第22話 二人のファーストキス!

 金色の夕陽が神戸の海岸線を染め上げる頃、瞳と楓は吾郎の両腕に手を添えながら、静かに海辺を歩いていた。


 彼女たちの心は、昨今の奔放な言葉に揺れ動いていた。数日前、酔った勢いで吾郎が口にした「三人で付き合いたい」という言葉は、二人の心に新たな関係の芽生えを知らせる嵐となった。


 「ちょっとトイレに行くね」


楓が呟いたのは、そんな吾郎との深まりつつある関係を確かめるための逃避とも言える行為だった。彼女が離れた後、瞳は吾郎と二人きりになる。彼の存在に自然と目線は落ち着き、細やかな呼吸が愛の温度を告げる。吾郎の唇が近づく。不意打ちのような優しさに包まれたそのキスは、瞳にとって初めてのもの。幾重もの感情が波のように押し寄せ、彼女の心を温かい幸せで満たした。


「私はお花を摘みに行くね」


 楓が戻るやいなや、今度は瞳が筋書きのように事前に定められた台詞を口にする。この言葉は、二人の間の無言の了解を意味していた。瞳はわずかな後ろめたさを感じつつ、彼らを残して一人、凪ぐ海辺へと向かった。


 瞳の姿が遠ざかる中、楓と吾郎の間には柔らかな沈黙が流れた。楓の心は複雑でありながらも、何かを求めるようにじっと吾郎を見上げ、ゆっくりと目を閉じた。吾郎は静かに彼女に近づくと、慈しむようなキスを贈った。楓にとってもそれは、初めての熱い感触だった。


 そうして、三人はそれぞれ心に秘めた情を少しずつ分かち合いながら、この美しい神戸の海辺で、忘れがたい記憶を刻んだ。キスはただの接触ではなく、三人の間に横たわる感情の確かな証となった。終わらない夏の日のように甘く、しかし彼らが抱える葛藤の中で儚く揺れる。


 二人の女性は、彼に対する感情を認めたが、まだ彼らの未来は曖昧なままだった。吾郎は彼女たちのことを心から愛していたが、その思いをどう表現すればいいのか戸惑っていた。彼は瞳と楓との関係に敬意を払いながら、次の一歩を踏み出すタイミングを探っていた。


 この日の経験は、瞳と楓にとって初めての恋の喜びを教え、吾郎の心の中には未だ言葉にならない愛と迷いの沈黙が残った。確かなのは、三人が共有した甘くとろけるような時間と、いつしか言葉にせずとも伝わるはずの気持ちだけ。神戸の海風に誘われるように、三人の物語はゆったりとしたペースで続いていくのだった。

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破綻の設計〜一級建築士への夢と禁断の絆!3人の許されざる歪な恋の物語〜 鍵弓 @keybow5963

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