強く待っています。この彼が弁護士でもあったことで、クリングル氏の裁判を担当することにもなるのです。
さて、この裁判で、どのようにしてブライアンがクリングル氏を本物のサンタクロースであると証明するかが本作最大の見どころです。具体的には伏せたいですね。
ただ同時に、クリングル氏を本物のサンタであると支持するとして、「I believe(私は信じる)」と掲げる運動が街中で巻き起こります。この立役者となったのが、〝まさかのあの人〟となる展開もポイントです。
誰しもがサンタの存在を信じたいと願っている。大人は証拠がないと二の足を踏みますが、しかし、なぜ信じたいのか。それは悲哀に満ちた人生に、夢を与えてくれる存在が、できればいたほうがいいからだ――一部はこの映画そのものからの受け売りですが、実際こめられている真の想いもそういう〝願い〟なのではないか。そう思わせてくれる、〝人とサンタの物語〟です。
【オリジナル版(1947年)との違いについて】※観賞済み・すでに知ってる人向け
記事が長くなるのでどうしようかと思ったのですが、トリですし興味深かったので記します。ネタバレ配慮していますが、そもそもオリジナル版と両方知ってることが前提の話になるので、興味がなければ下の「☆☆☆」まで読み飛ばしてもOK!
ほとんどストーリーが同じリメイク版とオリジナル版の最大の相違点が、裁判シーンのオチ、ブライアンの勝ち方です。
具体的には変わらず伏せますが、印象はオリジナル版のほうが派手で説得力もあります。一方リメイク版のほうは、どことなく
確かに、エンタメ的にも興奮するものだったオリジナル版に比べ、インパクトは弱まってしまったと思います。
ただ、勝ち筋に必要だったものとして、「人々の支持」という言及がリメイク版にはありました。オリジナル版ではそれはオチそのものによって間接的に表現されたのですが、リメイク版では進化した撮影技術を使って、判決当日に裁判所周りの大群衆で表現されています。ここで両方やってしまうのは“くどい”と判断されたのかもしれません。また、「I believe運動」はどちらの版にもありましたが、オリジナル版では「(民衆の支持は)法の前では無力」のような流れになります(ゆえに論理的なオチが用意されました)。これは90年代においてはアメリカ的な寓話性がありません。民衆の支持そのものが決め手のダメ押しとなるよう、リメイク版ではあのオチが採用されたのではないでしょうか。
また個人的には、心優しくて子供の夢にも理解のあるブライアン(映画に出てくるアメリカ男にしてはめずらしい!)は好きなキャラクターなので、彼のお手柄として強調されるという点で好きなオチです。スーザンもひと役買います。さらに、「I believe運動」はクリングル氏に心を動かされた〝まさかのあの人〟のお手柄です。
リメイクのこの作品は、各メインキャラクターにオリジナルより深く焦点が当たっていました。彼ら全員で導いたと言える勝ち方のほうが、彼らの物語でもあったことが強調されていい、という
(そもそもサンタの存在証明は論理を頼みにしてはいけない、それは信仰であり、信仰であるべきだから、という切り口もありますが、小難しくなりすぎるので割愛しましょう)
(オリジナル版の派手でわかりやすいフィナーレも圧巻です。あちらは実にサンタクロースらしい夢があります!)
☆☆☆
ホー!ホー!ホー! お付き合いありがとうございました!
お気に入りのサンタクロースは見つかりましたか? 彼に〝いい子〟のあかしを頂けますよう! 来年も、再来年も! メリー・クリスマス! アンドよいお年を!!
クリスマスはおうちでキネマ2023 ~サンタ映画祭り🎅~ ヨドミバチ @Yodom_8
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