第38話 サスラを斬る

 俺は刀を構え、サスラも刀を構えた。奴は言う。


「……これ以上、言葉は要らないだろう」

「そうだな」


 気になることはまだあるが、今この場で奴が全て説明してくれるとも思っていない。


「「……行くぞ!」」


 俺たちは互いに距離を詰め、そして刀と刀がぶつかり合う。金属音が鳴り響き、火花が散る。激しい攻防――お互いに力と力をぶつけながら、お互いの隙を狙う戦いだ。


 隙を狙いたいが、サスラの動きにはそのようなものが感じられない。というか、この動きは――神滅流剣術か!?


 どういう理由か。こいつは神滅流剣術を模倣している。完璧にだ。


 そういえば、こいつは言っていたか、ダンジョンに生物を誘い、その知識と命を得るのだと、ならばこいつが神滅流剣術を模倣できるのも道理か。


「どうした、探索者。お前の剣術はそんなものか?」

「焦るなよ。充分に楽しんでから、お前の首を跳ねてやる」


 剣戟は加速する。俺の剣技が加速すればサスラも余裕でついてくる。ならば、どんどんギアを上げていくだけだ。さあ、お前はどこまでついてこられる?


 加速していく戦いについてこられる者はほとんどいないだろう。そう思っていたのだが、俺たちの戦いに乱入してくるものがあった。


「師匠! 加勢します!」

「私も居マスヨー!」

「二人ともっ!」


 駄目だ。今のお前たちでは、この戦いにはついてくることはできない!


 そんなことを言う暇はなかった。マリナの攻撃は回避され、デイジーの攻撃も回避される。そして反撃とばかりに二人の人形が切断された。


「なっ!?」

「ヤラレタ!?」


 二人が斬られたが、動揺するな。二人とも操る人形がやられただけだ。本人が斬られたわけじゃない。だが、二人がやられる光景に俺の動きは鈍ってしまった。その隙を見逃すサスラではない。


 サスラからの鋭い突きの一撃、俺はそれを寸前で回避。反撃に同狙いの一撃を放つが、甘い一撃だ。攻撃に仲間をやられたことへの動揺が現れている。サスラは素早く刀を振るい俺の攻撃を弾いた。そして。


 俺の腹に重い衝撃が走った。痛みは無いが攻撃をくらったのだと分かる。その蹴り攻撃は、幸い致命的なものではない。だが、俺の人形は大きな動きで後方へ飛ばされる。


 なんとか受け身をとるように着地し、すぐに戦闘の構えをとる。サスラは俺を追って来ていた。迫るサスラに、割り込む者がいた。


「うおおおおおおらあああああああ!」

「わたくしも居ることを忘れてもらっては困りますわ!」


 モクギリとマリー。ブレインズ社の最高戦力だろう二人だ。しかし。


「邪魔だ」


 モクギリが振り下ろしたパンチは回避され、次の瞬間にはその巨体が縦に割れた。その瞬間を狙うように、マリーが持つ複数の銃から銃弾の雨が放たれる。だが、銃弾の雨が奴の体に当たることはなかった。マリーが引き金を引いた時、すでに彼女の隣へサスラの体は移動していた。刹那、マリーの胴が切断される。


「……赤い剣士は私を楽しませてくれているが、それ以外は雑魚ばかりだな。どうせ倒すならば、戦闘も楽しめたほうが良いのだが……お前もそう思うだろう?」

「かもな」


 サスラは俺を意識している。その意識の隙を縫うように銃声が響いた。誰かがサスへの狙撃を試みたのだ。しかし、その銃弾がサスラに傷を与えることはなかった。黒い剣士は二つの指で銃弾を摘まんでいた。


「つまらないことをする……」

「かもな」


 数回、刀を交えた時点で分かっていたことだが、こいつを倒せるのは俺だけだろう。


 俺の後方で太い声で叫ぶ者がいた。


「撃て! 撃ちまくれ! 奴もモンスターだ! 倒せるはずだ!」



 大量の銃弾が俺を超えてサスラに迫る。その銃弾にサスラは動じない。瞬間的に俺へと距離を詰めてきた。


「お前たちは仲間同士なのだろう?」

「そうだな」

「なら、お前の近くに居れば安全だ」


 黒い剣士がにやりと笑ったような気がした。勝負を楽しむような――違うな――こいつは狩りを楽しんでいる。そう言う顔だ。


 再び俺とサスラとの剣戟が始まる。


「さあ、赤い剣士よ。お前には我を倒す手はあるかな?」

「あるさ」

「ほお?」


 即答した俺に対し、奴は興味を惹かれたように首をかしげた。そんな動きをするとは、随分と余裕があるじゃないか。


「お前は俺たちの攻撃を回避し、防御している。体が小さくなって、脆くもなってるんじゃないのか?」

「……ははっ! 分かっているじゃあないか! だがな、今の我はこのダンジョンで最強の――お前の動きを完全に模倣しているのだ! そして、我はお前など漁がする身体能力を持つのだ! 一撃すら当てられるものか!」

「完全に模倣したと言ったか?」

「ああ、完全に模倣した!」

「だとしたら」

「だとしたら?」


 お前は神滅流剣術の浅瀬しか見ていない。


 神滅流剣術閃の型――紅来。


 一瞬、ほんの一瞬。それよりもさらに速く、俺は刀を振るった。すると、どうなるか。結果は簡単だ。未来を斬った。


 袈裟切りにされたサスラの身体から黒い灰が噴き出す。


「は?」


 サスラは自分の身に何が起こったのか理解できないようだった。理解できるはずもない。未来の自分がすでに斬られていたなどと。未来を斬る。故に回避不能。本当の意味での、必中の一撃だ。


「お前……何をした?」

「教える必要は無いな。だが、この技を出させた辺り、流石だよあんた。おかげで利き腕がもう使い物にならない」


 もちろん、使い物にならないのはVRDの腕だ。腕から火花が吹いていて、内側にあったケーブルなんかも飛び出ている。これはカラスマさんに直してもらわないと使い物にならないな。刀を握っているのでやっとだ。


 サスラの顔を見ると悔しそうに歪んでいた。俺に斬られたことよりも、何をされたのか分からないことが悔しいのかもしれない。


「ぐ……くうううううっ!」


 サスラは俺から飛び離れた。そして、手に持っていた黒い刀を変化させる。それは拳銃の形をしていた。


「だが……だがな! 剣の使えない剣士など!」


 銃の敵ではないってか。わるあがきは見苦しいぞ。


 俺はかろうじて使えるほうの腕をサスラに向けた。直後、サスラの銃から弾丸が放たれた。その弾丸は俺めがけて飛んできて、俺に命中することはなかった。


 弾丸は空中で制止している。


「な……な!?」


 サスラは驚愕していた。


「何を驚いている。これは元々、お前たちの能力だろうに」

「そんな、その能力を模倣できるはずが……いや、そうか。お前、その能力を使っていたな。第二層の森で、我の記憶に保管されていたぞ。ははっ! その情報も引き出したぞ!」

「もう黙れよ」


 サイコアームの力で、空中に静止させていた弾丸を弾いた。弾丸はまっすぐに飛んでいき、笑い続けるサスラの頭を貫いた。

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